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第14話:なんやこの中国エレガンス

「いやぁぁぁぁ!! なんやこれ、クソか!!」

空に向かって叫んだ。

「くっそ……あの化けモンども、倒しにくすぎやって! うち、もう爆発する寸前やったわ!」


今のうち、フルカフト(虎形態)の背で完全“お姫さま運搬”。

出発一時間で文句たれ始めたくせに、まだ全身ぐったり。

“専用のお馬さん”あっても休めるわけちゃう。──あの猫系いかれガールと巨大カエル軍団、最後は大爆発で締め。そら疲れるやろ。


「姉さん、文句多い」気むうは素で言う。

「黙っとき、気むう! “エクスプロージョン”一発の重さ、知らんやろ!」

「神い、道中ずっとフルカフトの上。最初は気絶、その後は足が痛い」

「……ちっ」


横に「ぺっ」と吐き捨てて、心の中でもう一回舌打ち。

──はぁ? うちの“正当な休憩”にケチつけるとか、どの口が言うねん。うちは働いたで。爆発で。ちゃんとな。


「ちょっと待て、二人とも。ケンカはやめろ」

フルカフトが穏やかに笑う。

「神いは今日、よく頑張った。それに、全然重くない」


「……ほんまに? 重くない?」

気むうが小さく首をかしげる。


「羽みたいだ。人間って案外軽いんだな」


「なっ!? 聞いたか気むう! “がんばった”うえに“軽い”までいただきましたー! つまりやな──うち、華奢! スレンダー! アイドルボディ認定!!」


べーっと舌出して、両手で中指を突き立てる。

「んん〜っ!! はい、二本サービスやァァ!!」


気むうは首をちょこんと傾けただけ。完全に「どうでもええ」ってサイン。

……ふふっ、勝ったな。勝負ありや。


マイルズは別世界。ふわふわ浮きながら、尻尾だけスゥ……スゥ……ってメトロノーム。──なに考えとんねんコイツ。

と思ったら、いきなり口開いた。


「夜が落ちてきましたね。今のうちに宿を探さないと、野宿になりますよ」


声はやけにかしこまってて、場違いなまでにフォーマル。こっち死にかけ女子高生やぞ?


「え、宿? どこにあんのよ……」

きょろきょろ見渡して──お。

ぽつんと、遠くに一つだけ灯り。


「ほらほら! あそこ! あそこ光っとるで!!」


「……ん?」

気むうは興味なさげに一瞥。

「なに、あれ」

フルカフトも首をかしげる。

マイルズは……黙って瞬き二回。無駄に儀式っぽい。


灯りは道の先で、まったく動かん。

周りは空っぽの平原。見えるのは──二十キロ以上先の山々くらい。

ほんま、完全なる“ザ・虚無”。ラスボス前のフィールドか。


「……まあ、確かめるしかないな」

フルカフトは相変わらず前向き。声まで爽やか。

──はいはい、ポジティブ担当お疲れさま。


フルカフトが急に歩幅を広げて、そのまま加速。

落ちんように、うちは背中にガッとしがみつく。


「お、おいってぇ!!」


後ろで気むうとマイルズがふわっと浮いて、速度を合わせて飛び始めた。


「ちょ、待って待ってぇぇ!! スピード落としてぇ!! 落ちるって!!」


「ふふ、ケモの騎乗は練習が要る。学びたまえ、神い。ハハハ!」


「このクソ毛玉ぁぁ!!」


(※ただの叫び。効果なし)


フルカフトにしがみついて数十秒──ほぼ命綱。

……いや、ほぼやなくてガチで命綱。


で、あの灯りの正体に到着。


──屋敷。


……

……

……


ちょ、待て。

なんで屋敷やねん?

はぁぁ!?


「なんやこれ……? 虚無ど真ん中に、屋敷……? うちら大丈夫か?」

思わず口あんぐりで見上げた。


……屋敷。

しかもな、カンフー映画に出てきそうなレベルで、チャイナ建築ド真ん中やんけ。


「ここ……中国人住んでる」

気むうが真顔で一言。


「そ、そうやな……」


「“中国”とは?」

フルカフトが首を傾ける。


「中国は……まあ、“中国”や。言わんでも分かるやろ!」

とっさに雑な説明ぶっこんだら──


「違う。これは“チュクワル建築”だ。北の国、フロワルのさらに二国先にある」

マイルズが、相変わらず教科書みたいな声で断言してきた。


「チュク……何? なにその舌噛みそうな国名」

「現実だ。歴史的に由緒ある」

「……要は、うちらの中国やな」気むうが結論だけ冷静にまとめた。


「──はいはい。ほなもう中国でええわ! 覚えられるかこんなん!」


「ま、とりあえず……ここで泊まれるか聞いてみよか」

マイルズが前に出た。


「それそれ! うちもう、足も魂も限界やって!!」


でっかい鳥居みたいな門のボタン、ポチ。

──……。

……。


「……長っ! 開くのおっそ!!」

体感五分くらい経った気分で、ようやく重たい扉がギィィ……と動き出した。


中は噴水。水がピシャピシャ踊っとって、正面玄関まで妙にオシャレな一本道。


「……チャイナのエレガンスってやつやな」

うち、ポカーンと見上げながらボソッと漏らす。


マイルズが扉をコンコン叩いて、かしこまった声。

「ごめんくださーい! 我々は王城から派遣された冒険者でして──」


ガチャ。

──その瞬間。


「…………え」

出てきた二人を見て、思考ストップ。


顔、やたら縦に長い。

目ぇ……ただの一本線。


「なっが!? 目ぇ線て!!」

一歩引いて、思わず口を押さえた。


「コンバンワ〜! ワタシタチ、アナタタチ、マッテマシタヨォ〜!」

「トテモトテモ〜、ウレシイデスネェェ〜!」


……来た。カタコト日本語フルコンボ。

イントネーション全部カタカナ。しかも無駄にでかい声。


「え、えっと……ど、どうも……」

マイルズ、完全にペース持ってかれて、頭ペコペコするしかなかった。


あの顔なが〜い人ら、チャイナゆかた着たまま、すっと奥に入っていった。

扉は開けっぱなし。──完全に「入れや」ってサインやん。


靴脱いで中へ。

……で、正直ガッカリ。


中身、フツーの和風ハウス。

廊下、階段、居間へつながる入口。

ただ広いだけで、特にド派手な装飾ゼロ。


「……え、なにこれ。うち今、江戸時代の下宿屋でも来たん?」


チャイナ豪邸かと思ったら、ただの古民家風。

どこが優雅やねん。


とりあえず案内されるまま座卓の前へ。

……なんやこれ、完全に“昭和のちゃぶ台会議”。


「ほんまにチャイナ人なん? いや……ちょ待て。あいつら、“チュワルル”とか言うとったな……」


──チュワル?

──チュクルワ?

──チクワ?


「……もうええわ。まとめてチャイナで」

頭ん中で一人でツッコミ入れてた。


「コンバンワ〜!! ミナサン、オゲンキデスカ〜!?!」

父親がドカーンと叫んだ。いやもう、声デカすぎやろ。


「え、えっと……はい。おかげさまで」

マイルズが無難に返す。


「ワタシタチ、ゼンゼン ダイジョウブ〜! アリガトゴザイマスネェ! アナタタチ、ナニ シニ キマシタ〜!?」

……イントネーション、全部カタカナやん。聞いてるだけで耳がバグるわ。


「じ、実は我々、王様からの依頼で──」


「オオ!! オウサマ!! アノ ヤギノ オウサマ!! スバラシイィィ〜!!」

父親はなぜか両手広げて腹まで揺らしとるし。


「ソウソウ! ワタシタチ、オウサマ ダイスキィィ〜!! ネッ、アナタ!!」

母親も細っこい体でパタパタ動いて、棒みたいに見える。


……いやほんま、この夫婦、クセ強すぎやろ。

父はビール腹でパンパン、母は真逆でガリガリ。しかも二人とも顔の形……なんか枝豆のさやみたいやし。


「……うちら、今夜ほんまにここ泊まってええんか?」

内心ツッコミ入れながら、笑顔だけはキープした。


「今夜……もしよかったら、泊めてもらえませんか?」

マイルズが丁寧に切り出す。


「オオ! ハイハイハイ!! モチロンデスヨォォ!!」

父親が叫んだ。

「ホラ、アソコ! パシーロ マガッテ、ミギノクルマ!! アレ、アナタタチノ ヘヤデスヨォォ!!」


「ハイハイ! ワタシタチ、イマ トッテモ イソガシイネ! ネッ、アナタ!」

母親が妙に甲高い声で相槌を打つ。


「ソウソウ! イソガシイィィ〜! ……タベル、スル!!」

父親はドヤ顔で腹をポンポン叩いた。


「えっ……ど、どうもありがとうございます。ご迷惑おかけしてすみません……」

マイルズが深く頭を下げる。


「ノープロブレム!! ノープロブレム!!」

カタコト夫婦は声を合わせて連呼。


──次の瞬間。

父親が母親をお姫さま抱っこ。

……いやいや、なんの見せつけやねん。


「……行こ」

マイルズが小声で促して、うちらを押しやるみたいに部屋の外へ。

扉をバタンと閉めた。


マイルズの案内どおり、“廊下の突き当たり右”。

そこにあったのは──ミニマルなお部屋。


布団はすでに四組並んでて、家具もほとんどない。

殺風景やけど、寝るには十分。


……ん?

気づいたら、フルカフトが人間の姿になっとるやん。


「いつの間に……?」


一瞬ほんまに驚いたけど、すぐ気づいた。

虎モードのまま、このドア通れるわけない。


……はい、アホでした。自分で自分にツッコミ入れとこ。


ドサッ!──思い切り布団に飛び込んだ。

衝撃はカラダに来たけど、疲労で痛みすら感じん。そんなレベル。


「ふぁぁぁ……やっとや! もう無理やって、うち!」

半分叫びつつ、目がふにゃりと閉じる。


……。

……。


zzzZZZ──


───◇───


「……寝た」私がつぶやく。

「うん、見てる」フルカフトが返す。


──姉は、いつも怠け者。

魔法の世界で毎日走り回っても、本質は変わらない。

ずっと、あのオタクで怠け者のまま。


私はそっと隣に座り、髪に指をすべらせた。

「……おつかれ、姉さん」

布団の端を引き寄せて、肩にかけてやる。


振り返れば、フルカフトもマイルズも寝息を立てていた。

──疲れていたのは、私たち全員。


立ち上がり、壁のろうそく型スイッチに触れる。

光がすっと消える。扉を閉める音。


「……はぁ」

ため息ひとつ。神いの隣の布団にもぐり込む。

丸くなって、目を閉じた。


「……おやすみ」


───◇───


朝。やけに早く目ぇ覚めてもーた。

他のやつらはまだ爆睡中。


髪は完全にライオン。まぶたはウェイトリフティング中。

──そんなんでも、とりあえず階段降りる決意したんや。


理由? 腹ペコやからや!

マジで胃袋が戦場。なんなら“緑のご飯”でもええし。いや、もう食えりゃ何でもええわ。


広い廊下をてくてく進んで、やたら立派な木の階段を横目に見る。

その先には障子がずらり。全部ピッタリ閉まってて、中身は一切ナゾ。


──なに隠してんねやろ……? めっちゃ気になるやん。


障子をガラリ──。

「ごめんくださ……あの、ちょっとご飯──」


……ピタッ。


目に入ったのは、昨夜の“チュクワル夫妻”やなく。


そこにいたのは、チャイナゆかたの少女。

髪はきっちりまとめてるんやけど、どこか反抗的な乱れ方も混ざっとる。

簪みたいな針が何本も刺さってて、妙にキラキラしてた。


で、その正面。

やたら顔の長い青年。昨夜の連中に似てるけど、こっちは若い。


「……あ、すんません。お邪魔しま──」

そっと障子を閉めようとした瞬間。


ガシッ!!


「……え?」

目の前の青年、電光石火でうちの手を掴んできたんや!


「ナンテ ウツクシイ オジョウサン……」

膝ついて、うちを見上げてくる。


「はぁぁ!? ちょ、ちょっと何言うてんの!?」


「アナタノヨウナ ビジョ、 ミタコトナイ……」


「お、おい! 彼女そこにおるやろ!? めっちゃ横におるやろ!?!?」

完全に引き気味でツッコミ入れた。

だってすぐ隣に──その子、座っとるやん!?


気づいたら──あの少女、後ろでブチ切れ顔。


ズズッ、と立ち上がった瞬間──


「ちょ、ま、待て! 彼氏くん、落ち着け──」


ガシィッ!!

ブンッ!!

ドゴォォォォン!!


「はぁぁぁ!?!?」

次の瞬間、彼氏は壁に叩きつけられてた。


「アアアァァ!! イタイイタイ!! ナニ スルネェ!? オマエ、アタマ オカシイカァ!?!」

壁にズレ落ちながら、必死で叫ぶ。


そのままヨロヨロ立ち上がって──

「モウ、カンベンネ!!」

叫びながら庭にダッシュで逃げていった。


……で。残ったのは、うちと少女。


ズィィィ……。

視線が突き刺さる。

ヤンデレどころやない、殺意MAX。


「う、うへぇ……」

思わず後ずさりした。


腕が、ものっそい速さで振られた。

ビュンッ──って動いた瞬間、もう顎のところに簪の先っちょがチクッと来てた。


「| 你他媽的是誰《ニー ターマー ダ シー シュイ》?」

その声は中国語――か何かやった。言葉の中に毒が混じっとるみたいな目つきで、完全に殺意のある威嚇やった。


「えっ……にゃ……?」


思わずヘンな声出してしもた。


相手が歯をギリッと噛んだ瞬間、反射で速度と敏捷のスペル起動。

バッと後ろへ跳んだ。刺される前に、間合いを切る。


「グルル! オマエ、ココ 来る!!」


……は? 原始人日本語!?

追ってくるん!? なにそれ!!


できるだけ速く逃げる。階段を跳び降りるみたいにして。


「オマエ、ニゲラレナイ!!」


「うち、何したん!? なんでやねん!!」


そのとき、壁に何かが突き刺さっていくのに気づいた。

──針。

うわ、あの女、針投げてきてる!!


「おいおいおい! 姫に当たんなや!! ふ、ふつー彼氏のほう責めるやろ!!」

針をかわしながら、東方の弾幕みたいに全力疾走。(中華版か?)


「アンタ、ダマレ! カレ ヌスム女!!」


「ちょ、待てって! そもそもそっちの彼氏が──うわっ!」

頭蓋ぶち抜かれるとこやった針をギリで回避。


二階は“さすが豪邸”って感じで、廊下と扉がずらーっと並んでる。

……のに、うちら、その景色を壊しながら突っ切っていくしかなかった。


「ドビッチ!!」


……今、うちのことビッチ言うた!?


「どビッチ言うなやコラ! そっちの母ちゃんにでも言っとけや、ガキ!!」

なんで“ゾロナ”とか出てくんねん!? 意味わからんわ!


──助かった。窓、開いとる!

「どけや、チャイナ!」


跳んだ! ……少女も追って跳んでくる。


「〈飛行〉起動!!」


──なのに、上から乗られた!


ドガァン!! 床に叩きつけられる。


上、チャイナ娘。

「や、やめろや! 離せぇ!!」


床で転げ回って、掴み合い・押し合い・転げ合い。

腕に爪がかすってヒリッ、と熱い線。髪が散って視界が揺れる。


「……っ、や、やだ!」

「ド……ビッチ!!」


体勢、ひっくり返された。

腹にまたがられた瞬間、胃がギュッと潰れて息が漏れる。「……ぐっ」


「アンタ……払う」

細い指が針をつかむ。

先端が顎の下へスッ──冷たさが一ミリ手前で止まる。

金属が光って、点みたいな白が喉元に刺さる気配。


「ドビッチィィ!!」


し、死ぬぅぅ……!!


――え?


「オオオ……! カミサマァ! テンゴクノ カミサマァ!  香蒂(しゃんでぃ)!!」

昨夜の細長ママが、今にも倒れそうな声を上げた。


「ドウシテ コウナッタァ!?」

つづいて腹ドンパパの絶叫。


二人そろって、過剰な劇団ポーズで叫ぶ。

「ワタシタチ、ドコ マチガッタノ!? アナタニ、ナニ シタノォ!?」


カラン──。

さっき「 香蒂(しゃんでぃ)」って呼ばれてた彼女は、ビクッと肩を震わせて針を落とし、サッとうちの腹から降りた。

そのまま親の前でピシッと直立、うつむき一言。


「……母。父。……ごめん」


うちは床に転がったまんま、顔だけ上げる。

──え、なに今の。状況、急に切り替わった?


視線の先。

いつの間にか気むうとマイルズとフルカフトが、揃って観客みたいに見物中。おいコラ。


「……やれやれ」

気むうは無感情に前髪を整えただけ。


「朝から派手だな、神い。ははは」

フルカフトはいつもの爽やか笑顔。


「残念です。もう少し拝見したかったのですが」

マイルズは微笑の角度を一ミリだけ上げた。


──観客席か、お前ら。


「……全員、ちょっとだけクソ食らえや!!」


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