第3話:今度は薔薇が喋りだしたんやけど…?
ねえ、考えたことある? 宇宙ってさ、どれだけ世界が違っても──「共通ルール」みたいなの、ある気がしない?
たとえばさ、うち、猫の毛玉みたいな浮遊生物に拉致されて、二足歩行のヤギ(しかも王様)に裁かれて──わけわからんポータル通って、現実がバグって、異世界にぶち込まれたんだよ?
でさ、こう思うでしょ?「この世界、地球とは違う文化とか、もっとヤバい刑罰制度とかあるんじゃないの?」って。
でもね──ほぼ一緒だったわ。
裁判の空気は地味に冷たくて、罪状とかよく分かんないのに、なんかガッカリされた感じで見られて──そのまま、“外からしか開かないドア”付きの四角い部屋に、しっかり収容されました。はい。
……まあ、文句ばっか言うのもアレだけど。少なくとも、うちらの“個室”には10分おきに水が出るグラスがあって、30分ごとに小窓から出てくる緑色の……パン?みたいな……何かがあって。ちょっとした宇宙仕様の“塀の中”って感じ?
最終的に──うちは飽きた。天井見て、水グラス見て、出所不明のパン見て、壁に映る自分の虚無フェイス見て……もうムリ。
で、妹の隣に座ることにした。いや、別に特別な理由はないよ? ちょっとだけ……一緒にいてあげようかなって。気むう、寂しそうだったし──……たぶん。
そして──数分後には、うちの脳みそがログアウトしてた。
ゴオオォォォ……
zzzzZZZZ
⟦⟦⟦✦⟧⟧⟧
あ、ちょっとええかな?ここまで、うち、頑張って標準語っぽく喋ろうとしてたんよ。一応、ちゃんとした小説っぽくしたくてさ。
でもな──ぶっちゃけ、疲れたわ。
普段のうちは、バリバリ関西弁やねん。そっちのほうが自然やし、楽やし、テンポもええし!
せやから──なあ、読者ちゃん。うち、これからほんまのうちで、喋ってええか?
──しぃ?♡
ありがとぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜!!!
……ゴホン。
ま、ええわ。
でな、うち、目ぇ覚めたんよ。めっちゃ……特別な感じでな。
なんか、誰かがうちに起きろ起きろ言うててん。しかも、声が……なんか猫っぽかったんよな。
何言うてたか全然覚えてへんけど──とにかくそのクソ猫、うちの極上タイムぶち壊してきやがったわ!!
首、ガチで痛かった。あ〜〜〜……壁に寄っかかって寝るとか、どんな人生やねん。
ま、理由はあるねんで? 妹には、うちっていう護衛ビーストがおらなアカンからな。
(……まぁそのビースト、身長156cmやけど。)
それでもな、背中にある怠け心と小競り合いして──うちは目ぇ開けたんよ。
で、見えたのが……壁。
いやマジで、何期待してんの?天啓? 宇宙の真理? ちゃうちゃう、壁や。
──ほいでや。その壁の前に、なんか……おる。猫? え、猫!?うちが台所で見たフワフワ族っぽいやつ?
……え、頭……ベレー帽かぶってんの!?!
ぎゃあああああああああああああ!!!!
ベレー帽猫やあああああ!!!!
かわっっっ……いや、何この子……かっこ可愛すぎやろ……!?!?!?!
「──お目覚めの時間ですぞ。運命に選ばれし者たちが、ついに目を覚ます──!」
……って、誰やねんそのテンション。
毛玉がめっちゃカッコつけながら、そう言い放ったんよ。
「“運命に選ばれし”って……何それ?」
うちが聞いたら、
「あ、すいません。五十年前と同じセリフ出ちゃって。クセです。」
「いやクセて……で、どーゆー意味なん?」
毛玉は無表情で、サラッと言うた。
「つまり──尻を起こしてついて来い、ってことです。」
「は?」
「王様が、お呼びですわ。」
「……“運命に選ばれし”……? どっかで聞いたことあるような……」
アニメ?ちゃうな……あれやっけ……ゲーム?うーん、なんやろ……
──まぁええわ。なんかデジャヴしただけや。
というわけで、うちは地べたから立ち上がったわけやけど──案の定、ケツが平たくなっとったわ。
つーか、元々うち、毎日平やし!?
「……神い、それ、完全にトラウマやん。」
「黙っとけ気むう!!!!」
うちら、またあの薄暗い牢屋通路を歩いて、左右にズラッと並ぶ牢のドアを眺めながら──あの、マジで不吉な空気満々の通路やで。
そんで、出たわ……例の、地獄エスカレーター。
また登らされんのかい!!!
途中でな、うち、マジで思ったわ。「あ、もう無理。ここで死んだら逆に楽やろ。」
マジでしんどすぎ。クソ長いっっ!!
ほんでや、前をスイスイ浮いてるベレー帽猫な。お前、浮いてるからって楽してんじゃねーぞ!!!
うちの心の叫び、たぶん半径10mに響いとったな。
で、うちの隣──気むう。
こいつ、一見、全然平気な顔してるんやけど──呼吸だけ、ちょっと荒なってた。
シンプル。クール。いつも通り。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……
そんな感じで、三時間(本当は三分)ぐらい延々と登り続けて──十年(体感は十時間)ぐらい経った気分になって──
そして、ついに。
もう体バキバキ、足ガクガク、手は意味もなく天に向かって上がってて──しかも頭の中では、謎の超絶バトルアニメ級のBGMが鳴り響いとって──
最後の階段、踏みしめた!!!!!
そして──
うちら、ほぼ這うように、殻を背負ったナメクジのごとく進み……
ついに着いたんよ。王ヤギの部屋に。
いや、王“カブロン”の部屋に、やな。
あ、違う。失礼しました。王“カブラ”。スウェトボーレ陛下。
……で、さ。
出迎えてくれたのは、まっったくウェルカム感ゼロの光景やったわ。
だって、やで? 王、うちらがトビラの前に立った瞬間に──もうスタンバっててん。
で、言い放ったんよ。めっちゃデカい声で、しかも足(なぜか指付き)を高く上げながら──
「█▓▒░ FINAL SPELL No.118 ░▒▓█
タイム・パージ!!」
ドンッ。
空気が、赤に染まった。波動が空間をぶち抜いて、蝋燭の火もピタッと止まって──時が止まった。
うごけるのは、うち、気むう、そしてヤギ王だけ。
こわ。こわすぎ。
で、うちはとりあえず近づきながら……心の中、フルオートで連呼してた。
なにこれ
なにこれ
なにこれ
なにこれ
なにこれぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?
うちらがゆっくり近づいていくと、王ヤギ──いや、スウェトボーレ陛下 の様子が……なんか、変やってん。
指をギュッて握りしめてて、まるで呪文の重さに自分が押し潰されそうな感じやった。
「……え、なに……これ……?」
ほんまに意味不明やったけど──うちらがトビラの中にちゃんと足を踏み入れた瞬間、呪文が……止まった。
王は、ゆっくり手を下ろして、そのまま、トーン……って玉座に座り込んだんよ。
で、ゼーハーゼーハー言いながら、完全にマラソン三連戦完走後のジジイ状態。
いやいや、死んだわけやないからね!?
ただ、もう、全力全開しすぎて疲れただけや!!
その時、うちらの左側から──あの、毛玉執事・マイルズが現れた。
あいつ、思いっきり焦った顔してて、王ヤギ──いや、スウェトボーレ陛下 のもとへ急いで駆け寄った。
「陛下っ!陛下っ!まったくもう、陛下ったら!!だからあれほど、“ご無理なさらずに”と──!!」
「ゴホッ……無理なのだ……」
「陛下っ!!お願いですから、もう落ち着いてください!!
もうおわかりでしょ!?あの子たちは、魔女じゃありませんよ!」
「……この私が、理もなく、“薔薇の間”へ通すわけにはいかぬ……」
「いえっ、でも──もうおわかりのはずですっ!
もし本当に“魔女”であったなら、今の呪文……“FINAL SPELL: No.118:タイム・パージ”は──
完全に、彼女たちの心臓を砕いていたはずです!」
「……ゴホッ……あの術は、“邪に堕ちし心”にのみ作用する。
“純粋なる心”には……何の影響も与えぬのである。」
「その通りでしょ!?なら、なおさら明らかじゃないですか。
彼女たちは、“穢れていない”。
それなのに、あんなに魔力を使って……
もしもう一度やったら──あなた、命が危ないですよ……!」
「……ふむ……だが、我が手で確かめねば、この“薔薇の扉”は……開けぬのである。」
かくして──
毛玉、マイルズは、よれよれになったスウェトボーレ陛下 を玉座へと運び、ドサッと座らせた。
陛下は、ゆっくりと、しかし威厳だけは崩さずに言った。
「……よかろう。彼女らを、“薔薇の間”へ案内せよ。」
「──ただし、マイルズ。」
「はっ、陛下。」
「万が一、何か異変があった場合は……即座に、“あのボタン”を押すのだぞ。」
マイルズは、かすかに顔を引きつらせながら、それでも敬意を崩さずに深く頷いた。「──かしこまりました、陛下。」
うちは、そこに立って、この宇宙級茶番劇をただただ見守っとったわけやけど──心の中では、ずっとこう思ってた。「なあなあ、あのベレー帽猫に“FINAL SPELL”効かへんかったんやろ? うちなんか、もっと効かへんで……?」
──って思った瞬間。「あれ、ベレー帽どこ行った?」
気づいたら、猫、消えてた。気配もなく、音もなく、まるで最初からおらんかったみたいやった。オシャレな上に、忍び足までプロかよ。
マイルズがうちらに近づいてきて、めっちゃ真面目な顔してこっち見てきた。──まぁ、猫としては、最大限に真面目な顔やけどな。そして、きっちりした口調でこう言ったんよ。
「……どうぞこちらへ、お嬢様方。」
……うちさ、「はぁい、よろこんで♡」って返事しそうになったわ。いやマジで。お嬢様ごっこ、寸前やった。でも、ぐっと我慢した。“物語の進行”のために!!
──ということで、「ほな、いきましょか。」
腰に手を当てて、ちょっとカッコつけ気味で気むうの方見たら──気むう、完全に自分の手ばっか見ててん。なんやその表情……“うちの中に、何か眠っとる”って顔しとるやん。
うちらは、玉座の間をサッと抜けて──正面にあった“入口か出口かよくわからんトビラ”から、また外へ出たんよ。で、当然ながら──また歩くんか〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!
あの、前に“PNG蝋燭”見た廊下やったわ。でも今回は……ちゃんと表示されてた。バグなし。ちょっとショックやった。あの透け透けの蝋燭、気に入ってたのに。
そんでな、うちは思ってたわけよ。「あ〜、また厨房戻んのかな?」って。もしかして、“薔薇”って──キッチンの中にあるんちゃうん!? 正直な、めっちゃええ隠し場所やと思うんよ。誰も“鍋の裏に神の薔薇ある”とか予想せんやろ?
ふと思ってんけど──なんでそんなに、“薔薇”を隠すんやろ? なんか特別なもんなん? 大事な理由でもあるん? あのヤギと毛玉、ずっと“薔薇がどうこう、世界がどうこう”って騒いどるやん。
それってさ、たぶん、めっちゃ重要なもんってことやろ? なら──キッチンの横とか、普通の場所には置かへんよな……? いや、でもこの世界、普通ちゃうしな……まさか……炊飯器の裏とか!?!?!?!?!?
⟦⟦⟦✦⟧⟧⟧
そんでな、うち思い出してん。あの呪文のときさ──なんで空気、急に真っ赤っかになったんやろ!? あれって、魔法のせいなん!? それとも世界のバグなん!? エフェクト!? 演出!? なにそれ意味深っ!
で、気づいたんよ。……あっっ、そうか。この世界、魔法あんねや!! その瞬間──テンション爆上がり。
やばいやばい、これ、うち……異世界版のメグミン枠になれる可能性、あるんちゃう!? ……うん、まぁ、時間が証明してくれるやろ。でもな、今決めた。絶対あの毛玉に魔法の教え、ねだるからな。
──あ、その前に、殺されへんかったらやけどな。
⋒⋓⋒⋓⋒
うちさ、さっき言うたよな? 「薔薇は、絶対に目立たんとこにあるはずや!」って。
……うん。うん……? ……誰やねん、それ言うたの。
──あたしか。
無理無理無理、あれは、完全に“目立ちすぎ案件”やったわ。
なんやねんこの門。クッッッッソでっかい!! しかも、金属製の薔薇が九つも描いてあるんよ!? 逆にこわいわ。
もうちょい、なんかこう、“隠しとこ〜”って気持ち、出さんかい!!?!? なに!? ヒント出しすぎやろ!? ネタバレ直前のOPかよ!!
でな、うち思ったんよ。この城、アホちゃう!?!?!?!??
理由は簡単。さっき通った壁にさ、城のマップが貼ってあって──そのど真ん中に、“超豪華な薔薇マーク”ついてんの!!!???
ほんでよく見たら、このお城……部屋の数、何千やん!?!?!?!??!? 塔、ホール、秘密の間……色々あるはずやのに──
“薔薇の間”は、ど真ん**中!!!!!!!!!!!!!!!!!
地図にも、バッチリ装飾付きで描かれてて、周りにお花まで舞ってんねん。
おい。誘ってるやろ。盗んでくださいって書いてあるようなもんやん!? これ、敵が見たら絶対こう思うやつやん:「あっ、ラスボスアイテムここやな。よっしゃ〜いただきま〜す!」
でな──うちがそんなこと考えてる間に、ベレー帽猫が……扉、開け始めたんよ!! しかも──尻尾で。手ちゃうねん。尻尾。お前、それ便利すぎやろ!?
で、10個ある金属の薔薇のうち、一番下のにチョンって当てたら、ゴゴゴゴゴゴゴ……って動き出して──いきなり、20個くらいのサブドア出てきた!!!!!!!!
そこからはもう──“バカバカしい試練ラッシュ”の始まりやったわ。
一つ目:普通に手で押す。まぁOK。
二つ目:目のスキャン。うん、よくある。
三つ目:「王の承認待ちです。」(←誰やねん、許可して!?)
四つ目:「軍司令の承認待ちです。」
五つ目:ケツのスキャン。
ちょ──!!!! ほんまにお前、ケツ置いた!?!?!? しかもピロリン♪って音鳴ってんの! セキュリティ真面目かアホかどっちやねん!!!
六つ目:毛の検査。抜いた毛を容器に入れたら、光った。
もうな、うち、笑いすぎて喉が閉まりそうやった。結局、20個ぐらいあって、全部チェック終わるまでに、10分以上かかったわ。いや、わかるよ。重要な部屋ってのは。
でもな──部屋の半分、ドアで埋まっとんねん。壁の厚み、絶対2メートル超えてるて!!! セキュリティかダンジョンか、はっきりしてくれや!!
正直な、気むうでさえ笑いこらえてた。手で口を抑えて──え、なにその仕草!? 貴様、いつから“感情出す側”なったん!? 表情もな、「ぷっ……無理……これ、笑うしかない……」って顔しててん。
もう無理やわ、あれはずるいわ。
──で、まあ、笑い死ぬ寸前の10分間を乗り越えて、やっと、扉が全開したわけよ。
でもな、その先にある“薔薇の間”──思ったより、めっちゃ小さかった。
で、中を見て──うち、正直、ちょっと……がっかりした。いや、たしかに──すっごい光景やった。
でもな──なんていうか……物足りんかったんよ。
部屋は、丸かった。壁は一つ。カーブ状。めっちゃ静か。
で、中央に──でっっっかい薔薇の木。いや、ちゃう。あれ、木超えてる。建築物レベルや。
多分、うちの頭の上に、二十個くらい積み重ねても届かへん高さ。茎、太っ!! トゲ、でっか!! 「うわ……」って声は出たよ。うん。
でもさ──うちが期待してたのって、もっと“魔法”やったんよ。光とか、空中に浮かぶ輪っかとか、「ニャハハー!死になさーい!」って叫ぶ魔女とかさ!? 呪文20連発とか、そういうバカ展開がさ──なかったんよ。
はぁ……現実って、うちらが思ってるほど、おもろくできてへんのかもなぁ……。
でもな──よう見たら、気づいてもうたんよ。うち、口ぽかーん開いたまま固まってた。
薔薇やった。ちっちゃい薔薇たち。色とりどりで、キラキラしてて、めっちゃ綺麗やった。
でも、もっと不思議やったのは──その子たち、なんか……喋ってるみたいやってん。
言葉ちゃう。音でもない。光。
一つがピカッ。
また別のがピカッ。
二つ、三つ同時にピカピカ……パターンが生まれてくる。
それが、まるで──会話してるように見えてん。
なんて言ったらええんやろ……ホタル? モールス信号? いや、わからん。なんとも言えんけど……なんか、“わかりそうで、わからん言葉”で、空間がささやいてたんよ。
わかるかなぁ、読者さん。
「神い様、気むう様。こちらが──“ロザル・マドレ”。」
「この場所には、“十の薔薇”が眠っております。」
そう言うたのは、いつもの毛玉、マイルズやった。……なんやその口調。めっちゃアニメやん。いや、わかるで? 決めセリフ言いたい気持ちはな。でもな、現実でそれやられると、“気持ち、置いていかれる感”あるよな。……まぁ、それはうちの問題やけど。
「それって、何なん?」って聞いたら──マイルズの顔が……一瞬、“教育者がバカ見たときの顔”になった。
「……え? スウェトボーレ陛下が、昨日ご説明なさったではありませんか?」
「えっ、マジで? え、うち、聞いたっけ? いや、聞いたかも? 覚えてへん。」
正直、記憶ゼロや。
すると、毛玉が口を開いた。
「ちょっと考えてごらんなさい、少女よ。いや、失礼なことを言いたくはないが──少しは、思考というものを。」
「……は?」
「“薔薇”と“力”。“力の薔薇”。それを聞いて、何を思い浮かべる?」
「えーっと……薔薇? しょーねん系の異世界バトルで出てきそうな、スーパーパワー付きの薔薇?」
「……よろしい。……“少年”? 少年が何か関係あるのかは分からんが──理解したことにしておこう。」
「???」
「ともかく、“力の薔薇”であるからには、宇宙の中で、何かしら──重要な役割を担っているはずなのだ。」
「……で、それが?」
「“それが”じゃありませんよ!? 重要な役割があるからこそ、力を持つのです!」
「いや、そうとも限らんやろ?」
「……なに?」
「いや、強いもんは強いだけで、別に大事ってわけやないし。大事なもんが必ず強いわけでもないし。“関係あるようで、ない”こともあるんちゃう?」
「…………」
「…………」
「……はいはい。そういうことにしておきましょう。」
マイルズは、小さくため息をついた。……もう、神いに何を言っても無駄やって悟った顔やった。そのまま静かに後ろを向いて、漂うように少し離れた位置へ移動しながら言った。
「さて。お嬢様方──“薔薇”と接触してみてください。」
「どのような反応を見せるか……観察いたします。私は、ここから見守っておりますので。」
その様子からは、“仕事だから見てるけど、正直もう覚悟しとる”というプロ執事の諦めオーラが、毛の先からにじみ出とった。
「さ、行くで、気むう!」って言って、また腰に手を当てながら──容赦なく、妹の腕を引っ張った。
いや、気むうから手ぇ差し出してくるの待ってたら、永遠に始まらんし。
そのままロザルの周りを、ぐるっと回るように歩いた。そこには──色とりどりの薔薇たちが、ふわ〜っと光ってて。
なんやろ、夏祭りの時の電飾? あの、カラフルでチカチカしてるやつ。ちょっと懐かしい気持ちにもなって……うん。それくらいやった。
うまく説明できへんけど──ただ、薔薇が光ってるだけ。それ以外は、特になんも。
少なくとも、その時は、そう思ったんよ。
しばらく、薔薇を見たり、見返したり、また見たり……してたら、もう、暇すぎて死にそうやったからや。
気づいたら、気むうも見失ってて、その間ずーっと──マイルズが無言でこっち見てたんよ!!!
あの毛玉、マジで……一言も喋らんし、ヒントもくれへんし。そこに立っとるだけ。“自分で考えろ”ってオーラだけ出しとって、腹立つわ〜〜〜。
でな、暇つぶしも兼ねて、薔薇の光の点滅とか、なんか法則あるんちゃうかって──無理やり意味探し始めたんよ。
人間って、暇やとすぐに“意味のないもんに意味を求めたがる”生き物やろ?
でもな……今回に限っては──ちょっと、当たりやったかも。
なんかさ。赤い薔薇──あれ、うちに何か伝えようとしてる気がしたんよ。“喋る”っていうのは違うかもやけど、“呼んでる”感覚。
だって──鼓動、してたんよ。
「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、ピッ。」
そんな感じで、うちの注意を引こうとしてるみたいやってん。
でな、面白いのが──近づいたら、その“ピッピッ”がどんどん強くなる。でも、離れたら……弱まるんよ。
なんやこれ。うちの位置、わかってる感じ? なんていうか……“待ってた”みたいやった。
だからさ……うち、しゃべりかけてみたんよ。いや、相手、花やけどな!? でもなんか、そうせなアカン気がしてん。で、思わず──
「どないしたん? なぁ、あんた、ピクピクしてるけど、大丈夫なん? もしかして、うちの魅力にやられたんか〜?」
って、犬に話しかけるテンションで言うてもうた。膝に手をついて、前かがみで、“よーしよーしおいで〜”スタイル。
……いや、アホみたいに見えたのはわかってる。でもさ、ちょっとワクワクしてたんよな。
──その時、うちの頭の中に、声が響いた。女の声やった。ちょっとしゃがれてて、でも妙に艶っぽい。なんか……強気。
『……ちょっと、敬意ってもん、持たへんか? 小娘。うちのエネルギーのほうが、あんたのそれより、何倍もすごいんやけど?』
──はぁ!?!?!? はぁぁぁぁぁあああああああああああ!?!?!?!?!?
言うたで今この薔薇!? うちのオーラを!? うちの美学を!? 否定したってことやんな!?!?!?!?
いやちょっと待って……なんでうち、薔薇にマウント取られてんの!?!?!?!?!?!???
「こっち来いやああああ!!! この百均のフェイクフラワーがああああ!!!!」
『行ったるわ、このポンコツポニーテール!!』
「股開け!!」
『セサミじゃい!!!』
「そのボケ、強引すぎて腰いわすわ!!」
『はあ!? お前こそ、ただのビッチやんけ!!』
「お前がビッチやろ!? フルオプション付きの、デラックス版な!!」
『いやいや、お前はBluetooth付きの昭和家具やで!?』
「お前、インフルエンサーごっこしてるホウキやんけ!!!」
『お前、最終回に雨の中で叫びたくて生きてる女やろ!!』
「お前は……バカバロネラや!!」
『バカバロネラ!? なにその“花の香りする洗剤”みたいな名前!?』
「意味なんかないわ!! でもお前はサクラバカミクロンや!!」
『サクラバカミクロン!? それ、魔法失敗しそうな雑魚技の名前やんけ!!』
「そうやけど強そうやろ!!」
『お前、ニセモノ魔法乙女ちゃんやな!? アニメ打ち切り3話コースのやつ!!』
「ていうか、……うちら今、何してたっけ?」
『……知らん。』
「アハハハハハハハハ!!」
『アッハッハッハッハッハ!!』
いや、笑えへんわ。ふと我に返って──冷静になった瞬間、頭がバグった。
「……ちょ、待って待って待って。」
「どうやってうちの声聞いてんの!? てか、お前……どうやって喋ってんの!? お前、花やろ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
ツッコミながら、思わず一歩下がった。指差して、「喋んな、花ァ!!」って言いたくなった。
いやマジで──これ、笑い事ちゃうわ。ホンマに喋ってるし。
『やれやれ……あのな、“地球の論理”ってやつ、ちょっと置いていきな? いちいち考えんと、ただ──感じろや、人生。
せや、今お前は“薔薇に話しかけられてる”わけや。それが魔法ってもんやねん。それが──この世界の面白みや。
……まぁ、“論理的な説明”が欲しいんなら、言うたるわ。
うちは、完全なる異次元存在。人間の理解を超えた、訳わからんもんや。
今お前と会話できてるのは──テレパシーや。
──満足か、好奇心モンスター?』
「……ワッタファック。」
『“ワッタファック”って何やそれ。意味わかって言ってんのか、小娘。』
……
……
「……もうええわ。なんか知らんけど──あんた、嫌いじゃないで。」
「名前、なんなん? あ、うちが勝手につけたるわ。ロジフロリや!!」
『……黙れ。もう一回それ言うたら、星が見えるくらいビンタしたるからな。』
『聞け、人間。うちは──お前らみたいな“名前”ってもん、持ってへん。人間はすぐ名前つけたがる。まあ、それが文化っちゅうもんなんやろけど。
でも……あいつらは、うちのことを──“意思と決意の薔薇”。あるいは……“赤の薔薇”。』
「……なるほど。じゃあ、赤さんって呼んだるわ。」
『……赤さん?』
「うん。赤いやろ?」
『……その名前、ダサい。』
「え、なんで!?!?」
『“赤”って、そのままやん。オリジナリティ、ゼロやんけ……』
……
『……ふむ。何年も考えた末に、もし──うちが人間みたいな“名を持つ存在”やったら……その時は、“イスシア”って呼ばれたい。』
「イスシア?」
『聞いてみ? イスシア……。語感、最高やろ。』
「は〜ん。で、略して“シアさん”って呼んでええ?」
『……』
「……じゃあ、“シアちゃん”は?」
『……………………』
「……はいはい。イスシアな。わかったわかった。」
でな──ふと気づいたんよ。「……え、うち、どれくらいここで喋っとったん?」
何分かわからんけど、うちは──一輪の薔薇に向かって、めっちゃ真剣に、めっちゃ長く、しゃべり続けとった。一人で。声出して。花に向かって。
……うん。完全に病み散らかしとる人やん。
で、顔上げたら──そこに、浮かんでる毛玉と無言の気むう。ふたりとも、ガン見。
「あっっっぶな!!!!!!!!!! めっちゃ見られてるやん!!!!!!!!!!」
うっっっわ恥ずかし!!!!!!! あいつらさ……うちの“うわああああああああ”って顔、ガッツリ見たくせに──何も言わんかったんよ。ただ、スーッ……と離れていった。まるで、「うん、うん。続けて。気にせず、喋ってて。」みたいな空気出しながらな。
……嘘つけや。絶対、見とったやん。全部、見とったやん!!!!!
『アッハッハッハッハッハ!!! ま、うちはお前の脳内に残っとくわ〜。』『じゃ、これからやる“なんか知らんこと”に、頑張ってな〜〜。』
「……どーもどーも、イスシア様。ご丁寧にありがとさん。」
ふんっ!!
──そうして、うちは“脳内に住みついた謎の薔薇”と別れた。
なにこれ。ほんまに正気なんかうち。でも……楽しかったんよな、なんか。ロザルを、もう一周だけ歩いてみようと思った。最後にもう一回だけ。
それから毛玉に言おうと思ってたんよ。「……そろそろ寝かせてくれへん?」って。
でも、毛玉は──どこにもおらんかった。
⋒⋓⋒⋓⋒
その代わりに、いたのは──気むうやった。彼女は、白い薔薇の前に立っていた。
うちは、何も言わんかった。近づきもせんかった。うちが薔薇としゃべってるとこ見られたんや。なら、今度は──うちが見る番やろ。
でも、彼女はしゃべってなかった。ただ、そっと、その白い薔薇を──手で撫でてた。まるで宝物みたいに。何か壊れそうなものを、やさしく、やさしく守ってるみたいに。
そして、薔薇は応えていた。静かに。ピカ……ピカ…… と、心臓の鼓動みたいに光りながら。言葉なんていらん空間やった。それが、ちょっと、泣きそうになるくらい綺麗でな。
そして──気むうは、そのまま、ぽつりと言った。
「……ただいま。」
なんか、気むう……めっちゃ綺麗に見えたんよ。めっちゃ幸せそうやった。白い薔薇の前に立って、微笑んでるわけでもないのに、顔が、ふわっとしてて。
「……あれ、誰やろ?」って思った。うちの妹やのに、うちの妹ちゃうみたいで。いつもの、あの無口なゴスロリ氷属性じゃなくて──
なんか、ちゃんと“気むう”として、そこにおったんや。その時間を、ちゃんと楽しんでる感じがした。だから、うちは──邪魔せんとこって、思った。
そっと後ろ向いて、毛玉探しに行ったんよ。
……でもな? ほんまは、ちょっとだけ悔しかったんやで。だってあいつ、うちが薔薇と喋ってるとこ──ガッツリ見てたもん!! 復讐チャンスやったのに!!
ま、しゃあないな。可愛い妹やしな。
ちょっとそのへん回ってたら、毛玉、見つけた。いや、簡単やった。壁にもたれて、ぐでーって寝転んでたから。
……なにしてんのこの毛玉。って思ったら──なんか、クリップボードにメモ取ってた。うそやろ!? お前、観察日誌とか書くタイプなん!? てか──何書いてんねん。
「赤い薔薇に“アカさん”命名。対象、恥ずかしがるも気にせず定着させる。」
「突如、感情的な叫び。→ 薔薇と口論開始」
「結論:問題児。」
うん、たぶんそんな感じやと思う。
「なあ、あんた……毛玉さんやんか? ちょっと聞いてや。うちら、暇やねん。いや、気むうはちゃうけど。あいつはあっちで、“やさしみの儀式”みたいなんしてるし──
でもうちは。うちはもう、寝たいんよ。なあ、いつ帰れんの? 眠すぎて、体の力抜けそうやわ……」
毛玉は、ふぅっとため息をついた。
「……ああ、そうですね。その通りです。妹さん、呼んできてください。帰りましょう。本日の“試験”は、もう十分やと思います。」
その言葉を聞いた瞬間──うちの体から、すべての力が抜けていった。
ああ、やっと……寝れる。
気むうは、もう白い薔薇を撫でてなかった。だから、うちは迷わず、腕をガシッと掴んで連行した。
いや、姉やし? 姉ってそういうもんやろ? 妹を引きずるのが、姉の宿命やねん。
またあの420個のドア通って……でも今回は、勝手に全部、ウィーーーンって開いたんよ!!! マイルズ、何もせんでOK。お尻スキャンもなし。毛も抜かんでええ。
帰りはフリーパスかよ。入る時だけ地獄って何やねん。
で、玉座の間に戻る途中。うちはずっと、思ってたんよ。
──あの薔薇のこと。
いや、違う。思ってたんちゃう。ずっと喋ってんねん、あいつが。
『うっわ〜! あんな暗い部屋から出るの初めて〜!! 世界って広っ〜〜〜!!』
「うっさいわ!! ちょ、黙れって!!! 脳内うるっさいわ!!!!」
でもな、黙らんのよ。ずーっとペラペラペラペラ……なんやねんこの薔薇。役立たずすぎるわ!!!!
で、ようやく玉座の間に戻った時──スウェトボーレ陛下は、もうそこに座っとった。いつもの、でっかい黄金の椅子に。いつもの、“全世界を見下すヤギ顔”で。
あの顔な……マジで、常に“顔が不機嫌”。“怒ってるヤギの顔”って、インターネットで調べたら、絶対あいつの顔出てくるレベルや。
“何かにイラついてる”とか、“お前ら全員間違ってる”とか、そういう雰囲気が顔に染み付いてるんよ。いやもう、ええって。うちら、魔女ちゃうって証明されたやん。
そんなに認めるの、ツラいん? 虫けら扱いの王様さんよ。
「陛下。本日分の記録でございます。」
「……というか、記録したのは、わたくしだけですけどね。」
マイルズは、例のごとく律儀に、クリップボードをスウェトボーレ陛下に差し出した。
陛下はそれを、なんかもう“仏の第5予言”みたいなノリで受け取った。
……それ、あるん? 知らんけど、顔がそう言ってた。
で、陛下は──
マントの中から、“いかにもおじいちゃんが使いそうなメガネ”を取り出した。めっちゃ、儀式っぽい動きで。それをゆっくりかけて、ちょっと紙を遠ざけて、目を細めて……「読みにくいけど、これが知恵や」って顔してた。もしくは──「老眼でも賢く見える演出や、これ。」
そんな感じで──数秒、静寂が続いた。
でも、その静寂の中──スウェトボーレ陛下は、口から変な音出しとった。言葉ちゃうねん。なんか……「んん〜〜……ふむふむ……」みたいな。声じゃなくて、音。反応でもなくて、なんか“読んでる感”を演出するサウンド。うちが、めっちゃ面白いラノベ読んでる時に出すやつに似てる。
「は〜〜……うわ……」みたいな、声に出したくないけど、出ちゃうアレ。でもあいつは、めっちゃ抑え気味。「んふ……ふぅ……ふむ……」みたいな。
なんやろ、本気で読んでるんか、“賢そうな雰囲気”出したいだけなんか……マジで、わからんかった。
で──読み終わったら、なんか変な音、出したんよ。「あ〜〜〜〜……っはぁぁぁ……」みたいな。
いや、呼吸か? 咳か? 魂の開放か? なんか知らんけど、めっちゃ重そうな音。
で、そのまま──クリップボード、手からスッ……て落とした。「え? そんなに大事なん!?」ってくらい、“儀式終了”って雰囲気やった。
そして──スウェトボーレは、無言でマイルズを見た。目が合った瞬間、ゆっくり、静かに言った。
「……よかろう。訓練への適性は、確認できた。マイルズ、部屋番号1200へ、案内せよ。」
「……訓練?」
……
「え!? うちに魔法、教えてくれんの!?!?!?!?!?」
「うっわ! 本物の魔法!? バッコーン!ドカーン! OMGOMGOMGOMGやばすぎん!?!? え、異世界アニメみたいに呪文とか叫べるん!?!? まじで!?!?!?」
……
……──あ、待って。……もしかして、筋トレ系……? 重い石持たされるやつ!? 走らされるやつ!? 汗だくなるやつ!?!?!?
……ヤダヤダヤダヤダヤダ!!!!!
「承知いたしました。全力を尽くします。」
マイルズはうちらの方に向き直って、こう言った。
「では、お嬢様方。こちらへどうぞ。」
──また、歩く。またまた、歩く。もう、文句すら出てけえへん。今日は一日中、歩きっぱなしやもん。
で──やっぱり来た。あの声。
『うっわ〜! 神い、なんか大変なことになってるっぽいな〜!? 訓練とか、面白そ〜〜〜♪』
……黙ってくれへん?
『やーだっ! ニャっ♡』
……
……もうええわ。
もうな、薔薇とおしゃべりしてる暇なんてなかった。うちには、もっと大事な問題があって──それは、“このクソ長い道”で足が死なへんようにすることやった。
周り見たらすぐわかる。気むうの顔とか、並んでるドアの番号とか。
「あ、これ地獄くるやつや。」ってなった。
地図でも見たけど──この城、デカすぎんねん。
で、今通ってる廊下のドアに書いてある数字が、
「667」「671」「674」……
いや、待って。うちら、向かってんの……「1200」やで!?!?!?!?!?!?!??!?!?!?!?!?!
あああああああああああああああああああああ神様ァ!!!!!!
もうな──927番のドアを通ったあたりで、うち、死を願い始めてた。
気むうとうちは、お互いの首に腕を回して、半分ゾンビみたいに歩いとってん。まるで戦場帰りの兵士。命の支え合い。
「あと……ちょっとや……」みたいな顔して、ずっと歩いてた。
で──1157番のドアに来た時。
もう無理やった。ここで、精神崩壊。
残りたったの50ドア。最初に比べたら、めっちゃ少ない。
でもな? うちらの血管、限界ギリギリやってん。足も叫んでた。魂も叫んでた。
「これ、魔法の訓練ちゃうやん。歩行耐久の拷問やん。」
明日の筋肉痛な、マジで爆発級やで。これはもう、確定事項。足の感覚、もう無いもん。
……で、やっとや。やーーーーーーっと。ここまで来た。
歩き続けて、たぶん──50分。いや、時計ないし、正確な時間は知らんけど、体感で言うなら50分超えてた。絶対。これはもう、筋肉が証明してくれてる。
そして、うちらはついに、見上げた。「1200」番。
「……やっと着いたし、感動のフィナーレやな?」
そう思ったんか? ううん、違うで。うちら、転んだ。
最後の一歩、まさかの「ドンッ!!!!!」やった。床にダイブ。しかも、頭から。
たぶん、この城がこう言ってたんやと思う。
『ご苦労。顔面からどうぞ。』
そのまま、地面にぺったんこになって──
「やっっっっっっと!!!!!! 着いたああああああああああ!!!!!」
……
そしてその直後──
うちらは、気を失った。