第4話:魔法姉妹スタイリッシュ☆インカム!!
最初に感じたんはな……なんか、めっちゃ軽いってことや。軽すぎるってレベルやで。手首にも、腰にも……なんも付いてへんかった。
あのセーラー服、──どこ行ったんや?……え、ちょ、待って? うち、今──裸なんか???
いやいやいや、勘弁してぇや……それだけはマジで無理やからな、ブロ。いやいやいや、待って待って待って!? うち、脱がされたん!? あいつら、正気か!?!? なんちゅう無礼やねん……!!
バッと目ぇ開けて、うち、上半身をズバッと起こしたんや。そしたらな──ベッドやった。しかも……アホみたいにフカフカのやつ。真っ先に確認したのは、自分の身体や。
……ふぅ。とりあえず、下着は無事やし、それ以外も──ちゃんと着てた。けどな、これ……なんやろ? パジャマ? ちゃうわ。全身をふわっと覆う、薄い布みたいなやつ。けど、足に絡まってて……めっちゃ軽い。
──はぁ。一瞬な、もううち、どっかの変態儀式で“儀式的に”穢されとるんちゃうかって思ったわ。異世界レイ系イベントとか──ホンマやめてくれ、な?
それから、周りを見渡してみたんや。手ぇを頭に当てながらな。昨日のドタバタの影響が……もう脳に来とったわ。最後に覚えとるんは──うちが床にぶっ倒れた瞬間や。あの、“部屋番号1200”っちゅう悪夢のゴール地点にたどり着いた時のな。
で、今。目を開けたら……そこには、ディズニープリンセスもびっくりな部屋やった。家具より空間の方が多いわ。ベッドはフカフカやし、天蓋付きやし、カーテンまでついとるし。なんなんこれ、お姫様ブーストMAXやん……。
──ああ、これが“例の部屋”なんやろなって、勝手に納得したわ。
気むうは、向かい側のベッドで、まだ爆睡中やった。まるで、転がしても起きへんレベルの丸太や。……いやマジで、昨日まで牢屋暮らしやったのに、今日はお姫様対応って──ギネス更新ちゃう?
そのときや。なんか変な音で目ぇ覚めたって思って、下見たら──おった。ベレー帽のあの猫。
「神いお嬢様、神いお嬢様……どなたかが、お会いしたいと仰っております。」
うちは鼻をむずむずさせながら、その声を聞いてた。……はぁ。うち、いつの間にこの国の上層部になったん?
「誰やねん。」
「ええと……偉大なるマイルズ・クァンクズヴィンスキー様でございます。」
「マイルズ・クァン……何それ、ポケモンの進化系?──まあええわ。マイルズやろ? 通しといて。」
「──かしこまりました、神いお嬢様。」
ベレー帽の猫は、ぺこっと頭を下げた。(……いや、“猫が頭を下げた”って、どう説明すんねん。浮いとるし。ベレー帽やし。)
そのまま、まるで王宮の執事みたいに、ふわ〜っとドアの方へ向かっていった。たぶん、マイルズを通すためやな。
うちはその間、ベッドの端っこに座って──もう一度、部屋の中を見渡した。……装飾、多すぎ。てか、全部金ピカ。特に──薔薇。黄金の薔薇が、そこら中に咲いてた。
うーん……。
ふと、後ろを見た。光の正体は──巨大な窓やった。カーテンもセットで、バカみたいにデカい。……なるほど。これが、“お姫様気分”っちゅうやつか。
ベレー帽の猫がスーッとドアを開けて、外に出ていった。ほんの数秒後──
「失礼いたします。」
あの声。完璧な発音。完璧なタイミング。完璧なマイルズ。
うちは、のそっと立ち上がって、でっかいあくびしながら歩き出した。
「ん〜〜〜……ええよ〜〜……どーぞどーぞ……」
気むうのベッドまで、そろそろと歩いた。……うちってさ、姉として──妹を起こすのが当然の義務やと思うねん。それはもう、儀式や。神聖なルール。破ったら──死。妹じゃなくなる。いやもう、悪魔の妹や。サタンの姉妹。
……うそやけど。
実際な、これは全部──うちの父さんがテキトーに作った話やってん。
ある日、気むうを起こさんかったことがあってさ。いや、起こす気なかったんよ。ケンカしてたし。ちょっとムカついてたし。学校、遅刻すればええやんって思ってたし。
でも父さんが──「姉なんだから、起こしてあげなさい」とか言い出してな。
……うちは、アホみたいに信じた。
うん、その時は……まだ、純粋やったんよ。ほんまに。
それにさ、うちの記憶では──気むうがうちより早く起きたこと、一回もないんよ。マジで。一回も。
だからな、この“起こしの儀式”は、もう何年も守られてるってわけや。誰にもバレずに、ず〜っと。
……まあ、わかってる。“儀式”とかいう話、ぜんぶウソやって。ただの作り話。父さんの思いつき。
でもな……
そういうウソって、なんかちょっとだけ、心地ええねん。
「ねぇねぇねぇ!気むう!気むう気むう気むう!!起きて!起きて起きて!マイルズがまた牢屋にぶち込む気やって!!」
バサバサバサッと揺さぶった。……いや、けっこう激しめに。
「……敬意は?」
「わくわくっ!!」
「──離れて。」
気むうは静かにベッドを降りて、何も言わずに髪をほどき始めた。制服がなくなってることにも、特に反応なし。
……それを見て、ふと思った。うちにも──髪、あるやん。しかも、まあまあ長くて、めっちゃ赤いやつ。絶対、今ぐちゃぐちゃなってるやろこれ。
バレへんように、そ〜っと手ぇを頭に伸ばして……ササッとほぐしてみた。
「……いった。」
ちょっとだけ絡まってた。まあ、大したことないけどな。……精神的ダメージ、0.3くらい。
そのとき──気むうが、じっとマイルズを見つめてた。毛玉も、じーっと見返してる。
……数秒後。
毛玉が、ちょっと汗かきながら言った。
「え、えっと……こんにちはっ!お姉さま方に、ええっと……教えに来ました、です!」
「……なにを?」うちが聞いた。
「魔法、です。」
「魔法……?」
「はい。」
数秒、脳内フリーズ。
「ま……魔法?バッコーン系のやつ?」
「え?」
「ドカーン?」
「ド、ドカーン……?」
その瞬間──うちはマイルズをガシッと抱えた。ぬいぐるみみたいに。……怒ってるぬいぐるみ扱いで。
「うち、KABOOMできんの!?!?」
「うわわわっっ!!わ、わかりませんっ!!」
「教える側がそれでええんかああああ!!?」
「で、できますっ!!絶対できますっ!!」
じーーーっと睨んでから、ニヤッと笑った。
「……ええやん。」
すっと手を放した。毛玉はふよふよ〜っと落ちて、地面スレスレで止まった。
「はー……はー……も、もうやめてくださいまし……血圧が、血圧が……!」
神様神様……ついに、ついにこの時が……! うち、ずっと夢見てたんや!!異世界転生ものの主人公になれる日をッ!!!
ついに──おもろいことが起きるんやああああああ!!!
両手を腰にあてて、ティーカップみたいなポーズ。ドヤ顔120%。
「よしっ!!気むう!!うちら、“偉大なるマイルズせんせー”から魔法を学ぶで!!」
「……ん。」
マイルズは、長く、深く、あきらめの境地でため息をついた。
「……神よ、慈悲を。」
マイルズは、あの「はぁ……またこれか」って顔で、うちらを見た。
「えーっと……ええとですね、お嬢様方……ど、どこから始めればいいか……」
少しだけうろたえて、パッと顔を上げた。
「……あっ!最初は、実践からいきましょう!はいっ、理論はそのあと!その方が覚えやすい!リアルと向き合いながら学ぶ!天才ですね、私!」
コホン、と軽く咳払いして──
「では……お嬢様方、最初の課題は……」
「自分の服を、作ってください!」
「──えっ!?服!?いきなり!?」
「まず着てからやろ!?うち、今パジャマで神になる気ぃ満々やったのに!!」
気まずい沈黙が流れた。マイルズは、あの“完璧な教師風スマイル”を保ったまま、反応を待ってる。
……
「……で、なに?」
「え?」
「何すればいいの?」
「……服を作ってください。」
「いやそれは分かってんねんけど!? “どうやって”作るっちゅう話や!!指こうやってクイクイ動かして、布がドーンって出るんか!?」
「……技術的には、そうです。」
「……あっそ。」
……まあ、思ったより簡単かもしれん。
うちは腕をスッと伸ばして、指をぱらぱら〜って、雨ふらしダンス風に動かした。
「はいはい、布ちゃーん、出てこいや〜」
……
「マイルズぅぅぅぅ!!出ぇへんやんけぇぇぇぇ!!!どうやんのぉぉぉ!?」
気むうは、ベッドに座ったまま、自分の爪をじ〜っと見つめてた。まるで、ここがサロンかなんかみたいや。
マイルズの顔は、なんとも言えん表情やった。“職業忍耐モード”って感じ。
「エネルジアを使ってください。」
「……エネル……なに?」
「エネルジアです。」
「それ、何やねん!?」
……
……
「最初っからそう言えや、毛玉ァ!!!」
うちは「……こいつ何言う気なん?」って顔で見た。けどマイルズは、ふわっと少しだけ浮き上がって──まるで、その高さが威厳でもあるかのように話し始めた。
「よく聞いてください。エネルジアとは──すなわち、魔法です。非常に単純です。エネルジアこそが、すべての魔法の基盤です。」
気むうは、ベッドの上でじっとしてた。でも、目は開いてる。マイルズのことを、まるで見えないスキャン装置で解析してるかのような視線やった。
「魔法によって行われるすべての現象には、エネルジアが必要です。そこが、“魔法”と“非魔法”の違いとなるわけです。エネルジアが使われていれば、それは魔法。使われていなければ、それはただの……現象です。」
マイルズの声は、落ち着いてて柔らかい。でも、その説明には、どこか危険なレシピみたいな緊張感があった。
うちは、そろそろと気むうのベッドに腰を下ろした。足がぷらんって揺れてた。
──で、正直に言えばな? 声に出すつもりはなかったけど。……ちょっと、興味わいてた。
「エネルジアを使えば──この世界では、常識では考えられないような現象さえ……生み出せるのです。」
話しながら、マイルズはふわりと空中をひと回りした。彼のしっぽが、かすかに光を引いてた。演出じゃなくて、たぶん体質。
「……お二人は、“魔法の存在しない世界”から来られましたね?」
うちはコクッて頷いた。気むうは、何も言わず、動かず。でも──そこにいた。静かに。確実に。集中してるのが伝わった。
「こちらでは、魔法は存在します。誰もがそれを知っていて、大半の者が使えます。」
そのままマイルズは、ふわっと少しだけ下に降りた。まるで声のトーンに合わせて、体も沈めたみたいに。
「だからこそ、わたくしはスウェトボーレ陛下に申し出ました。この者たちは、わたくしが訓練いたしますと。自ら志願し、許可を得たのです。」
誇らしげではなかった。ただの事実として。……でもその語り口には、微かに感情があった。それは──使命感、みたいなもの。
「で、ですね……お伝えしたいのは、ここからです。」
マイルズの視線が、うちら二人に向けられた。部屋の空気が、静かに、ピンと張る。壁に散りばめられた金の装飾でさえ、呼吸を止めてるみたいやった。
「……エネルジアくらいは、知っておられるかと思ってました。しかし……どうやら、違ったようですね。お二人は、“マイナス1”からのスタートです。」
──沈黙。
「普通は“ゼロ”から始まるものですが、あなた方は──ゼロ以下から。」
マイルズは、ほんのわずかに回転した。しっぽの先が静かに揺れる。その目には、嘲笑も失望もなかった。ただ、ほんの……驚き。
「正直……こういったケースは、初めてです。」
「では……深く息を吸ってください。そして……感じてみてください。感覚を、研ぎ澄まして……自分の体の中にある、“何か”を……感じられますか? 無に見えて、すべてを孕んでいる……そんな存在。それが……エネルジアです。」
マイルズがそう語る間、うちは、そ〜っと手を伸ばしてみた。まねっこ、って感じで。──ツッコもうと思えば、できた。「何言うとんねん」って。でも、やめといた。爆発できるなら、それでええやん。
で、実際、何か感じたかって? ……うーん。たぶん、うん。感じた。触れてへんけど、皮膚の周りになんか……ある気がする。言葉にしにくい。風でもないし、温度でもない。でも、確かに“存在”。……読者よ、わかってくれ。これ、マジで説明しにくいねん。
「はい、はい、よろしいですね。お嬢様方──では今度は、そのエネルジアを使って……何かをしてみてください。何かを動かすでも、何かを創るでも、ご自身の“意思”で……どうぞ。」
「それって、何の意味があるの?」
──気むうが言った。……ああ、また来た。うちの中で、時が一瞬止まった。気むうが喋るたび、なんか……満月に話しかけられたみたいや。
マイルズは一瞬まばたきして──何事もなかったかのように答えた。
「ええと……実のところ、エネルジアの仕組みについては、今も不明点が多いのです。ですが──“使える”ということだけは、はっきりしてますので。……それで、よしとしましょう。」
「よし……すごいやつ、作ったる。」
うちは、できるだけカッコよさそうなポーズで腕をピシッと前に伸ばしてみた。もう、アニメの主人公ばりに。……いや、正直やりすぎた感あるけどな?
そのまま目を閉じて、さっきの“エネルジア”とやらを集中させるイメージで──手のひらを、なんかそれっぽ〜い動きで動かしてみた。たぶん、元ネタは……ハリポタとか、洋ドラマの魔法シーンとかやと思う。うん。実は、けっこう好きやねん、ああいう“西洋魔法”系の演出。“体系化された神秘”って感じがあって……なんか、そそるんよ。
意外なことに──今回ばかりは、“何か”を感じた。手の近くで……何かが、出ようとしてる感覚。それを逃がさんように、うちは指に力を入れた。
……けど、ダメやった。無理に力んでも、何も起きへん。どうやらこの世界、ゴリ押しは効かんらしい。
だから、うちは……少しだけ、落ち着いた。感じようとした。押すんやなくて、流す。動かすんやなくて、導く。
……そしたら。──ぽんっ。
何かが、出た。布みたいなもの。空中にフワッと現れて……すぐ、床に落ちた。
見た。……布じゃなかった。糸やった。バラバラの、ほつれた数本の糸。“布を作ろうとして、作れなかった”──そんな未完成な……願いのかけら。うちの心ごと、こぼれたみたいな──糸たち。
その瞬間、マイルズと気むうが──びっくりした顔で、うちを見てた。ほんまに、見てた。
しかも、拍手された。いや、マジで。
……で、ちょっと待って。マイルズ、どうやって拍手したん!?手、ないやん!?!?見たら、……しっぽやった。しっぽをムチみたいにして、地面をリズムよくパチンパチンって叩いてた。なんやそれ!?意味わからんけど、なんか“拍手っぽい”!!
とにかく、うちは思った。「うわっ……うち、なにか……成功したんや!!」神よ……!!!!「ほら、気むう!やってみてって!そこまで難しくないやん!」
気むうは、ちょっとだけ──ほんまにちょっとだけ頷いた。冷たい感じやけど……返事した!反応した!!すごない!?そのあと、彼女は腕をスッと前に出して、静かに動かした。うちみたいに大げさなジェスチャーはなし。ただ、自然に。静かに。そして──数秒後。ポンッ。出た。布や!!
まあ、ちょっと変わった布やけどな。なんか、太い糸が4本だけ絡んだみたいな感じ。で、もちろん落ちた。ふわっと。でも、ちゃんと“形”になってた。
うちは拍手した!!マイルズも、もちろん──しっぽでパチンパチンって拍手(?)してた。
「よしよしよし!完璧や!それ、めっちゃいい感じ!」
「これはもう、立派な進歩です。せやから……次は、自分の服を作ってみましょうか?エネルジアも感じ取れたし、それを使って……何か形にしてみましょう。実用的なもの。たとえば──服、とか?」
うちは、ちょっとだけニヤッと笑った。完全に、“うち、今主人公やな?”って顔。
「ふ〜ん。で、どうやって始めればええん?」
マイルズは、いつもの無表情で答えた。「うーん……正直、わかりませんが……さっきと同じようにすればいいかと。ただ──まず最初に……服を脱ぐべきかと。」
……
……
「は?」
「な、なんで!?なんで服を脱がなアカンの!?」
マイルズは、あのいつもの真顔で──「……だって、服の上に服を着るのは……おかしいでしょう?」
「異世界のくせに、なんで常識だけリアルなんや!!?」
……
いや、それ変態の言い訳やんけ!?!?!?「ちょ、ちょっと!?!?!?なに言い出すねんこの毛玉!!!」
気むうは、相変わらずベッドの上でほわ〜んとした顔してた。さっきの拍手がよっぽど嬉しかったのか──完全に蚊帳の外。
「ちょ、待って待って待って!?うちはな、ちゃんとした女性やで!?毛玉の前で裸になるわけないやろ!!」
マイルズは、なんか混乱してるような顔してた。まるで、うちの反応が意味不明やって言いたそうな感じ。
「えっと……何がダメなんですか?」
……
は!?!?!?!?その一言で、イラっとゲージが一気に跳ね上がった。
「“何がダメ”って……ぜんっっっっぶダメに決まってるやろ!!」
「……たとえば?」
……たとえばって何やねん!!!??????「つまりさ、これは……露出狂に入るんちゃう?」「……いや、たぶん、入るやろ。多分、な?」
思いっきり皮肉込めて言ったけど、マイルズの反応は──無。いつも通りの“安定の毛玉フェイス”。
「……“露出狂”とは、なんですか?」
「……あー、もうええわ。」
「協力できないのであれば、スウェトボーレ陛下に申し上げるしかありません。“訓練に協力せず、問題を引き起こしたにも関わらず、解決にも応じなかった”と──伝えましょう。」
……
……
この毛玉、脅してきたぞ。しかも、しれっとした顔で!!
「……あの、お嬢様方。ちょっと、言い過ぎたかもしれません。」
マイルズは、しっぽをぴょこんと立てながら──なだめるように言った。「でも……ちょっと、落ち着いてください。ね?」
たぶん、そう言われた理由は──うち、めっちゃ呼吸荒くなってて、顔、完熟トマト並みに真っ赤になってたからやと思う。
「……もし、そちらの世界では──半裸になることが、不作法とか、タブーとか、そういう文化なら──ご安心ください。わたくしは、にゃんこです。つまり、人間ではありません。だから、人間の肉体に惹かれることは、生物学的に不可能です。」
うちは、その言葉を聞いて──少し、脳が止まった。……そっか。なるほどな?めっちゃ納得した。一瞬、うちの脳みそ……完全に、目の前の毛玉を「男」として見とったわ。
いやいやいや、何してんの!?!?相手、猫やぞ!?!?……やば。それって、うちの方が危険人物じゃね??
でも、考えてみたらさ。ゲイの親友と一緒に着替えることって、あるやん?別に何とも思わんし。
なんでかって?信頼や。関係性や。安心感や。そんだけや。
たぶん、今のうちとマイルズも──それに近いんかもしれへん。……いや、わからんけどな!?フェミとかセクシズムとか、そーゆー話にしたらややこしいやつや!!だから読者よ!深く考えるなよな!?
うちは──必要な時だけ、ちょっと脱ぐ系JKや!!!それが!うちや!!!それが!!神い!!!!!!
うちは、クルッと背中を向けた。あの毛玉に、背中を見せたまま。この変なパジャマ生地──とりあえず、ギュッと握って。
「……いいよ。でもな、調子乗んなよ?クセになったら、絶対許さんからな?」
……顔、ちょっとだけ赤くなってた。自分でも分かるくらいに。そして──スッと、布を下げた。そのまま、スルリと落ちた。
うちは、下着姿で立ってた。守るもの、ゼロ。無防備。丸出し。完全公開。
……はぁ。人生で一番恥ずかしい瞬間って、これ超えてくるやつ、おる?!?!マジでやめてや……!!!
うちは、気むうに目線を送った。言葉じゃない。けど、ちゃんと伝わるやつ。
「なあ、やって。一人にすんなよ。ほんまに頼むわ……」
気むうは、ほんの少しだけ顔を赤くして──それでも、うちよりはるかに静かに。まるで、最初から覚悟してたみたいに──パジャマを脱いだ。何も言わず。何も拒まず。
きっと……“姉妹の権限”ってやつやな。
それから、うちはマイルズの方をチラッと見た。この毛玉、ちょっとでも怪しい反応したら、即ツッコミ入れたるつもりで──……
あくび、しよった。普通に。なんの感情もなく。あくび。で、そのまま──床にごろん。
「はい、それでは──魔法の練習、始めてください。わたくしは、ちょっと昼寝いたします。何か成果が出たら、呼んでください。質問があるときも、どうぞ。……昨日、授業の準備で寝てなくてですね。」
……
この、毛玉が。
うちは、何回「この毛玉」って言ったやろ?もう数えてへんけど、マジで、やらかししかせんねん、この猫。うちを、人生トップの羞恥地獄に突き落としておいて──その直後に、寝る???何それ!?!?!
ほんまに、何なん!?!?!??!?!??!
「……はよ終わらせよ。早くできれば、この地獄から解放されるんや。」
そう思いながら、気むうのベッドの隣にあった鏡に目をやった。下着姿の自分を見た瞬間──ゾクッとした。でも、落ち着こうって決めた。
深く息を吸って、鏡越しに自分の手を伸ばしてみた。そして、もう一度あの“エネルジア”ってやつに意識を向ける。
……ぶうううん……ふうううん……
……
出えへん。
気むうの方を見た。あいつは──すでに、シャツっぽいのを作ってた。でも、それは地面に触れた瞬間、ふわっと消えた。
……ふーん。
もう一回、挑戦してみた。今度は、また例の“映画の魔法”みたいな手の動きで──でも今度は、自分の体に向かって。
「……よし……服よ、出てこいや……!」
その瞬間、何かが……来た。
「きた!きたきたきた!!」
ぶわっ!!
……
……これ、なに?
服、やんな?
いや──ちゃうわ。
縄の網やんけ。漁師の罠かい!!
うち、今……縄の網、着せられたんやけど。
これ……
うちは、その縄の網を横にポイって投げた。完全に敗北の証。見なかったことにしたかった。
そして、気むうの方を見た。……あいつ、また何か作ってた。毛とボタン付きの──布ボール?
「よっしゃ、野球ボールできたやん!ジャジャーン☆」
「神い。わたしのは──一応、“布”やで。あんたのは……ただの“縄”や。」
「……ふんっ!」
もう一回、試してみた。
「おおおおぉぉぉ──我が故郷の神々よ、今ここに道を示し、田んぼと家畜の祝福を持って現れたまえ……カリフラジオ・カモン……!」
……意味不明な歌でも歌えば、出てくるんちゃうかって思った。
「おおおおおおおおおおおお……!!」
ブワッ!!
……
「……は!?」
やった!!服、できた!!
「ちょ、マジ!?これ……服や!!」
──でも、よく見たら。穴、開きすぎやろ。胸とか、股とか……逆にどこが隠れてんねんこれ。
「……誰やねん、こんなデザインしたん!!?露出狂しか得せんやろが!!」
うちは、それを床にポイって捨てた。さっきの縄の網の横に。
この世界、グリーンピース的な団体あるなら、再利用してくれへんかな……。んー……。あ、そういや──この世界、魔法あるんやし。リサイクルとか、せんでええやん。ゴミ?消せばええ。うち、天才かもしれん。
そんなこと思いながら、最後の挑戦を始めた。もう、エネルジアの感覚はなんとなく分かってきた。今回は……いける気がする。
「クアカバカナカチャカワカナカチャカマ……マナマナシャニボ……」
何かが、光り始めた。
「おおおっ!?」マイルズが思わず声を上げた。
「分からんけど出てる!何か出てるで!!」
「ワチメルマルノ……ゴチゴチペルシャ……!」
キラーーーンッ!
完璧なオレンジ色のシャツが、ふわっと上半身に現れた!
「チワリメルワ……ワツパツペルシャ!!」
ドォォン!!!
シンプルで実用的な黒ショートパンツが、脚にピタッとフィットして完成。
マイルズはまた、あの妙な拍手を始めた。しっぽで床をトントン……ビシビシ……なんかもう、癖になってきてる。
気むうも、口元に小さな笑みを浮かべて、ぱちぱちと静かに拍手してた。
「よしよし!それでこそ、お見事です!ブラボー!」
「ふん……」
「どうした?」
「これは……」
「これは……?」
「クソダサいやつやんけ!!!!!」
「……は?」
「色合いめっちゃ変やし、オレンジと黒って……最悪やん。しかも、うちのスタイルちゃうし。これ、男の服やろ!?無理無理無理無理!!」
「……わがままやな、あんた。まあ、直してええけど。」
「え?どうやって?」
「魔法で。」
「……あ、そ。」
そのあと起きたことを、全部詳しく書くと……眠くなるから省略するけど──うちは何回も魔法で試して、ついに、めっちゃくちゃカッコええ服を作れたんや!!!!!!
「ハァァァァァスウウウウウウウウム!!!」
バンッ!!
超ミニの黒ショートパンツ!!ボロっと破れた感じが、むしろ最高!!!
「よっっっしゃあああああああ!!!!!これや!!!これがうちのスタイルや!!!」
「……はあ、もう……」マイルズの心の声、顔から滲んでた。
「さて……どうやって“うちは火属性やで!”って分からせたらええんや……?」
「いや、別に火に特化するとか決まってな──」
「しぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!黙れ、毛玉!!考え中やねん!!!!」
「……あっ、思いついた!!!!」
──数回の謎呪文の詠唱ののち──
「ハシュウウウウウムッ!!!!赤のロングスリーブブラウス!メグミン系!!ミスティックなベルトも追加っと!!!!」
「……はいはい……」
「んー……この袖、長すぎ。ちょっとだけ──切ったろ。」
チョキチョキ……
「よっしゃ!!肘までで、ちょうどええ感じや!!」
「……神い、あんたマジで頭おかしい。」気むうが呆れ気味に言った。
「黙っとけ、気むう!!魔法って──サイコーやんけ!!!!!」
タップタップ!
「指ぬきの黒グローブ、召喚!!」
ザップザップ!
「茶色のエピックブーツ&中世風ソックス、完成!」
履き心地は……まあまあやけど、魔法世界やし、見た目がすべてやろ?
「じゃじゃーーーん!!!どや!?うちのコーデ!!」
「……いいよ。」気むうは無表情で答えた。
「……なかなか興味深いですね。」マイルズが静かに言った。
うちは首をかしげた。
「……でも、なんか足りへんな……」
「何が?」
「んー……うちさ……太もも出しすぎじゃない?」
「だから何?」
「いやや……せっかく育ってきたのに。なんで見せなアカンの……」
「あっ、わかった!!ちょっと待ってて!!」
もう、うちは魔法服の作り方を掴んでた。今やったら──JRPGのアバターみたいに、自由に装備デザインできるんや!!現実世界で!!限界なしで!!!
茶色の布を魔法で生み出して、ベルトにペタッと固定。ボロっと裂けた感じで、ショートパンツの一部を隠すスカート風の布。
「よっっっしゃ!!これで完璧!!うちのフル装備、完成やああああ!!!!」
気むうの方を見た。よく見たら──もう、ちゃんと服を完成させてた。
……きれいやった。気むうらしい感じで。真面目で。クーデレで。ひとりで、全部こなせるような空気。
メガネをかけてて、ふわっとした茶色の布。ニットっぽいけど、ボタンもファスナーもなし。マントみたいな形で、首元に小さなリボンで結ばれてただけ。
その下には、白いワンピースみたいな服。体をすっぽり包むやつ。うちと同じベルトやけど、こっちは細くて、気むうっぽい静かさあった。
「……なに見てんの?」気むうが言った。
「やばい……」
「ん?」
「いや、ちゃうねん……見た瞬間、思ってもうた。やばいって。」
「……わたしが?やばい?」
「ちゃうちゃう、悪い意味やなくて!やばいの、“やばい”な!!」
「…………」
「……もうええわ。」
ほんまに、すごい服やった。今のうちら、完全に“魔法少女姉妹”やん。「魔法少女」ってジャンルあるやん?うんうん。それな。
でも──うちらには、もっと新しいやつが要る。異世界×魔法×姉妹……“異世界まほしま”ジャンル、爆誕や!!!!
「はい、はいっ!よくできました、お嬢様方!!素晴らしい魔法適性をお持ちです、はいはい、間違いありません!」
マイルズは、めちゃくちゃドヤ顔で褒めてきた。どっかの校長かってレベル。
「なあっ!!次は“爆発魔法”やろ!?もう、爆裂の時間やろ!!??」
「……違います。次は“護身用魔法”です。」
「護身も爆発でやる!!」
「…………」
「……神よ、お慈悲を……」
「もうちょっとでメグミンなれる……!!!」