第18話:ココナツ…
気むうは、いちばん後ろからじっと前を見てた。
マイルズは──なぜか尻尾で地形をスキャンしてるっぽい。
フルカフトはというと、湿った空気を楽しむみたいに目を細めていた。
その彼が、ふとつぶやく。
「自然の中心へ続く入口──何度来ても、気持ちのいい場所だな。」
「そ、そうやねぇ〜。自然って最高やなぁ〜。……で? その“自然”でうちを背中に乗せてくれへん?」
足、痛いんだよマジで。
「はぁ? ほんとにお前は……怠け者の極みだな、カミイ。」
フルカフトが呆れ笑いしながら、体を光らせていく。
次の瞬間──バサァッ! 白虎モード、発動!
「いぇぇぇぇぇい!!!」
反射的に飛び乗って、どっかのRPG主人公ばりにポーズ決めた。
──はい、私の専用マウント、降臨。
「神い。……ほんと、一回その怠けぐせ診てもらった方がいいよ。」
気むうが横目でぼそっと言う。
「んむむ〜っ!!」
舌をベーッと出して、片目をぎゅっと閉じる。
完璧な返し。姉の威厳ポイント+0。
気むうは、いちばん後ろからじっと前を見てた。
マイルズは──なぜか尻尾で地形をスキャンしてるっぽい。
フルカフトはというと、湿った空気を楽しむみたいに目を細めていた。
その彼が、ふとつぶやく。
「自然の中心へ続く入口──何度来ても、気持ちのいい場所だな。」
「そ、そうやねぇ〜。自然って最高やなぁ〜。……で? その“自然”でうちを背中に乗せてくれへん?」
足、痛いんだよマジで。
「はぁ? ほんとにお前は……怠け者の極みだな、カミイ。」
フルカフトが呆れ笑いしながら、体を光らせていく。
次の瞬間──バサァッ! 白虎モード、発動!
「いぇぇぇぇぇい!!!」
反射的に飛び乗って、どっかのRPG主人公ばりにポーズ決めた。
──はい、私の専用マウント、降臨。
「神い。……ほんと、一回その怠けぐせ診てもらった方がいいよ。」
気むうが横目でぼそっと言う。
「んむむ〜っ!!」
舌をベーッと出して、片目をぎゅっと閉じる。
完璧な返し。姉の威厳ポイント+0。
───◇───
森の中ってさ、ある程度歩くと──もうどこにいたのか分からんくなるんよね。
方角の感覚なんてゼロ。頼りになるのは、コンパス……
いや、うちらの場合は、“浮いてる猫玉ナビゲーター”だけ。
そして、もうひとつ。
気むうがうちと一緒に、白いモフモフ(=フルるん)に乗りだすと──
もう完全にピクニックモード突入。
お気に入りのドリンクを飲みながら、森の奥をゆったり進む。
……まあ、そのドリンク、残り三分の一くらいやけどな。
“旅の浪漫”とか言う前に、現実は喉がカラカラや。
でもな、まったく予想してなかったんや。
その瞬間が来るまでは──。
……ズドンッ!!
「な、なにィィィィ!?!?!?」
ほんとに、どっからともなく──ココナツが飛んできた。
避ける間もなく、うちの頭にクリーンヒット。
星が見えた。いや、もはや銀河レベル。
「ちょっ……いっったぁぁぁぁ!?!?!? 誰やコラァァァ!!!」
床に転がりながら叫んだ。
空、静か。風、無風。
……なのに、もう一発飛んできた。
「うわぁっ!?!? マジでどっから来てんねん!!!」
なんとか立ち上がって、すぐに〈スピード〉を起動した。
反射で動く。
気づいたら──意味もなく、森の中をジグザグで歩いてた。
だってさ、どっからともなくココナツ弾幕が飛んでくるんやもん!
頭上から、横から、時々下から(物理的にありえん角度)。
金曜の夕方。
普通のJKがこんな時間にしてるの、勉強とか恋バナやろ?
うちは今、森でココナツ避けゲー中やけど? は?
で──ようやく静かになった。
「っしゃぁ! 勝ったぁ! ざまぁみろココ──」
……ボゴッ!!
「いったぁぁぁ!?!?!?」
再び頭に直撃。完璧なタイミングで落ちてきやがった。
「くっそぉぉぉ!! ココナツの親族、全員呪ってやるぅぅぅ!!!」
「……ほんと、神いってバカだよね。」
気むうが無表情のまま、片手にココナツを持って言った。
「は? なんで急に?」
私が振り返った瞬間──
「これっ。」
スッ──!
完璧なフォームから放たれたココナツショット。
反射でしゃがんだおかげで、ギリギリ頭上をかすめた。
「ちょ、ちょっと!? 今の殺意なかった!?」
「……ふふ。」
小さく笑った。
声にならない、静かな笑い。
“クール系妹の笑い”って、なんであんなに腹立つんや。
うっし、マジでムカつく!
森の奥へ進むほど、空気はねっとり重くなる。
ココナツ弾幕は──終了。でも、頭の鼓動だけドクドク続行中。
〈スピード〉をいったん落として、肩をぐるっと回す。よし、次来たらぶっ倒す……いや、物理は平和的に破壊する。うん、それや。
「解析完了。弾道は上方の──」
マイルズがドヤりかけた瞬間、ビヨンッ。
「にゃーーーー!?」
見事に逆さ吊り。尻尾くるくる、体ぷらんぷらん。
結び目にはピンクのリボン、そして安い甘い香水。
……このセンス、誰のやろなぁ。言わんけど。めっちゃ言いたいけど。
「大丈夫」
気むうは棒読みで一歩だけ近づき、指先ひとつで結び目を外す。
ずるり、とマイルズ落下。
「助かった……しかしこの結束、安いのに手際はいい」
──安いのに手際はいい。誰への賛辞なんそれ。
進む。
道のど真ん中にふわふわ葉っぱカーペット。はいはい、落とし穴な。見えてるって。
フルるん(白虎)ひょい、気むうひょい、うちは慎重に、慎重に……ズボッ。
「ドサァァァ!!」
泥! 冷たい! 死!
底板にマジックで、
「ごじゆうに おちてね♡」
“ね”だけ丸文字でむだに可愛い。事件や。
「美は泥の中にも──」
「黙れフルるん!!」
藪の影に小箱。“トレジャー”の手書き。
開けるよね主人公やし。パカッ。
パァン!──紙吹雪、からの金ラメが顔面直撃。
さらにベチャァ。米飴みたいな接着液が頭頂から前髪へ直行。
「誰がパーティー仕様にしろ言うたんやァァ! 結婚式ちゃうわ!」
箱の底の紙切れ:
「とくべつ ぷれぜんと♡」
“とくべつ”だけ漢字書けへんあたり、知能の方向性が見える。言わんけど。めっちゃ分かる。
少し開けた場所に手書き看板が生え始めた。
「宝→」「無料お菓子←」「理想の彼氏↑」……**↑**って何。
小さな札がひらひら:
「ドビチ こっち♡」
“ドビッチ”の綴りミス。口癖の人、おるよなぁ(大棒)。
とはいえ宝の矢印は正義や。
一歩、二歩──ピン。
足元の細い糸が鳴いて、どっかのOSみたいなエラー音が森にチーン。
スパァン!横から枝ムチ、葉っぱビンタ、足元の小ばねポンッ、最後にカツーンとココナツの追い打ち。
「コンボやめろ! ここ格ゲーのトレモちゃうで!」
「……姉さんの学習、ゼロ」
気むうが無表情で一刀両断。
「学習はこれからや!!」
反射で言い返したけど、前髪のラメがまったく落ちへん。クソ。
道ばたに瓶。ラベル手書き「ジャングル・ロマンス」。またお前か。
キャップをちょい開け──むわっと甘い匂い。
白虎がクシュン、からのブワァ。背中の筋肉が跳ねて、うちはフルるんロデオに強制参加。
「揺らすな! 背骨がダイスシェイカー!!」
三秒で酔った。世界回る。おえっ。
瓶の底に油性ペン:
「ひとふりで もふもふ あっぷ♡♡」
ハート二つ。はい、分かった。言わんけど。分かったって。
枝にぶら下がる木製の鳥スピーカー。近づいたら、
「ドビッチ! ドビッチ!」(機械音)
「うっさいわ!!」
棒でつつく──パタン。腹が開いて小石の雨。
割り箸ヒンジ、金色テープ、端っこにピンクの糸。
……証拠品セットか。ありがとな(皮肉)。
汗が首筋を伝う。
ココナツ、ネット、落とし穴、紙吹雪、接着液、看板、瓶、鳥スピーカー──
安っぽいのに手際がいい。
しかも全部、“私”に効く嫌がらせに全振り。
偶然ちゃう。けど今ここで犯人を叫ぶの、安すぎる。
主役は黙って──前へ。
一歩。
枝の影に最後の細い糸。指先で触れた瞬間、チリ……と空気が鳴る。
バンッ!
足元の土がちょっとだけ盛り上がって、盛大に泥が跳ねる。
顔、泥。ラメ、泥。尊厳、泥。
「…………」
笑うな。誰も笑うな。
(気むうの肩が小さく震えた。覚えとけよ)
泥をぬぐって息を吐く。
───◇───
草が、もう顔にバチバチ当たってくるレベルになってきた。
うちらは仕方なく一列になって、手で葉っぱをかき分けながら前へ進む。
「うぅ〜……もうイヤ……」
思わずうめく。服にくっつく湿気、虫、視界ゼロ。
……これ絶対“冒険”じゃなくて“耐久配信”や。
「もうちょいだ、みんな! あと三時間くらい!」
前を歩くマイルズが、のんきに言い放った。
「言うなそれを!! 三時間を“もうちょい”で済ますなバカ猫ボール!!!」
叫んだ。
本能的に叫んだ。
この森、音が吸われるのに、叫びだけはやたら響く。
……神様、お願いや。せめて道だけはバグらせないで。
ふと、左のほうで──光が“ドクン”と脈打った。
「……ん?」
目の端に入った瞬間、反射で首が動いた。
光は、ゆっくり点滅してる。
まるで“呼吸してる”みたいに。
気づいたら、もう足が勝手に動いてた。オートモード発動。
最初は、ただの日差しの反射かと思った。
でも違う。もう太陽が落ちかけて、空はオレンジ。
木々の間からじゃ、直射なんて届かへん時間や。
「……なんやこれ……」
葉をかき分けながら、少しずつ近づく。
──気をつけろ。みんなから離れるな。
頭の中でそう言ったのに、足はまるで聞いてへん。
……
…………
──いや、聞いてへん言うてるやろ!!
「って、うわぁぁ!!」
足を滑らせて転んだ。
枝がぱちんと跳ねて、顔にワンヒット。
──気づいたら、完全に迷ってた。
森の真ん中、方向ゼロ、仲間の足音もナシ。
荷物? ナッシング。
食料? ない。
メンタル? ギリ。
「……はぁ〜、うち今どこやねん……」
独り言が思ったよりデカい。
返事なし。虫も沈黙。
はい、孤独確定。
……落ち着け、神い。パニックになったら負けや。
でも、パニックにならん理由も特にない。
あー、どないしよ……って──
「……ん?」
またや。
さっきの“光”、木の間でチカチカ点滅してる。
「お前、まだおったんか……」
完全に迷った時点で、うちはもう開き直った。
「……もうええわ。知らん。行ったるわ。」
そう言って、勢いで草をかき分けて進む。
目の前の光──その正体を見届けたる!
ガサガサガサ──
葉っぱの向こうに、でっかい木製のカタパルトが現れた。
なにこれ。中世? ここファンタジー?
中央に──見覚えしかない球体。
ココナツ。
……またお前か。
「おい待て、それ飛ばす気満々の角度やん……」
そう思った瞬間、遅かった。
ドゴンッ!
視界、真っ白。
頭、鈍痛。
地面、近い。
また。
またココナツ。
何回目やねん、これ。
「いったぁぁぁぁぁ!! もうココナツ絶滅してくれぇぇ!!!」
地面に突っ伏したまま絶叫。
頭をさすりながら、なんとか起き上がった。
「……いてて……マジでこの森、訴えてえぇレベルやで……」
視界がブレてるけど──あの光、まだある。
しかも今度はカタパルトの“後ろ側”でチカチカしてる。
「は? 後方射撃型……?」
文句を言いながら、ココナツ警戒モードで前進。
つるが絡んでて、まるでジャングルの洗礼。
手で払いながら進むと──
そこにあったのは……石碑みたいなものだった。
周囲には、ろうそくじゃなくて古びた小さな宝箱が置かれてる。
箱はつるに覆われ、金属部分は信じられんくらい錆びてる。
そして、中央の石板には大きくこう書かれてた。
「ロジャー老人の墓」
その上に、もう一枚。木の看板。
「ロジャーじいさんの宝 さわるな」
……まじ?
宝?
さわるな?
それってつまり──
「当たりやん!!」
思わず叫んだ。
「神様ありがとう! ついに人生勝ち確や!!」
この時のうち、IQたぶん3。
テンションだけで動いてた。
箱に近づいて、鼻をくんくん。
うん、湿気と錆の香り、つまりリアルや。
「うん、これ絶対中にあるやつやな……」
──で、開けた。
開けてみたら──中は、空っぽ。
「……は?」
え、ちょっと待って。
金貨? 財宝? 夢? 全部ナッシング。
中にあったのは、ただのスクラップ地獄。
サビた金属、歪んだボルト、意味不明な鉄片の山。
「うそやろ……!? 誰や、先に持ってったん……!?」
しかも開けた瞬間、嫌な音がした。
“ガコン”って。
箱じゃなくて、なにか別の仕掛けが動いた音。
「え、ちょ、待っ──」
スルルルッ……
目の前で、つるが揺れた。
次の瞬間、ココナツのかけらが滑り台みたいに飛んできて──
「……またお前ぇぇぇぇぇ!?!?」
ゴンッ!!
完璧なヘッドショット。視界、ぐるん。
足元が“カチリ”と鳴った。
え、なに今の──
バキィィィ!!
地面が開いた。
うち、落下。
「ぎゃあああああああ!!!」
最後に見えたのは、空じゃなくて鉄の光。
まるで世界が「次のステージ」を読み込んでるみたいやった。
数秒間の絶叫スライドのあと──
ドガァァァン!!
お尻に直撃。
「いったぁぁぁぁぁ!?!?! お尻ぃぃぃ!! うちの可愛いお尻ぃぃ!!」
涙出た。マジで。
見上げると、そこは……屋内。
天井高っ。
広さはたぶん、学校の体育館くらい。
でも床はまっすぐじゃなくて、円形のアリーナみたいに凹んでる。
周りの壁には、金色の龍やら赤い提灯やら、
いかにもな中華デコレーションがズラッと並んでて、目がチカチカする。
ここどこ、チャイナタウン?
で──正面。
「あ……」
言葉が出なかった。
そこに立ってたのは、見間違えようのない人物。
黒髪を揺らして、ニヤリと笑うその顔。
香蒂。
心の声と現実の声が完全に一致した瞬間。
最悪の出迎え!!!




