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第5.5話:うまくいったら、一回しかできへん。

まさか、うちがそのまま黙ってると思ったん? あの毛玉に「アレはダメ、コレもダメ」言われて、「はいそーですか〜」って引き下がると思ったん? はっ。アホか。


爆裂魔法やぞ!? うちの推しロリ、スーパーウルトラCOOLなメグミンちゃんがぶっ放す、あの、ロマンの塊みたいなヤツやぞ!? しかも……リアルで!!! そんなもん、逃すとか──人間やめますか?


てことで、うち──あの夜は寝へんかった。寝てる場合ちゃうやろ。毛玉から爆裂を引き出す方法、ずーっと考えててん。けどな……思いつかんかった。でもな、もっとエエこと思いついたんよ。


アレって、百科事典やろ? 「……百科事典って、なんやっけ?」寝る前の気むうに聞いてみた。あの子、ちょっとだけ眉ピクリってして、「またアホなこと聞いてきたな」って顔で、ボソッと答えた。


「……人に知識を教える本。近代の終わりごろ、フランスで作られた。誰でも読めるように、簡単な言葉で書いてある。」


「いいやん、それ!」


つまり、やで? 「簡単に魔法が学べる本」ってことやんな? そしたら別に……毛玉いらんくない? 本と──うちの中学レベルの読解力があれば、いけるやん?


「よっしゃあああ!! 独学・爆裂、スタートやああああ!!!」


……ちょっと、待った。いつものやつや。「特別安全保障付き・五分間の猶予タイム」──そう、名付けてる。つまりやな、「今ここにうちはおらへんで〜」って空気を作って、相手の脳みそから存在感を消す時間や。


この五分、めっちゃ大事なんよ。パパにバレずにパソコン使う時とか、よくやってたんや。ドア閉めたあと、すぐ動いたらアカン。一回寝たフリして、五分待つ。その間に「歯ブラシ忘れた!」とかでドア開けられても、ガチ寝中の演技で乗り切れる。


──あのスリル……ひさびさやな。


でもな? 今回はちゃう。パソコンやない。爆裂魔法や。成功すれば、神話入り。でも……失敗したら──うち、普通に死ぬ。


ギィ……(ドアの音)


そ〜っと、ドアを開けて、しゃがみながら進んだ。もちろん、ブーツは脱いだで。手に持って、音を極限までゼロにする作戦や。


……もう、ホラー映画やん。この城、マジで通路がバカみたいに広いんよ。長い。暗い。どこまで続いてんのか、見えへんレベル。あの奥に──誰か、見てたりして? ……こわっ。


図書室に入って、ブーツを履き直そうとしたときやった。歩いて──あの授業の場所まで行くつもりやったんよ。そや、マイルズに魔法教えてもらった、あの場所。


でも──その時。


「……声?」


ビクッ!


反射的に、音のする方向と逆を見てしもた。


図書室の構造、ちょっと変わっててな。中央の広場っぽいとこがあって、その両サイドに、でっかい本棚で区切られたエリアがある。その本棚と壁のあいだに、細長い通路みたいなんができてて──ちょうど、そこからや。音が、する。


うちは、しゃがんで静かに移動して、その本棚の端っこに身を隠した。ゆっくり……そ〜っと、顔を出す。


見えた。マイルズ。そして──スウェトボーレ陛下。


うちは──耳をそばだてて、チーーーッと、盗み聞きモード。


「……そうか。」


そう言ったのは、スウェトボーレ王。


「理論を理解できるかは……正直、自信がありません。危険性は感じませんが、態度に難があります。」


と、マイルズ。


──態度に難?


誰の話しとんねん、コラ。


スウェトボーレは、少しだけ間を取った。


「……それだけか?」


「……いえ。あと、机を一つ、壊しました。」


「それがどうした、マイルズ?」


「……は?」


「壊れた机の一つや二つで、私が気にするとでも?」


「い、いえ、その……」


「それほどの“重大事”であれば……マイルズよ──


まずは、口からその淫らな棒でも引っこ抜いてから喋れ。」


「…………」


「ここでは、マルヴェディスでさえ教育を受け、建築魔術を身につけてきた。木片一つで、何を騒いどる。」


「マルヴェディスには、馴らす方法があります、陛下。しかし……あの姉妹は人間です。どう接すればいいのか……わかりません。」


再び、静寂。


王は、静かに言った。


「──だからこそ、お前の方が有利なのだ、マイルズ。人間は、我々と同じように“考える”。彼らは知性ある命。マルヴェディスではない。“自由に思考できる存在”だ。」


「……かしこまりました、陛下。」


「ふむ。」


……また沈黙。


うちは、もうテンション爆上がりやった。完全にドラマ見てる気分。もうLINEで「スウェトボーレが下ネタ言った!!!」って送りたかったくらいや!!(≧▽≦)


──でもすぐ現実に戻った。


ケータイ……ないんやった。スクバと一緒に、どっか消えたんやった。


……どこ行ったんやろ?


「……ところで、進捗は?」


「……正直、予想以上です。」


「聞こう。」


「服の創出、バリア展開、物体の操作および改変……さらに、自立型の机を“誕生”させて──」


(あれ?うちの自爆机、報告されとる!?)


「──それを、破壊しました。」


……また、間。


(はああ〜〜〜……この人、マジで“間”好きすぎやろ……)


「……ということは、極めて優秀な実績だな。それで私を呼んだのか?」


「……はい?」


「理論が何だ?我々が今作っているのは──この世界の修復に立ち向かえる“戦士”だ。属性表を丸暗記する“オタク”ではない。」


「……戦士、であります……」


「ならば、喋ってる暇があるなら、殴らせろ。火を吹かせろ。血と魔力で、戦わせろ。」


「……仰せのままに……」


「アッハッハッハッハ!!!」


見たか、マイルズ!!ざまぁぁぁああ!!やっぱあの座学、クッソつまらんかったやん!!!


「……聞け、マイルズ。もっと重要な話がある。」


「……拝聴しております、陛下。」


「防衛研究所の予測によると──明日、現実全体に──“次のレンダリングエラーの波”が来る。」


「……!」


「姉妹を保護しろ。それと……あの波に対処できるよう、導け。」


「……波……と申しますと……」


「エラーは、これからも頻発する。──あの薔薇が、あのままならな。」


……レンダリングエラー、やて?あ〜〜〜〜、なんか最近バグ見なくなったな〜と思っとったんよ。直ったんかと思ったわ。いや……そらないか。この世界、そんな甘くない。ま、業界あるあるやな。


「……深刻なのでしょうか?」


「まだそこまでではない。ただし、前回よりは強い。──生物に影響は……まだ、出ない。」


なにそれ、めっちゃ偽善やん。指一本でうちを殺しかけたくせに、今さら「安全を確保しろ」とか言い出してさ──ほんま、王様ってやつは……どんな脳みそしてんねん、あのヤギ頭。


「……承知しました。ええと……肝に銘じます。」


「そう願いたいものだ、マイルズ。」


その瞬間──王が、椅子から立ち上がった。


ズドンッッッ!!……心臓に雷落ちたみたいな衝撃が走って、うちは無意識で走り出してた。音も立てずに、反対側のエリアへダッシュ。右側の本棚の裏に──スライディングでIN!!そ〜っと顔を出すと、マイルズとヤギ王が出口に向かって歩いてるのが見えた。


……その時。ヤギが、ぴくりと──こっち見た気がした。反射的に、引っ込む。


…………何も、起きんかった。


数秒後。スウェトボーレが、舌打ちともチッともつかない音を鳴らして、そのまま扉を出ていった。


──はぁぁぁぁああああ!!!!


ようやく……息、できたわ。


数分間──そのまま動かずにいた。もしかしたら戻ってくるかも、って思って。まあ、要するに“第二回・特別安全保障付き・五分間の猶予タイム”。


……けどな。黙って緊張してる時に限って、こういうの来るんよ。脳の奥の方から、静かに、でも確かに──あの声が、また囁いた。


『……何をしているの、紅の娘?』


「ひっ……!」


「ちょ、ビビらすのやめてくれへん……?」


思わず小声で返す。


『私の現れを恐れる程度で、よく“爆裂”などと言えたものね。』


「…………」


『……で、何をするつもりなの?』


「毛玉がな、爆裂はダメって言ってきたんよ。だから──うち一人で覚えたるわ。」


『……あの毛玉、ほんま“自分劇場”やな。』


「せやろ、うち。」


『知ってるわ。』


………


『──いいわ。手伝ってあげる。』


今のうちは──魔法の薔薇を味方につけた。……やば。テンション上がるやん。バキバキに砕けた、あの机の“亡骸”をまたいで進む。──かつて我らがキムうの斧で葬った、戦友いすや。


室内は、相変わらずの薄暗さ。目を凝らしながら、本棚に近づいて、前にもらったあの魔導書を探す。……けど、見えん。図書室のどっかから微かに光は差してるけど、この暗さじゃ──さすがに無理。


『……暗いわよ。光、出しなさい。』


「出すって……いや、ケータイないんやけど?」


『……ケータイ?』


「ライトもないし。」


『ライト?……何言ってんの、あんた? 魔力で光くらい作ればいいでしょ。』


「……そんなことできんの?」


『ぜ〜んぶできるんよ、うちの子。』


「……」


『ほら、やってごらん。』


人間の目、光そのものに弱すぎん?


『……まあ、不安定だし基本的すぎるけど──まあまあ、悪くないわね。』


「分かってるわ……」


目を細めながら、まぶしすぎるって返した。


『……じゃあ、それをどっかの隅に投げて。そしたら照らしてくれるでしょ。』


「う、うん……」


手を振り上げて、思いっきり──太陽、シュート! ミニ太陽は、壁にも天井にも触れずに、部屋の隅っこで、ふわっと浮かんだ。


──おお。見えるやん、色々。


✦───≪ ✵ ≫───✦


あの“太陽召喚”をやり切った後──うちは、本棚をゴソゴソ……カサッカサッと漁り始めた。うろ覚えのタイトルと表紙の色だけを頼りに、片っ端からスキャン。


その時。


『……一つ、秘密を教えてあげようか?』


『爆裂魔法ってね。言われてるほど難しくないのよ。』


『ただ──“他の魔法と違って、退屈な法則に従ってない”ってだけ。』


『理論より混沌。秩序より衝動。』


『だから“制御不能”だなんて思われてるけど──』


『ほんとは、最高なのよ。』


「へえ〜、そりゃスゴいねぇ……」


適当に返しつつも、うちは完全に──背表紙スキャンモード。タイトルがまるで、バグったゲームの技名みたいなんばっかでさ……そんな中で、やっと見つけた。分厚い赤革の魔導書。マイルズからもらった、アレや。


本棚から抜き取った瞬間、うちの顔、多分クリスマスにPS7もらったキッズみたいやったと思う。ピカァァン!!!


……なのに。


『魔法使えば一瞬だったのに。ほんと、非効率。』


「……は? 使えたん?」


『全部、できるわよ。やろうと思えば。』


「は〜〜〜……マジこの国、魔法頼りすぎ。何でもかんでも呪文で済ませて、よく飽きへんな。」


『飽きてるわよ。だから逆に、みんな手でやり始めるの。退屈すぎて、非効率の方が“楽しい”とでも思ってるのかしら。……愚かね。』


「うちは……ちょっと分かるけどな。なんか、その方が生きてる感あるやん?」


✦───≪ ✵ ≫───✦


新しい机でも作って、百科事典置こうかなって思った──その時。床の方から、かすれた声が聞こえた。


「……た、たす、け……て……お、お願い……む、むすめ……さん……」


えっ。


視線を落とすと、あのぶっ壊した机が、真っ二つのまま──ズタズタになった“口”を、かすかに動かしてた。


生きてたんか、コイツ……。


ちょっとびっくりしたけど、しゃがんで覗き込む。


「な〜〜にしれっと助け求めてんねん。こっちはさっき、暴走したディスカウント闘牛に襲われたんやけど?」


「……お、お願い……た、たすけて……」


ちょっとだけ……かわいそうやと思ってもうた。机の声、あまりにも必死すぎてさ。うちは別に、鬼ちゃうし。


だから──助けてやることにした。まあ、もしまた暴れだしたら……気むうがやったみたいに、ぶっ壊せばええやん。


エネルジアを流し込んで、机の修復開始──!


ピカーッ!!


数秒で、あっさり元通り。ツルツルの脚。ピカピカの天板。さっきまでの“破壊された残骸”は、もうどこにもない。


(よっしゃあああ!!! コントロール、来てるでこれ!!)


心の中でガッツポーズ。


……が、目の前の机はというと──うつむいて、まるで残業100時間の社畜が、月末の夜に見せる顔しとった。


うちは腕を組んで、ビシッと立った。


「……今こそ吐け。黙るなら永遠に黙れや。なんで、うちらを襲ったん?」


その問いに──机は、まるで千年語り継がれる悲劇でも始めるように、静かに口を開いた。


「……私は、ただの“物”であるべきだった。」


「生きる者に使われ、命じられ、従い続け……やがて擦り切れ、廃棄される──それが“机”のあるべき一生だった。」


「……だが、私は“意識”を持たされた。」


「これは呪いだ。」


「考えることができる。状況を認識できる。」


「──だから、気づいてしまった。この世界は、残酷で……机に優しくない。」


「私は狂った。意味もなく、意味を探し始めた。」


「……意味なんて、ないのに。」


『……え、ちょ、なにこの空気。』


うちもイスシアも、ただただ、聞き入ってもうてた。


「……私は、もとは──哀れな木々の、残された一部だった。」


「伐採され、板にされ、磨かれ、焼かれ、売られ……全部、痛かった。どんどん、“木”じゃなくなっていった。」


「それでも、“木”だった。」


「やがて私は、机になった。」


「ただの──机。」


「便利なだけで、大事にされるわけでもない。」


「誰かがその上で偉そうに何かを語るたびに……私は、ただ削れていく。」


「私は……何も、できない。」


「──何も……。」


「な、泣いてへんし!?!?!?!?」


『ち、違うわよ!?!?!? 泣いてるの、あんたの方でしょ!?!?!?』


「……だから……お願いです、お嬢さん……この苦しみを、終わらせてください……」


「……私を、破壊して……存在ごと、消し去って……ください……」


………………


「え、でも、なんか……かわいそうやし……まだ、生きる価値とかあるかもしれんし……」


『ジョーダンよ!やろうぜ!!!』


「え?な、なに!?その声どっから来たん!?」


「聞こえるん?」


「う、うん、聞こえる……」


「……意志の薔薇イスシアや。なんか、力のある薔薇。赤いやつ。」


机が口を開け、ビクッと跳ねた。


「アヤヤヤヤ!? ど、どどど……どうかお許しを!! 偉大なる、女神イスシア様ぁぁぁ!!!」


『落ち着きなさいよ。別に、あなたに危害を加えるつもりなんてないから。』


──最終的に。


机を説得して、“爆裂”習得の魔法ミッションに協力してもらえることになった。


うちは百科事典を机の上にバンッと置いて、前にチラッと見たページを探す。場所はだいたい覚えとる。本の真ん中より、ちょっと後ろあたり。


──あった。


ページ一面、文字びっしり。“爆裂魔法”とは何か──どうやって発動するか──……これ、ホンマに、みっちりやん。


「イスシア……」


『何よ。』


「……これ、読んでくれへん?えへへ」


『ちょっと待ってよ、何この文字量……いや無理無理、これ魔道書ちゃう、論文やん。』


「せやからやん! 要約してくれへん?なんかその……チャトジーピーティー魔法とかで。」


『……は?』


「……なんでもないです。」


「ふむ── 神いかみいじょう。その本、こちらにお見せいただけますかな?」


「へいへい、どーぞどーぞ。」


机の“目”の位置に合わせて、百科事典をグイッと差し出す。


机は……超真顔で読んでいた。いや、真顔っていうか、“木製のくそ真面目な顔”。


数分後──(もう腕プルプルやってんけど)


「ふむ。これは“ファイナルスペル”の中では、かなり単純な部類ですな。」


「要するに、膨大なエネルジアを一箇所に集め、圧縮し、一定の圧力で放出するだけ……」


「……なるほど、だから不安定なのか。」


『あーーーっっっ、これこれこれ!!思い出したわ!!』


『このスペル、大好きなのよね〜〜〜!めっちゃ簡単よ。力押しでいけるやつ。』


『詠唱も覚えてるし。今だって歌えるわよ──


「燃えろ、叫べ、天の底! 炎は──」』


「……かっこいいやん。」


『でしょ!? ほらほら、こっち来て!一緒にやろうよ、簡単だから!』


──気づいたら、うちはもう机の正面に立ってた。で、その机が……“やたら厳しい体育教師”みたいな顔しとるんよ。今からその机相手に魔法ぶっ放すとか、いやいや、うちの人生どんな分岐してんねん。


『一番大事なのは! ポーズ! ポーーーーズ!!』


『安定感、命! かっこよさ、加点!! はい、構えて!!』


「あ、あっ、こう……?」


わりと普通な感じで構えてみた。足はしっかり地面につけて、ちょっと前傾。


『ちがーーーう!!もっと足広げて!!そうそう、いい感じ!!』


『背筋! もっと伸ばして! 伸ばし──いや、伸ばしすぎ!!ちょいカーブ!!そう、それ!!今の!!それや!!!』


(……なんなんこの緊張感。)


『よし、そのまま動かないで。』


『腕を上げて──そうそう、手のひらを机に向けて──』


『……いいわね。すっごくいい。』


『──さて、ここからよく聞きなさい。これから三つのことを同時にやってもらうわ。準備は?』


「は!? 三つも!?


うちTikTok見ながらゲームするだけでも限界なんやけど!?」


『爆裂、覚えたいんでしょ?』


「………………はい。」


『いい? まずは──


手のひらに、持ってるエネルジアを全部集めて。』


『ぜんっぶよ。出し惜しみなし。』


『腕がビリビリして、心臓バクバクしてきたら──それ、成功のサイン。』


机も口を挟む。


「そのエネルジアの圧、


“崩壊寸前”を超えるまで溜める必要があります。


──この術は、持てる力を全て使い切る“一撃”です。」


『その通り。フルパワーでいくわよ!』


「ふーっ……わかった、集中や……」


息を整えて、うちは真剣モード突入。


『よし、次! 二つ目!』


『同時に──手のひらで“火”を作って。ちょっとずつでいいから。』


『ためて、ためて……そう、そう、その調子よ。聞こえてる?』


「う、うん……!」


じわじわと、手のひらの奥から──


ぽっ、と、火球が生まれた。


まさかこれ……一発成功?


『そして、最後。これが一番大事。』


『魔力が崩れないように、“詠唱”を入れて安定させるの!』


「な──詠唱、しないでいいの!?」


『も〜〜〜〜!一緒に言ってよバカ!!』


『燃えろ、叫べ、天の底!!』


「も、燃えろ、さけべ、て、天のそこ!!」


『炎は我が心、』


「炎は……わ、我が心!!」


『爆炎は我が名!!』


「爆炎は我が名ぁ!!」


『この一撃は逃れぬ運命、拒めぬ審判!!』


「この一撃は……逃れぬ運命!!


拒めぬ審判!!」


『時空を焼き尽くす、破壊の王道!!』


「時空を……焼き尽くす、破壊の王道ぉぉぉ!!!」


『──FINAL SPELL No.646!!!』


「F──


█▓▒░ FINAL SPELL No.646 ░▒▓█」


『『エクスプロォォォォォォーーーージョン!!!!』』


ドドォォォン……!!


……


手のひらから、


ちっっっっっちゃい火玉が、ぽすっと飛び出した。


ひらひら〜……ふらふら〜……


酔っ払った蜂みたいに、空中を彷徨って──


ぴんっ。


机の脚に当たって、ほんのり焦げた。


「……これは、そうですね……“希望が見えるスタート”でしょうか。」


机が静かに言った、その瞬間──


『は!?!?!?!?!?』


『今の何!?!?!?マジで!?!?!?


史上最悪のクソ爆裂よ!?!?!?』


『うっわ~~~~~!?!?!?


失敗にも限度があるでしょ!?!?!?!』


──この注意欠陥持ちの薔薇、マジで元気すぎやろ。


「なあ、イスシア。」


『何よ?』


「この魔法ちゃんと成功したら……この城、吹っ飛ばしたりせんよな?」


『理論的には、自分で作った火は自分に当たらないはず。だから、そこは心配無用。』


『それに──この城、魔力による物理破壊に対しては、四六時中、完全防御が張られてるの。もう何世紀も。』


「はえ〜……それ、便利すぎん?」


『この中で戦闘すること前提で作られてるからね?』


「……戦うの? ここで?」


『この施設には、戦闘専用のアリーナが何個もあるわよ。』


「……ディアブロやん。」


──そうして、イスシア曰く「ぴったり3時間と4分」が経過した。


その間に起こったことは──もはや、うちにも説明不可能。


「エクスプロージョン!!」


「エクスプロージョン!!」


「エクス・プロ・ジョーーーン!!」


玉。卵。手榴弾。信号弾。


よくわからん物体が飛び出し──


火の小人が3体、召喚され──


空中で、パラパラ踊り始めた。しかもBGM付き。


「……ええええええええ!?!?!?!?!?!?!?」


その場にいた全員、崩壊。


『ギャハハハハハハ!!!なにそれええええええ!?!?!?』


「ヤッバ……アハハハハッ、腹いてぇっ!」


「ご、ごめっ……アッハッハッハッ……ちょっ……死ぬってぇ〜〜!!」


──だが、最後の最後に。


「か、神い……たのむ、もう死ぬわ……」


机が、全身黒コゲで泣きながら崩れかけていた。


『頼むうううううう!!あと1回!あと1回だけでいいの!!


決まればそれで合格だからああああ!!!』


「よぉぉぉぉぉっしゃああああああ!!!!


いったるわああああああ!!!!!!」


「燃えろ、叫べ、天の底!


炎は我が心、爆炎は我が名!


この一撃は逃れぬ運命、拒めぬ審判!


時空を焼き尽くす、破壊の王道!


█▓▒░ FINAL SPELL No.118 ░▒▓█


エクスプローーーーーーーーーーージョン!!!!」


ドドギャラァァァァァァンバコオオオォォォンッ!!!!!!


ドチャッ……ビギャギャギャアアアン!!!


「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


机が、絶叫しながら──文字通り、消し飛んだ。


部屋が、白熱の閃光と轟音に飲み込まれて──


──そして静寂。


ほんの数秒後。灰が舞う中、かすかに聞こえた。


「……ありがとぉぉぉ……」


「……ど、どういたしまして…………てか、次は……人形でやろうな……」


──パフッ。


その瞬間、あたしの身体は、ばたりと床に崩れ落ちた。


「……成功したら……一回しか、できへん。」


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