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第8話:貧乏で、無力で。

「いっくでぇぇぇぇぇ!!!!!」


――と、うちは叫んだ。まるでギア5のルフィみたいに。いや、知らんけど。


「……はいはい。」


気むうが、いつものテンションゼロ返し。


でも、ふと目の前の景色を見て……ん? んんん???


空が……空ちゃうやん。なんかこう……多角形? ポリゴン? まるでレンダリングミスったSkyboxみたいに、ビミョ〜〜〜に歪んでる。


しかも、真ん中にドデカい線が入ってて、片方は薄い、もう片方は濃い。……いや、どう見ても、これ、現実ちゃうやろ!?


「……やれやれ。」


と、思わずボソッと言った。


「何を期待してたんですか? お城に穴掘って進むウサギとかいたじゃないですか。」


と、マイルズが呑気に言いよる。


「マイルズ、お前は黙っとけや。今しゃべる権利ゼロやからな。」


バッサァァァァ!!


切り捨て完了。


「……ちっ。」


マイルズ、まるで毛玉界の捨て猫みたいな声出しとったわ。


はぁ……もう、なんなんこれ。せっかくの異世界転移やのに、まともに楽しめるわけないんかい……バグばっかで人生台無しやん。


これ……うちらが直すん? え、まさか……あのディアブロ様? それとも、あのヤギ王?


……はぁ。もう、どんどん意味わからんくなってきたわ。ほんま、終わっとる。


「えーっと……そろそろ行きませんか?」


マイルズが、なんか急に焦った声出してきた。


「どうした、マイルズ?」


フルカフトが首をかしげる。


「いや……皆様、お気づきかどうか……」


マイルズが、めっちゃ小声でささやく。


「……今、めっちゃ見られてますよ。全員に。」


周りを見渡した。うわ……ほんまや。みんな、あの「言葉じゃないけど全部伝わる顔」しとる。つまり……


「目立ちすぎやねん……!」


そのまま、全員が前か下だけを見ながら、何事もなかったフリして歩き出した。


「……あんたが大声出すからやろ、アホ。」


気むうが、ぼそっと耳元でささやいた。


「っ……ち、ちっ……う、うっさいわ……!!」


歯をギリギリしながら言い返した。


「外王都村へようこそ、お嬢様方。ここは、この惑星でもっとも重要な村の一つでございます。これから数日間、こちらで滞在する予定です。」


マイルズが、声を抑えつつも、少しだけ元気を取り戻した感じで説明した。


「……名前、センスなさすぎやろ。」


――と、うちは、これ以上言わんように自分を止めた。


にしてもな……生まれて初めて、四角い部屋の外に出て“魔法の土地”を踏んだのに、こんなスタートとか……もう笑えんわ。


「なぜ、ここで滞在するんですか、マイルズ?」


フルカフトが、唯一背筋ピンのまま、顔も上げたまま聞いてきた。


「スウェトボーレ陛下の“偉大なるご判断”により……今回の冒険資金として、フローリン一枚すら頂けませんでした。」


マイルズが、前を見据えたまま呟いた。


「……なるほど。それは……良い試練になりますね。」


フルカフトが、いつもの落ち着いた声で応えた。


しーーーーーん……。


ピタッ。


「……な、なに……?」


気むうが、目をぱちぱちさせながら止まった。


「つまり……」


フルカフトが言いかける。


「……食費すら、ないってこと!?」


うちは、完全にフリーズしながら叫んだ。


「……残念ながら、その通りです……」


マイルズが、大きくため息をつきながら言った。


「でも……もう何日も食べてへんし、別に問題ないやろ。」


気むうが、さらっと言い放つ。


「……あ、そっか。それもそうやな。」


うちは、なんとなく納得しながら再び歩き出した。


「い、いえ……その……実は城内の酸素には、栄養素が含まれておりまして……あちらでは、食事を取らなくても生命活動が維持できる仕様で……ですが、ここは普通の空気なので……」


ピタッ。


ピタッ。


「……え?」


気むうとうちは、同時に「人生オワタ」みたいな顔で固まった。目の前に広がる“餓死エンド”が、スローモーションで迫ってくる感じ。


「……あ、あ、あ、あ……」


うち、口からバグ音声しか出ん。


「お嬢様方、落ち着いてください! まだ方法はあります! お金を稼ぐ手段はいくつも—」


マイルズが、必死にフォローしようとした瞬間。


もうええわ。


うちは、毛玉の顔面を両手でガッと掴んだ。指先、ガクガク震えながら。


「お前……頭イカれてんのか!? どうやって金なしで生きろ言うねん!! うちら、JKやぞ!? 三食のご飯と、日々のドーパミンチャージなかったら即死案件やっちゅうねん、このアホ毛玉ァァァァァ!!!!」


「は、離してっ! や、やめてくださいっ! メッセンジャーに八つ当たりすんな、このアホお嬢様ぁぁぁ!!」


うちは、マイルズを思いっきり突き飛ばして、そのまま一瞬でフルルに向き直った。


「フルるる──っ!!!!!」


……でも、その瞬間。


足が……変な方向に回った。気づいたら、踏んでた段差からズルッと滑って、もう片方の足が空中に。


バランス……崩れた。


「あ──」


その瞬間、すべてがスローモーションになった。視界がスーッと上がっていく感覚。フルカフトが、必死に走ってくるのが見えた。


でも、今……うちの目に映るのは、ただ青い空だけ。


ノ、ノ、ノ、ノ、ノ……


いやあああああああああ!!!!


骨、全部いくわこれ……!! クリリンみたいに粉々なるって、あああああああ!!!


ガンッ!!


――一発目の衝撃。回転。


そして、ゴロゴロゴロゴロ……。


痛い。マジで痛い。もう、笑えんくらい痛い。


でも、その時……背中の服をガシッと掴まれた感触があった。


気づいたら、何か……いや、誰かにぶら下がっとった。


痛みでうっすら目を開けた瞬間……視界に飛び込んできたのは、鋭い爪。


……巨大な獣の爪やった。


真っ白な毛並み。


……は!?


恐怖が、全身を一気に支配した。


ちょ、ちょっと待て……!? 今このタイミングでトラに攫われて、しかも財布まで盗まれる流れとか……アホすぎん!?


冷や汗が、ダラダラと流れ出した。


そして……


「いやあああああ!! 離せぇぇぇ、クソ獣ぅぅぅ!! お前、うちが何者か知らんやろ!? な・に・も・わ・か・っ・て・な・い・んや!! 離せえええええ!!」


でも、その獣は……うちの暴れっぷりなんて、完全スルーして前進を続けとった。


そして、うちの“仲間”たち……誰一人として助けに来る気配ゼロ。


いや、なにこれ。こんな友達おるなら、敵いらんやろ、マジで。


これ……妹と、さっき出会った二人に頼った自分がアホすぎたわ……。


「カぁぁぁぁ……セぇぇぇイ──っ!!!!!」


───▣◎▣───


「あぁ……しくしくしく……ふふふ……」


フルカフトが、焼けた胸をさすりながら泣き笑いしてた。


「あぁ、そうか……そういうことやったんか……ごめんな、フルるん。えむあっち♡」


「いやはや……」


マイルズが、しっぽでフルカフトの胸を治療しながらつぶやいた。フルカフトは階段の段に座り込んでて、胸は赤く焼けて、しかも上半身裸。(……いや、めっちゃマッチョやな。ちょっとだけ……いや、危ない危ない。)


「大丈夫ですよ、そこまで重症じゃありませんから。」


と、マイルズがうちの頭をポンポン撫でてきた。


「……お前、やりすぎや。」


気むうが、冷たく一言。その瞬間、うちの顔面がガクッと下がった。


「気むうは……そのままのクーデレの方が、可愛いで?」


ちょっとご機嫌取りしてみた。


「……ふん。」


気むうは、鼻で笑っただけやった。はぁ……と、ため息をついた。


「いや、マジで……ちょっと待ってや! うちがこのトゲ頭が白虎モードになるなんて、知るわけないやん!?」


「慣れてくださいませ。それがフルカフト様の真の戦闘形態でございます。」


と、マイルズが説明モード。


「……せやな。その“真の力”を、うちのカセイハで丸焼きにしたけどな。」


「そ、それは不意打ちです! 彼は完全に油断しておりました! 火は……火ですから!!」


マイルズが必死に返した。


「神い、もうええわ。やりすぎ。終わり。」


気むうが、ピシャッと切り捨てた。


「まあまあ、みんな落ち着けって。別に大丈夫やし、むしろ神いがちゃんと自衛できるってわかったしな? それに……ほら、ちょっと小麦色になったやん、ハハッ!」


フルカフトが、この状況に不似合いなほどラフに笑った。


「はぁ……で、結局さ。餓死しないためのプランは、どうなってんの?」


うちは、盛大にため息つきながら言った。


「まさにそれを説明しようと……でも、皆様が全然聞いてくださらな—!」


「はいはい、もうわかったわ。しゃべれ、マイルズ。」


「この村には、冒険者ギルドがあります。村を命がけで守る代わりに、一日につき二万六千フローリンが支給されます。さらに、住民からの依頼を受ければ追加報酬も得られます。」


と、マイルズが説明した。


「へぇ……それで、どうやって財政破綻しないんだ? 結構な額だぞ。」


フルカフトが首をかしげながら言った。


「国家予算から出てます。」


「おお……へぇ……なんて優秀な国家や……。」


「よっしゃ、もうええわ。フローリンがどんだけの価値か知らんけど、腹減る前に決めようや。で、そのギルド、どこやねん?」


うちは、めっちゃ適当なテンションで言い放った。


「はぁ……では、参りましょうか……。」


マイルズが深いため息をつきながら、しっぽをだらんと下げた。


「……行く。」


気むうが、視線を一切動かさずにポツリ。


「……うん、行こう。」


フルカフトが、ほんのり優しく微笑みながら続けた。


✦───≪ ✵ ≫───✦


街を歩いてた――いや、歩いてるっていうより、ほぼ「階段を降りたり登ったり」やったな、これ。正直、階段を転げ落ちてる人がいないの、逆にびっくりしたわ。「……まあ、慣れたんやろな」と無理やり納得。


「この“グランドマウンテン”を登るための階段は、もともと王城に続く巨大で広い設計でした。その途中に集落が作られ、最終的には国で最も重要な村となったのです。」


マイルズが、観光ガイドモード全開で説明してきた。


「へぇ。」


「ふーん。」


気むうとうちは、同時にやる気ゼロの返事を返した。(いや、マジでどうでもええし。)


家々は、現代っぽいコンビニの裏路地感と、「異世界ハーレムフェス(巨乳オプション付き)」みたいなノリがミックスされた、なんとも言えんカオスな雰囲気やった。


てか、階段の途中には、ネクタイ巻いたイボガエル、サングラスかけたチンピラ風オオカミ、そして「元旦那の遺産で生きてます」みたいなファッションのテントウムシまでおった。


……なんやこれ、脳がバグるわ。


建物の高さもランダムすぎて、もうジェンガ状態。しかも土産屋とか言いながら、動物園のギフトショップの在庫処分セールみたいな店ばっかり。


ふと値札を見たら、見覚えあるスナック菓子(ポテチ的なやつ。ここでは「パタタタトス」とかいうバグネーム)が、だいたい200〜400フローリン。


……あー、これで物価が分かったのはええけど、財布が先に死ぬわ、マジで。


しばらく歩いた後、かなり横に広い建物にたどり着いた。いや、マジでデカいし、屋根がなんか……冬用ニット帽みたいな形してるんやけど。


入り口はめっちゃ広くて、そこからは白ヒゲ&機嫌最悪おじさんたちや、細身でちょっとキザっぽい兄ちゃんがゾロゾロ出てきた。


……てか、若いイケメン率高すぎやろ、これ。普通に嫉妬するレベルやん。


いや、待て待て待て……ここ、人間おらん設定ちゃうん!?


「冒険者ギルドへようこそ、皆様っ!」


マイルズが、どこのテレビ司会やねんってレベルのノリで叫んだ。(……ショーマンすぎやろ、コイツ。)


「……は? マジかいな……」


思わず変な声出た。


「どうした、神い?」


フルカフトが首をかしげる。


「いや、これ……ギルドやで、ギルド。どこの異世界テンプレから出張してきたんや……もう、勘弁してぇや……。」


完全に白目モードでぼやいた。ちょっと間を置いて、ふっと力抜けた感じでつぶやいた。


「……まあ、異世界って結局、作者の妄想テーマパークやし……。そう思ったら、逆に笑えてきたわ……。」


うちらは、まるでショッピングモールの服屋に入るときみたいに、空気のようにスッとギルドに入った。誰も見向きもしないし、完全に無関心モード。


で、その「ギルド」とやらは、モンスター倒して村を守る超危険集団の本拠地……のはずが、実際はただの社交サロンにしか見えへんかった。


(あー、まあ……異世界のギルドって大体そうやんな。)


正面には、いかにも「人類の不機嫌代表です」みたいな顔した、白ヒゲのおっさんが窓口におった。


その両側には木のテーブルとベンチが並んでて、若いのからジジイまで、いろんな連中がわちゃわちゃしてた。


ほとんど男やし。男じゃないのは……動物系やん。


(……これ、男社会ってやつか?)


中では、みんなワイワイしゃべったり、酒飲んだり、超エンジョイしてた。正直、一番びっくりしたのは……「デカ胸ウェイトレス」がおらんことやった。


……いや、正確に言えばおったけど、全員耳ついてるわ、しっぽ生えてるわで、ほぼフルカフト族やった。


「……あれ、あれってお前の親戚?」


うちは思わず指さして聞いた。


「否定する。」


フルカフトが即答。


「おおっ、なんとタイミングの良い……! 列なし!待ち時間ゼロ!ポイント還元セールみたいですねっ!」


マイルズが、どこのショッピングチャンネルのテンションで受付にズンズン進んでいった。


「ぷっ……あの毛玉、ガチで脳内ハッピーセットか。」


うちは小声でぼやいた。


受付のオッサンがジロッと見てきた。


「外王都村へようこそ。俺の名前はロジャーだ。先に言っとくが、ここでは“魔女”の入場は制限されてる。」


「……魔女ちゃうし。」


速攻で返した。顔は「は?」モード。


「はいはい、そうですね〜。じゃあ、オレの名前は田中ってことでOK?」


「……。」


なんも言えん。左目がピクッてなっただけやった。


「えっ、ええっと……いえ、それは誤解です! この子たちは魔女じゃなくて……人間でございます。それに、スウェトボーレ陛下からの……」


マイルズが必死に説明しようとした。


「人間?? あっははははははは!! 人間がここに来るわけないやろ!? スウェトボーレ陛下から?? もう、勘弁してくれよ〜!」


「せ、せんせい、でも—」


マイルズが必死に食い下がる。


「アッハッハッハ!! 笑わせんなや、毛玉ァ!!」


マイルズは黙り込んだまま、受付のオッサンの爆笑が終わるのをただ待ってた。……ああいうタイプ、マジで嫌い。しかも「嫌い」じゃなくて「クソ嫌い(しかも上から)」や。


「ジョージ!! お前、この毛玉知ってるか!? なんかスウェトボーレ陛下から来たとか言うてるんやけど!!」


ロジャーが大声で奥に叫んだ。


奥のカウンターにいた仲間の一人が、こっちを見て言った。


「なに言ってんだよ……それマイルズじゃん。王の補佐役だぞ? テレビ見ろよ、アホ。」


ロジャーは一瞬で笑いを止め、顔面蒼白。そそくさと窓口に戻り、背景を隠すように「何もなかったフリ」ポーズを決めた。そのまま小声でブツブツと、


「……やっぱりこの政府、人間とか秘密実験とか隠してるんや……。」


気むうを見ると、ずっと下を見つめてて、周りのカオスに一切反応なし。……何考えてんのやろ、この子。


「……さて、ギルドにグループ登録をお願いしたいのですが。」


マイルズが空気を切るように言った。


「え、ええ……もちろんです。えっと……フルネームを、お願いします。」


ロジャーが、急に無理やりプロモードに切り替えたけど、顔はめちゃくちゃ屈辱モード。


「マイルズ・クワンクスヴィンスキー。」


「う、えっと……神い吉水。」


「気むう。吉水気むう。」


「フルカフト・アーボル。よろしく。」


「……はい、完璧です。」


ロジャーは真剣な顔でペンを走らせながら、めっちゃ眉間にシワ寄せて書き込んでた。


「えーっと……では、各自の戦闘力をお願いします。」


ロジャーが、ちょっと真剣モードで言った。


「オレ、インケ……800万です。」


「800万!?!?!?」


即ツッコミ。声裏返ったわ。


「落ち着け。うちはただの毛玉や。戦わんて。」


マイルズが、ため息混じりにこっちを見た。


「……は?」


ロジャーが眉ピクッ。


「いや、いや、なんでもない……えっと、この子は1万3400で、あっちは1万4000……」


マイルズが必死に続けようとしたら——


「ちょ、ちょ、ちょ、待て待て待て! お前、子どもみたいな子を戦わせる気か!? ふざけんな!!」


ロジャー、机ひっくり返しそうな顔。


マイルズ、フリーズ。


気むう、無言でケツ掻く。


フルカフト、ずっと仏モード。


(え、状況わかってんの、うちだけ!?)


終わった……そう思った瞬間、奥からジョージが椅子に座ったまま大声で叫んだ。


「おいおいおい!! 毛玉にケンカ売るなって!! スウェトボーレ様が払うの止めたらどうすんだ!? ここ、国営だぞ!? 上司は王様だぞ!!」


ロジャーはしばらく歯を食いしばりながら考え込んでた。


「ちっ……くそ……わかった、わかったよ……」


大きくため息ついて、数秒間、死んだ魚みたいな目でうちらを見てきた。


「……で、そこのボケーっとしたやつは?」


ロジャーが指さす。


「え、俺?」


フルカフトが、完全に無の心で返事。


「そう、お前だ。」


「……1020万です、閣下。」


「……こ、こ、こ……コ、コ、コ、コ……コォォォォ!!! いや、マジで心臓止まるかと思った……」


うちは思わず魂抜けたわ。


「……1020万……了解……」


ロジャーは、完全に魂飛ばしながら紙に数字を書き込んでた。


男は、めっちゃ深呼吸した。あれやな…マイクラで巨大自動農場作る前のあの「はぁ〜」ってやつに似とる。


「よし…じゃあ、そこのお嬢ちゃん。お前のスキルは?」


指さして聞いてきた。


「んー、えっとな、カセイハと、瞬間移動…」


うちはドヤ顔で言い始めた。


「はいはいはい、分かるよ? この村を守りたい気持ちは立派やけどな、給料目当てで適当な—」


「あと、エクスプロージョン!!!!!」


めっちゃテンション上げて叫んだ。


「えっ…?」


ロジャー、一瞬で石像化。


ギルド中の冒険者たちが一斉にドリンク吹き出した。何人かはマジでむせて死にかけた。


「な、な、な、な、なんだとォォォォォォォォ!!!!!」


全員揃って絶叫。鼓膜割れるか思った。


ロジャーは完全にフリーズ。数秒後、カタカタ震えながら口を開いた。


「え、えーっと……ま、まぁ……うん……キミは……まだレベル足りてないから……また今度……な?」


「はぁ…しゃーないな、帰ろ帰ろ。もうええわ。」


うちは背を向けて歩き出そうとした。


だって、働きたくないし。別に魔王に手紙渡すとかもしたくないし。家帰って、溜めとった今期アニメ一気見したいだけやし。


……でも、その瞬間。


「おい!! 何言ってんだよ!! 今の聞こえなかったのか!? エクスプロージョンだぞ!!」


奥のテーブルから冒険者の一人が叫んだ。


すぐに別のやつが乗っかる。


「そうだ!! あの子、髪からしてパワー溢れてるやん!!」


そして、なぜか急にフワフワ系の獣人まで参戦。


「知らんの!? あれめっちゃ必要なんよ、カエル対策に!!」


数秒でギルド内は大パニックモード。全員がワーワー言い出して、もうカオス。


うちらは完全にフリーズ。


(ちょ、ちょっと待って! そんなに騒がんでええやろ!? ……いや、わかってる、うちは可愛いけど!?)


心の中で必死にツッコんでた。


ロジャーは、全力で歯を食いしばって、まるで命削る呼吸みたいな深呼吸をした。


「……わ、わかった!わかったわかったわかった!! はい、落ち着け!……くっそ、なんなんだこれ、マジで……。」


場内は、なんとか落ち着いた(いや、表面上だけな)。みんなビール片手にチラチラ見てきて、まるで伝説の色違いポケモン見つけたみたいな目してる。


「で、お前は……?」


ロジャーが、もう魂抜けた声で気むうに聞いた。


気むうは、助け求める子犬みたいな目でうちを見て、超無表情で二言だけポツリ。


「ホルモンコントロール。ハイヘルツ。」


ロジャーは舌打ちして、顔を手で覆いながら完全リセットモード突入。


「……ちっ……もういいわ!! めんどくせぇ!はい、登録完了だ!! ほら、これ持って、もう出ろ!!」


全員にカードが配られた。そこには手書きの名前、謎の番号、そして「外王都村冒険者ギルド」のロゴがチョロっと入ってた。


「やったー!!」


マイルズがスナック貰った犬みたいにピョンッ。


「はいはいはい!もうええわ! 次!!さっさと消えろ!!!」


ロジャー、魂どっか行った顔して叫んだ。


✦───≪ ✵ ≫───✦


「みんなーーー!! 準備はできてるかぁぁぁぁぁぁ~~~!?!?」


うちは、まるでライブ開幕のアイドルみたいに叫んだ。


「うおおおおおおおお!!!!!」


ギルドの連中が一斉に大歓声。テンションはもう天元突破。


受付から追い出され、カードを受け取った後、マイルズが「とりあえず掲示板でも見に行こうか」と言い出した。


……が、その前に。


冒険者たちがどんどん近づいてきて、気づけば完全に包囲されてた。ほぼ肩と肩がぶつかるレベルの密集。数秒で、まるで限定ピックアップのガチャ会場みたいな異常密度になった。


「神いさん!! お願いです!エクスプロージョン見せてください!!」


「お願いします!! 爆発が見たいんです!!」


「プ、プリーズううううう!!!!」


もう……ギュウギュウすぎて、ほぼ寿司詰め電車状態。うちは圧死寸前やったのに、気むうは……まったくの無表情。むしろ悟り開いてんのか?


「神い。」


「……ん、何よ。」


気むうが紙を差し出してきた。


そこにはこう書いてあった。「外階段付近の魔法再生ハウスの完全破壊依頼」。一撃で破壊しないと、セルフ修復されるらしい。報酬:2万フローリン。


あー、なるほどな。こうして、よく分からんファンクラブを引き連れて、うちは爆破芸人になったわけや。


「おっしゃーーーー!! 見せたれぇぇぇぇぇ!!!ネーチャン!!」


後ろから誰かが超テンションで叫んだ。


「よっしゃああああ!!! 見とけよ!!!これが、うちの最強呪文や!! うちの愛しのベイビー!!エクスプローーージョンや!!」


「いやあああああ……!!」


全身でポーズ決めながら、声も震えまくり、髪もバチバチに逆立つ。そして、深呼吸して一気に叫んだ。


「燃えろ、叫べ、天の底…!

炎は我が心、爆炎は我が名!

この一撃は逃れぬ運命、拒めぬ審判!

時空を焼き尽くす、破壊の王道!

█▓▒░ FINAL SPELL No.646 ░▒▓█

エクスプローーーーーーーーーーージョン!!!!」


ドォォォォォン!!!


ちっちゃい魔法ハウスは、一瞬で跡形もなく吹き飛んだ。


ギルド中が、一秒くらい呼吸止めたみたいに静まり返った後——


「うおおおおおおおお!!!!!」


祭り騒ぎのごとく大歓声。


「あぁ〜〜〜あらあら〜〜〜」


限界ギリギリの声を出しながら、うちはそのままバタンと地面に崩れ落ちた。


「……ほんま、この子は……」


マイルズのため息混じりの声が聞こえた。


「……クラブへようこそ。」


気むうが、まるで葬式のようなテンションで呟いた。

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