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第5話:ちょっとだけ机を高くしようとしただけやのに!?

あの図書館──でっっっっっっっっっっかかったわ。


魔法で服をつくる謎の儀式を終えたあと、マイルズはそのまま「1203号室」まで案内してくれた。(うちらの部屋から、たった三つ隣やった。)で、目の前のドアよ。バカでかい。マジで、“ラスボス戦の直前の部屋”かってレベルの迫力やった。毛玉いわく、ここは「第4図書室」。しかもこの城には、全部で六つも図書館があるらしい。


「マジかよ……本オタクの楽園か?」

「それぞれ内容が異なります」と、マイルズが言った。「この部屋には……“魔法の百科事典”が保管されております」

「……百科事典?」顔しかめた。「なんかもう、その響きだけで眠たくなるんやけど。」

太ももをポリポリかいてた。この茶色い布、マジで……なんかムズムズする。スカートじゃない。っていうか……でっかいナプキンを脚に巻きつけられてる気分?気むうはというと、周囲の本棚をじーっと見つめてた。めっちゃ静かやけど、目がちょっとキラキラしてて──「あ、この子、今テンション上がってるな」って、すぐわかった。


んで、うちはというと……相変わらず布にムカつきながら、人生の真理をぽろっと口にした。「マジでさ……ウンコって、便器に流すもんやろ……」

図書館の奥には、ちょっとした教室っぽいスペースがあった。長い机が一つ、椅子が二つ。そして──なぜか階段の上に設置された黒板。うちはその机の端っこに、かっこよく腰かけてやった。何を言い出すか、この毛玉先生の話でも聞いてみるか、って感じで。気むうは普通に椅子に座ってた。相変わらず静かで、ノーリアクション。


猫──じゃなくて、マイルズ先生は、黒板の前にふわっと浮いて、めっちゃ“教師してます!”な雰囲気で立った。(いや、黒板、あんたの四倍ぐらいあるけどな?)そして、声を張ってこう言った。


「さて、お嬢様方。本日より、防御のための魔法訓練を始めます」

……うん。“やる気満々の新任教師”って感じ。でも、こういうタイプってさ、三週目くらいには絶対「うるさぁぁぁい!!!」って叫ぶやつやん。うちはというと、机の上で、できるだけクールに見えるようにポーズ決めてた。(──かっこいい女主人公って、だいたいこうやろ?)

「では、そろそろ始めましょうか。スウェトボーレ陛下は、お二人に“元気に戦っていただきたい”そうでして……どうやら、近いうちに任務があるようですよ?」

「へぇ〜」うちは、指先をジロジロ見ながら答えた。(……なんか知らんけど、その時の自分、めっちゃ“お嬢様感”出してたわ。)

「ではまず、“エネルジアのバリア”から始めてみましょう」

「バリア? ぷっ、なんか地味やな〜」

「神い、さっきから“地味”って二回目やで。猫に授業させたれや」

気むうが、椅子に座ったままボソッと言った。


「ちっ……」

猫──いや、マイルズは魔法で横の本棚から一冊をスッと取り出して、そのまま目の前にふわ〜っと浮かせて開いた。


「ではまず、お肌全体にエネルジアを集中させてみてください。服を作れたなら、これもできるはずですよ。さあ、どうぞ!」

「ん。」

うちは軽くうなずいて、心の中で思った。(……なんやねんこの授業。爆発魔法はいつ出てくるん?)目を閉じて、エネルジアを身体に巡らせてみる。そして──感じた。青いオーラが、肌全体を覆ってる。見えたんじゃない。感じたんや。


……え、なにこれ。今、“色”を……触って感じてる……?──うそやろ。ほんまに意味わからんて。


「で、次は?」

「はい、そのまま……ずっと維持してください」

「ずっと?」

「ずっと、です」

「……ずっと」気むうがボソッと言った。


「そう。ずっと」

「……ずっと……」うちも最後にまとめるみたいに言った。


──いや、結局、“ずっと”ってどのくらいやねん……?


「なあ、これって結局……何のためなん?」

「では、一度エネルジアを解除してみてください」

「へ?……うん、わかったけど──」

──ドンッ!


いきなり、腕に拳が飛んできた。


「いってぇぇぇえええ!?!?何すんねんこの毛玉!!」

「……バリアを張ってください」

「……はいはい、今やったで」

──ドンッ!


また殴られた。


「……おぉ。さっきより痛くない……てか、最初の一発マジでアウトやろ!?!?」

「ふふ……こうすれば、“理解できませんでした”とは言わせませんので」

「よし、じゃあ今度はもっとエネルジアを強めてみて」

「ふむ……わかった」

目を閉じて、“あの感じ”を全力で集中させてみた。そして──気づいたら、バリアが目に見えるようになってた。


「おっ、いいですね!その調子です!」

──ドンッ!!


また殴られたんやけど!?!?なんで!?!?!?女子に手ぇ出してええ世界なんここ!?!?!


「……今のは、ちょっとした“タッチ”だけやな」

「ほらね?うちは最初から、同じ力しか使ってませんよ?」

「へぇぇ……すごいやん……」

「……けど、ちょっと気になるな……」

「君。そこの子。気むうさん、来てください」

「……?」

気むうは静かに立ち上がって、マイルズの前に立った。


「もうバリア、使えるようになった?」

「ん」

「じゃあ、普通につけてみて。お願いね」

気むうは小さくうなずいた。──そして。さっきと全く同じ拳が、気むうの腕に振り下ろされた。正直、そこそこ強そうに見えた。うち、反射的に止めようとしたけど……寸前でやめた。


「……どう?痛かった?」

「……ちょっと触れた、だけ」

「……ふむ。神いさん、通常のバリアに戻してくれますか?」

「え〜……やだ」

──ドンッ!


また殴られた。ほんまにこの毛玉、容赦ないな。


「痛かった?」

「……うん。でも、耐えられるくらい」

「うん、やっぱりですね。神いさん──“バリアの適性が低い”みたいです」

「は?」

「簡単に言うと、バリアが弱い体質なんですよ。この技術自体は非常に単純で、失敗することはほぼありません。ですので、これは技術不足というより……生物的な差異ですね」

「……あ、そう。じゃあ、うちは魔法の才能クソってことやな。スライム以下の雑魚キャラってわけか」

「いえいえ、この現象は魔力量とはあまり関係がありません。実際、これを持ったまま上位に立っている者もいます」

「へぇ……てか、“魔力レベル”とかって、ほんまにあんの?」

「ええ。まあ、“そういう名前”ではないですが……概念としては存在します」

そっか。うちはテキトーに言っただけなんやけど、実際にあるんかい。てかさ、魔法があって、レベルがあって、スライムがおって……もうこれ、普通にJRPGやんけ。気むうは、また何も言わずに椅子へ戻った。


「で、先生。うちら、次は何すんの?」

「うーん……えっとですね……ちょっと待ってください、たしか……このへんに……」

毛玉は、黒板の後ろにある謎の宝箱をゴソゴソし始めた。(──え、なにその箱。あったん?うち、全然気づいてなかったんやけど)カサカサカサ……毛玉、真剣な顔で何かを探してる。うちらは目を合わせて、そのまま“毛玉探索劇場”を無言で見守ることにした。(……なんか、こういうの、謎に見入ってまうんよな……)

──マジでさ、あの瞬間、うちの脳内では“時オカの宝箱開ける音”が流れてたわ。


マイルズが取り出したのは、茶色い布一枚。テュルルルル〜〜〜ン!!!見た感じ、柔らかそうやけど……シワッシワ。アイロンどこ行ったんや。


布をふわっと浮かせたまま、マイルズがうちの前までやってきて、言った。


「はい、これを魔法で“何か、全身を覆える形”にしてください。──まあ、なんでも結構です」

「う、うん……オッケー……」

布を受け取って、じ〜っと見つめる。うーん……どうしよ。やっぱ、こういうのって──“魔導士のローブ”っぽいやつが無難やんな?よしっ、イメージして……カット、カット、カット……カット……完成っ!!──ローブ!!!茶色の!!!…………うん、うん……だよね〜〜〜〜〜〜〜〜〜……

うちはローブを着た。教会に連れて行かれる猫くらいのテンションで。布を持って、まずは右腕。次に左。最後に──フード。


マイルズが、じーっと見てた。……うん、あの顔や。“意味ないけど、よくやった”ってやつ。ゲームで、「○○を100回使った!」ってだけで出てくるクソ実績。あのノリ。


うちは周りを見渡した。気むうの表情は……読めん。びっくりしてるのか、感動してるのか、ドン引きしてるのか。てか、フードのせいで視界も悪い。余計にわからん。


「……いかがですか?」って毛玉が聞いてきた。


「これ……」

「クソやん!!!!」

「うち史上最強のクソファッション!!!!」

即脱いだ。


「だ、だめですっ!そんな簡単に脱がないでくださいっ!」

マイルズが焦って飛んできた。


「この布は、バリアの補助効果があるんです。つまり、身に着けることに意味があるんですよ!」

「……はいはい」

もう一回、着た。今度は、フードなしで。ちょっとだけ、現実を受け入れた顔になってたかもしれへん。


そのあと、毛玉に「座ってください」って言われて、うちは机の前に座らされた。で、始まったわ。授業。


──まるで、高校の授業で「人生終わってます」みたいな顔してる先生のテンションやった。


言ったっけ?この異世界に来る前、うちは普通の女子高生やってん。まあ……“普通”って言っても、うち的にはな。


授業は──マジで聞いてへんかった。ずっと。けどまあ、別に今に始まったことやない。学校の授業中でも、うちはだいたい──鼻ほじったり、ガム噛んだり、あと……うん、例のゴム風船で遊んだりしてた。(あれな、完璧やで。サイズちょうどええし、めっちゃ伸びるし、ペンケースとして最強やったもん)

ただな、問題はそこちゃう。それを買うとき──スーパーで普通に「それください」って言ったら、レジのお姉さんの顔がピクピクしてたんよ。「……なにに使うの?」とか言いたそうな顔して。いやいや、理科の実験とか、普通に収納とかに使ってるだけやし。15歳女子でも、そういう使い道あるってば。なにをそんな大ごとにすんねん。


で──今回も、そんな“いつもの授業態度”が発動してん。ただ一つ違ったのは……

今回は、“あれ”がなかったってこと。


「はい、ではですね。お手元の本を開いてください。15ページです。右側に、“魔法の種類”が図でまとめられております。代表的なものだけですが──」

ああもう……無理。眠すぎ。さっきから、まぶたの戦争が止まらん。


ってことで、うちは定番のアレに入った。とりあえず、教科書をパラパラ。なんか変な絵ないかチェック。これ、昔からよくやってた。授業中、暇になったら──ページめくって、変な図探し。それが唯一の希望やった。


特に好きやったのは、生物の時間。ページ256。もう固定のやつ。そこに載ってるのは──立派な○○○。パーツ全部にラベルついてて、ちゃんと図解されてて、光も当たってて、尊い。ありがたや……

でも、面白そうな図を見つける前に──マイルズが、なんか気になることを言い出した。


「お嬢様方。この世界には、様々な“魔法の系統”が存在します。多くは“属性魔法”です。たとえば──火を操る“炎魔法”、植物を用いる“樹魔法”、水、風、天候を操る“気象系”の魔法など……他にも、“闇魔法”や、名前は曖昧ですが“魔族系”──つまり、悪魔やサキュバスを使役する魔法もございます。そして、“攻撃特化”の魔法も存在します。ダメージを与えるためだけに設計された魔法ですね……」

延々と続く。魔法、魔法、魔法。もうマジで、パンフレット読み上げとるだけやんけ。完全に聞き流してたその時──

「……“爆裂魔法”というものもございます」

──爆裂って、何それ!?


バッと起きた。──それ、それや!うち、それ習いたい!!今すぐ教えて!!


マイルズが静かにこっちを見た。


「……落ち着いてください。今は理論の段階です。爆裂魔法は、そう簡単に教えられるものではありません。おすすめはしません。極めて不安定で、扱える者もごくわずか。まずは、より安定した魔法から始めるべきです。たとえば“インフーガ魔法”──爆裂に近い性質の魔法も、そちらには存在します」

腕を組んだ。強めに。毛玉が……毛玉のくせに……断った!?いやいやいやいや、あんた、個人指導って言ったやん!?でも、このまま終わるわけにはいかん。いやいや、ぜったいに。


次の一手を考えながら──毛玉がまた、延々と魔法語りを続けてた。「魔法の分類方法はいくつかありまして……その中でも、先ほどのものはかなり細かい部類で……」

──その瞬間。ひらめいた。気むうはちゃんと話を聞いてたけど──うちは、迷わず横から手を伸ばした。


「しーっ!こっち見んなや!」

小声で言って、本をひったくる。気むうは「……ok」って顔で、そっと引いた。


うちは例のページ──15ページを開いて、例の図を確認した。魔法の系統名の横に、ちっちゃく数字が書いてある。たぶん、それぞれの解説ページや。探した。“爆裂”。あった。ページ334。めくった。即。


《爆裂魔法》

説明:爆発する魔法。


ランク:???(正確には不明)

……なんやねんこの雑な説明。


でも続きがあった。ページは数枚だけ。1ページにつき、1つのスペルが載ってる。(てか、“スペル”って英語表記なんやな。どこの国やここ)全部で……5つくらい?


最初のスペル:SPELL No.641 ── ファイアクラッカー

……うちの声だけで、もう騒音足りてるわ。


次──MAGIC SPELL No.644 ── トレント・オブ・マインズ

ほう……ちょっと興味あるけど、ちゃう。


で、最後のページ。FINAL SPELL No.646 ── エクスプロージョン

──コレや!!!!!!!!


説明文を速攻で読んだ。


「手のひらに球体を生成し、十分にチャージされたのち、大きな──」

──バンッ!!


本が顔の前で、勢いよく閉じられた。


「うわっ!?なにすんねん毛玉!!」

「……だから言いましたよね? “爆裂魔法のことは忘れてください”って」

「今、大事なとこ説明してるんです。集中してください」

うちは、顔だけゆっくりとそっちに向けて、眉間にシワ寄せた。全力で。


というわけで、うちはまたしても、毛玉の授業を“聞くことを強制された”。


でもさ……なあ、わかってるやろ?


うちが授業に集中するわけないやん。


それってもう、地震の最中に「はい、静かに正座してましょうね〜」って言われるレベルやで。ムリ。脳が爆発する。


なんとか最初の三秒くらいだけ、意識を保った。


「はい、では魔法の分類は以上です。次に、“エネルジア”について見ていきましょう

エネルジアとは何か、どうやって測るのか、その単位は──」

ブーーッ。終了。うちの脳、強制ログアウト。


その時ふと見たら──毛玉、物を触らんでも動かしてるんやな。……ってことは?「うちにも、できるんちゃう?」よし、やってみよ。手を、そっと向けて──バレへんように……バレへんように……魔法感出すために、頭の中でこう言うた。「エネルジア、アクティベーション。」(↑カッコいいから言っただけ)

そしたらな──浮いた。毛玉が、じわじわじわ〜〜〜って浮き始めた。全然気づいてない。まだ喋ってる。ずっと説明してる。なのに──1メートル。2メートル。3メートル突破!!


「……え?ちょ、神い?え、なになに?なんか高くない!?!?!?!?うち今、地面から三メートル上やけど!?!?!?!?!?!?!?」

「降ろしてぇぇぇぇぇええ!!」

うちは手を離した。ポンッ。ふにゃっ…て落ちた。でもなんか、空中で“ポヨン”って止まった。あれ、たぶんシステムが「これ死ぬやつや」って判断したんやろな。毛玉は無事、地面にふわっと着地。髪の毛ちょっと乱れてた。魂もちょっと乱れてた。


「……では。授業を続けましょうか。今の出来事は……なかったことにしましょう。一生……記憶から……消しましょう……」

うちは、口を手で押さえて、必死で笑いこらえてた。気むうの方を見ると──あいつも、微妙に顔ひきつってる。無表情のプロフェッショナルが、「今、笑いそう」って顔してるってことは……これは相当ヤバかったんやな。いやもう、うち、天才かも。


で、考えた。次、なにしよ。その間にも、毛玉はしゃべり続けてた。


「いいですか、お嬢様方。“パワーレベル”というのは、“パワーユニット”で測定されます。最小単位がそれでして──そこから、“インケ”、“メガインケ”、“スープラインケ”と、大きくなっていくわけですね……ちなみに、インケ一つは、パワーユニット100個分です」

ちょっとだけ興味出た。ほんまに、ちょっとだけ。でも、授業より、いたずらや。そろそろ、毛玉が棚の方に近づくはずや……ふふふ。今回はもっと伝説になるで。


そして、まるで“運命”がうちに微笑んだみたいに──毛玉が、ついに本棚の近くに寄った。うちは、“聴いてるふり”モード全開。顔は真面目。でも、手は犯罪準備中。


「さて、こちらの数値ですが……“エネルジア測定装置”という──まあ、名前は色々ありますけど……“エネルジメーター”とか……“魔力カウンター”って人もいて……えー……えーっと……」

うちはすでに“スナイパーモード”。適当に選んだ本、浮かせて。微調整。1センチ……2センチ……よし、いい角度や。


「この機器によってですね、魔力の……単位を……計算し──」

バゴォォォォン!!!!


直撃ィィィ!!!!


毛玉、頭にズドン。そのまま、パタン……って床へダウン。


うちは、真顔で「え、なに?」って顔した。気むうは手で口を押さえてる。笑いそうで。毛玉はゆっくり起き上がって、めっちゃ真顔で言った。


「……いたっ。……こ、これは…………誰かが、本をちゃんと戻さなかったのかな……」

ちがうで。うちや。


ランダム本 + 浮遊魔法 + タイミング = 完☆全☆犯☆罪。


気むうは、もう机に突っ伏してた。腕で顔を隠して。まるで授業中に泣いてる子みたいやった。でも、たぶん泣いてなかった。……いや、泣いてたかも。でもそれ、笑いすぎて涙出てたやつ。信じて。


文字で読んだらそこまでかもやけど──あの毛玉の落ち方、ガチで反則やった。ちょ、待って、思い出しただけで笑いそうやもん。うち、マジで……「ぷっ……!」ってなって、危うく変なもん吹き出すとこやったわ。


慌てて口押さえて、机トントン叩きながら、「ぷ、ふふっ……あっはっはっは……!」

耐えろ、神い……!これは“魔法訓練中”や……!


笑ったら、また怒られる……!


毛玉は、なんとか授業を再開しようとしてた。でも、うちはすでに次の伝説を生む準備に入ってた。今回のターゲット:机。ぐい〜〜〜んって伸ばして、天井に届くくらいにして、マイルズがこっち見て「……え?」ってなる。で、うちらはその脚の間で、「なんやこれ?知らんし」って顔してる。そんな感じ。


ただな、物を作るのも動かすのもできるけど──“変形”はやったことない。でもまあ、どうせエネルジアでなんとかなるっしょ。全部そうやし。ってことで、試してみた。


毛玉はまだ話してる。


「えー、野生環境でも生存可能な個体は、おおむね1万3千インケを超える必要があります。一般成人の平均は2万〜15万……優秀な者では30万、もしくは……10万……いや、100万……」

──ふーん。数字、測定器、戦闘力。いかにもって感じやけどさ。正直、どうでもええ。3300万インケ持ってる相手でも、うち、たぶん勝てるし。むかついたら、全力でブチかますだけやから。


ふうっと息を吐いて、机にエネルジアを流した。机が、震えた。……いける!!脚が伸びてる。じわじわと。ぐい〜〜〜〜〜〜ん。


……でも、その時。おかしいことが起きた。想定外。しかも、とんでもない方向に。


机の側面に──ひび割れが入った。ほんの細い、線みたいなやつ。でも、そこから何かが……盛り上がってきた。二つの膨らみ。木目が膨らんで、──そして。顔になった。それは、絵でもない。デザインでもない。“顔”やった。


苦しそうな、眠りから叩き起こされた神の顔。目が、開いた。……まばたきした。


「……目ェ!?!?」

続いて、口が。にゅるっ……と現れて。表情を作った。怒ってる。泣いてる。恨んでる。覚悟してる。その顔、周囲をゆっくり見回して──片眉を、ぐいっと上げた。完全に“ザ・ロック”。


んで──言った。


「誰が……我の、聖なる眠りの上に……本など置いたァァァァァァァ……!」

「ヌワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

叫んだ。魂の底から、森羅万象への怒りと共に。その瞬間、うちは悟った。──終わった。


そいつは、怒り顔のまま……くるくる回り始めた。机が。ぐるぐる。


ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!!


木の脚が、床をぶっ叩く音。まるで“地獄の家具ダンス”。その動きは、“机ができる最大限のターン”。バカっぽいけど、本気。


ぐるりと回って──視線、ロックオン。マイルズや。固まってる。


「……なにこれ……」

──それが、彼の最期の言葉になった。


机が──前脚2本で立ち上がった。前傾姿勢。そして。


ドドドドドドッ!!


突進!!


完全に、机界の闘牛。


「うわあああああああああああああ!!!!!!」

バコォォォン!!!!


マイルズ、吹っ飛んだ。空中飛行。空気の摩擦。宿命の衝突。


壁──破壊。


「ガッ!!!」

ヒビが走った。


そして──ドサッ。落下。完全敗北。1ヒットKO。


机、最強。マイルズ、がくりと首を上げて、最後に叫んだ。


「ありえない……!お嬢様方……何をなさったんですかああああああ!!?!?!?!?!?!?!?!」

その机──怒りすぎて、泣きそうやった。


「許さん……!


許さんぞ……! 我が聖なる安息の上に、本を……物を……いくらでも置きおってぇぇぇ!!


今の世に……机へのリスペクトはないのかッ!!?


ドガン!! バゴォォン!!!


再び突進!! 今度は、うちらに向かって──!!


ドゴォン!!! ぶっ飛ばされた。吹っ飛ばされた。後ろにあったドアまで一直線。ドカン!!!


ドア、ミシィ……ッ!!って音した。ひび、入った。ギリギリ、壊れてへん。骨も──セーフ。でも、死ぬかと思った。


「ちょ、ちょっとぉぉぉ!? お嬢様方、なにかしてください!! あの机、完全に暴走してますッ!!!」

「はあ!? うちに言われても知らんしッ!!」

(※完全に犯人の反応)

机はもう完全にブチ切れてた。部屋の中を、ドドドドドッ!!ドゴォン!!って暴れ回りながら、完全に“荒ぶる闘牛家具”。


「ブーラブーラブーラブーラブーラアアアアアアアアア!!!!!!」

気むうが、横でポツリ。


「……え、なにこれ。ねえ、姉ちゃん、なんで机がバグってんの?」

(……考えた。さて、どうしようか。やるしかない。よし──)

「机くん! あっち見てぇぇぇ!!!」

「え!? どこ!?」

机、素直に反応した。


(チョロい!!!!)

うちは即座にエネルジアをぶつけて、机を捕まえた。そして──浮かせた!!! めっちゃ勢いで持ち上げた!


「ここ、なんもな──ウォアアアアアアアアアア!!!」

「気むう!撃て!!」

「え、でも──」

「でももクソもない!!撃てぇ!!」

気むう、立ち上がって、手のひらを向けて……パンッ!! 魔力の火花──なんかよくわからん火の玉(?)が飛んでった。命中。……何も起きなかった。


机、ピクリ。


ブオオオオオオオオン!!!


大暴れ。


「ワワワワワワワワワワワワァァァァァァァァァ!!!!!!」

(あかん、エネルジア、手からすり抜けた……)

そして、机は叫んだ。


「虫ケラどもがァァァァァァァアアアアア!!!!!!」

「このクソ机ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

「ニャアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!


貴様らは裏切り者として……グランドテーブル監獄にて一万年の刑に処されるのだああああああああ!!!」

「そんなもん、するわけねーだろこの生木野郎!!!!!」

そう叫びながら、うちは思いついた。


「くらええええ!!!」

手から──炎。出した。出したというか、“絞り出した”感じ。そのまま机の顔面に──ボッ!!


「アハハハハハハハ!!! 燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ!!!」

机は、目を閉じた。顔をしかめた。でも──燃えなかった。


「……は?」

「アアアアアアア、それ“ぬる火”ですよ!!!」

と、どこからかマイルズの叫び。


「ぬる火……?」

「ってことは……」

「燃えない!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

「いやああああああああああああああああ!!!!!!」

机は、ついに限界を超えた。歯をギリッと噛みしめて──回転開始。コイツ、回るぞ。メチャクチャ回る。


「ダブダブダブダブダブダブダブダブダブダブダブダブダブダブ!!!!!!」

「ちょ、ちょ、なにその回り方!?!?」

そして──突進。神いに向かって、回転体当たり。


「いやああああああああああああああああ!!!!!!」

ドガァン!!!!!!


また壁。また神い。また同じ壁。もうやめて。


……と、そこに現れたのが、気むう。頭脳派。寡黙。でも、頼れる妹(救世主)。うちらがドタバタしてる間に──あいつは……“斧”を作ってた。


ゴリッゴリの石製。刃だけじゃない。柄も石。全部、石。両手で持ち上げた。めっちゃ重そうやった。たぶんほんまに重い。ゆっくり立ち上がって、くるくる回り続ける“魔の机”を見上げながら……

気むうが、力を込めて。


「い……やあああああ……ッ!!」

ガッ!!!!!!!!


ズドオオオオオオオオオオオオン!!!!!!


机、即死。


「ウワアアアアアアアアアアアアア……」

最後に、木の奥から響くような、重くて湿った声のエコーが残った。


机、地面に──真っ二つ。完全沈黙。


「……悪魔かよ。」

「……神さま……」

うちとマイルズが、同時に呟いた。


気むうは、肩で息をしてる。斧をまだ握ったまま。


「……ふふっ……」

「ふはは……」

「アハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

全員、大爆笑。


「神い!吹っ飛んでった時の顔、マジで伝説やったぞ!!」

「お前が言うなや!最初に机に飛ばされた雑魚誰やと思っとんねん!? “お嬢様方、なにかしてください〜”とか泣き入れてさ!」

『……くだらない戦いだったな、少女。』

──イスシアの声やった。


『……今、忙しい。話しかけるな。』

(はい……)

まぁ……

なんやかんやで──

初日としては、悪くなかったんちゃう?

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