表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

第1話:祈り、願い

目覚まし時計が鳴った。(ふぁぁぁああ……)


夢ってさ、案外よくないよね。


特に──


同じ夢を四回も見て、毎回いちばん良いところで目覚ましに邪魔されるやつ。


人間の脳って、空飛ぶ城とか宇宙ドラゴンとか、レヴィとのキスとか、

そういうのは平気で再現できるくせに……


あと五秒の猶予もくれないとか、どういう神経してんの?


マジでクソ。誰も得しないタイミングで切れるなんて、そりゃないでしょ。


だからうちは、たまに悪夢の方がマシって思ってる。


悪夢だったらさ、起きた時にホッとできるじゃん。

何も奪われない。むしろ救われた気になる。



目を覚ましたのは、気むう(きむう)より先だった。

時計は──6:55AM。いつも通り、早起き成功。


「んむぅ……っ……」


気むう(きむう)は、起きるとき必ず謎のうめき声を出す。

この瞬間だけは、ちょっとだけ人間ぽい。

……いや、マジで。


「ワクワクっ♪ お姉ちゃんの可愛い妹ちゃん、おはよう〜!」


「……うるさい、神い(かみい)。」


「“お姉ちゃん”って呼んでも、いいんだよ〜?」


「……どけ。」


うん、いい妹だと思うよ。うちのこと、たぶん……好きなんだと思う。

少なくとも、触れることができるのはうちだけ。


そう──気むう(きむう)は他人との接触を極端に避ける。

誰にも触れない。

誰にも、心を許さない。


でも、うちは……特別。


わかるよ、その気持ち。

だって、うちみたいな姉がいたら──


触れたくなるでしょ?


……え? どんな姉かって?

マジで本を読むくせに、表紙も見ないの? バカなの?


じゃあ、サクッと自己紹介するけど……癖にならないでよね?


赤みのあるダークレッドの髪。

伝説級の宝石みたいな紫の瞳。


可愛くて、輝いてて、ちょっと怖い。

世界が処理しきれないレベルのビジュアル、うち。


……なのに、学校では誰からも話しかけられない。


ゼロ人。完封。


理由? それはもう、明白。

美しすぎて、みんなビビってるんだよ。間違いない。


でも、気むう(きむう)が言ったことある。


「……いや、単にちょっと変な子って思われてるだけ。」


──それ、完全に偏見なんだけど!?


で、妹の紹介もしとこうか。


気むう(きむう)。妹ちゃん。

腰まである青みがかった灰色の髪。

歩き方からして、もう悲劇の映画のヒロイン。しかも無音。


深くて、暗い青の瞳。感情ゼロ。

あまりに表情がないから、一回──


彼女の写った写真を見た人が、


「……これ、遺影?」


とか言って。


いや、実際には「意識失ってる?」って思われただけなんだけど。

目の前で手を振られて、ビクッとして──


ぶん殴った。


一発で。


で、なんでかうちも一緒に停学くらった。

理不尽の極み。マジ弁護士って大変そう。


そんなこんなで、今朝は特にイベントなし。


いつも通り、学校に行く準備。

母さんはいない。

父さんは「仕事でちょっと用がある」とか言って出てった。


……絶対、将棋かなんかやりに行ったに決まってる。


というわけで──


今日も家の最高責任者は、うち!


YASSS☆彡


洗面台の蛇口が、なんか変だった。


「……神い(かみい)。つまってる。」


「HAHAHA!安心して、妹ちゃん!この栄光に満ちた、器用で、多機能な姉様にお任せを!」


「……」


開けようとして、全力でレバーを引いた。


……手応え、あった気がした。


でも──

まばたきしたら、元に戻ってた。


もう一度、まばたき。


今度は、レバーが後ろにぐにゃっと曲がってた。……降参したみたいな角度で。


「……うん。」


ラストまばたき。


気づいたら、水が普通にジャーって出てた。


何も言わなかった。けど。


あの蛇口、こっち見てた。


……気がする。


その日の朝。家を出た瞬間──


聞きなれない鳴き声が、空から。


顔を上げた。


カラスが、いた。


ここら辺にカラスなんて……いたっけ?


しかも、


逆さに飛んでた。


羽ばたく向きも、足のぶら下がり方も、全部上下逆。


「なにそれ……新技?」


まばたき。


普通に飛んでた。


うん、そういうこともあるよね。


「今日の一限目ってなに?」


「……たぶん、数学。」


「テストとか?」


気むう(きむう)は答えず、首を横にふるだけ。


そのとき気づいた。


周りにいる人たち、全員、黒。


上も、下も、黒。黒。黒。……黒。


服の好みかと思ったけど、気温そんなに寒くないし。


……いや、ちょっと寒いかも?


うーん。


なんか、今日は“そういう日”なのかもしれない。

変な宗教イベントとか?


ケータイで調べてみた。


結果:


「今日は海外のどっかで、知らない聖人の記念日」


──それが何だっつーの。

通りを曲がった瞬間、みんなの服装が普通に戻ってた。


気むう(きむう)は、何かを考えてるように見えた。

周囲のことなんて、まるで無関心。

……でも、黒スーツの男たちには気づいてたはず。


でも、気むう(きむう)はめったに喋らないから──

たぶん、一生わからない。


いつもの通学ルートの一部、角の駄菓子屋を通る。

今日も例の店主は、カウンターに沈んでた。

イヤホンで音楽を聴いてて、ほぼ見えなかった。


邪魔するのも悪いし、今日はスルー。


その代わりに、毎回見る“あの”像に目を向けた。


──マリオ(っぽいやつ)。


ただし今回は……違った。


マリオじゃなかった。


ワバタタリオだった。


いや、まじで。

不気味なガーゴイル。

絵の具でテキトーに塗られたみたいな色合い。


「……無理。」


気むう(きむう)と一緒に、すぐ離れた。

変な空気すぎた。


数歩あと──なんとなく振り返った。


もうマリオに戻ってた。


細めた目でじっと見つめてみる。


……うん。


昨日TikTok見すぎたせいかも。


まあ、寝たのは1時間遅れただけ、とはいえ。


最終的に着いたのは──四天王寺の正門。


近づくにつれて、気むう(きむう)が……なにかを感じてるのがわかった。


ぴくり、と体が震えた。


寒いのかと思った。

いや、まさか妖怪でも憑いた!?ヨーカイウォッチ案件!?

それとも──

“クーデレ感知センサー”に引っかかる何かがあったとか?


……考えてるうちに、もっと変なことに気づいた。


人が──いない。


ガチの「この場所、異世界には存在しません」レベルの無人。


信じてほしい。

ここ、いつもは人でごった返してるのに。

特に観光客。


ほとんどがムスリムの人とか、イギリス系の外国人で──


“OMG it’s so cool!”


って連呼してるレベルの人気スポットなんだけど。


今日に限っては、誰もいない。


近づけば近づくほど、気むう(きむう)の様子はおかしくなっていった。


「……どうしたの?」


返事はない。


代わりに、ぎゅっと腕を掴まれた。


うちの腕にしがみついてくるなんて──


最後にあったのは、小学二年のハロウィンで

ピエロにビビったときくらいだ。


これは、つまり……


やばいやつ。


……もしくは、腹痛。


どっちにしても、危険度高め。


気むう(きむう)の手が少しだけ震えてた。


第一の門を通った、その瞬間──


背筋を走る、音。


うちの手が、ピクッと震えた。


いや、別に怖がってないし?


ただちょっと、びっくりしただけで。


振り返ると──


門の向こうに見えるはずの風景が……


歪んでた。


暗い。壊れてる。


「な、なにこれっ……!?」


戻ろうとしたら、


ゴンッ。


……見えない壁。


空気が、焦げたような匂い。

風もない。なのに、圧がある。


「え、なにこれ。ちょっと笑えるんだけど?」


笑えるっていうか……


変な意味でヤバいやつ。


気むう(きむう)を見ると──


彼女は地面に跪いてた。


……祈ってる。

これは──命を賭ける人の祈りだ。


普段“無信仏無表情無関心”の妹が、

今この瞬間に、必死に仏様に願いを込めてる。


どうか、

何も起きませんように──って。


気むう(きむう)が本気で祈るとか、もはや


宇宙規模のRed Flagってやつだよ、これ。


いや、ほんとに。やめて。


でもうちは、まだ納得したくなかった。


どっかにカメラでもあるんでしょ?

VRの超ハイテクイタズラでしょ?


冗談にしては、センス悪すぎだけど。


妹の腕を掴んだ。


抵抗はなかった。


むしろ、気むう(きむう)の手がうちの腕をさらに強く握ってきた。


お互い、顔から汗がじわじわ垂れてる。


無言で、ゆっくりと奥へ。


目的は──お寺のさくらさん。

彼女がいれば、何かわかるかもしれない。


空気が、重かった。


「静か」って言葉だけじゃ足りない。


自分たちの息遣いだけが、やけに響く。


誰にも殴られてない。

足を食いちぎられたわけでもない。


なのに、まるで

そんな目に遭った後みたいに、歩いてた。


本堂にたどり着いた。


そこにあったのは──


一枚の木の板。


何かで書かれてる。


筆のようなもの。墨。


ごめん……

ごめんなさい……


古びた板。

墨がにじんでるところもある。


書いた人の手が震えてたのか。

それとも、途中で泣いたのか。


何も言わず、気むう(きむう)と顔を見合わせた。


目と目だけで、全部伝わった。


その時だった──


ミシッ。


……音がした。


そして、もう一つ。

その次も。


足元に、ひび割れが見えた。


反射的に、気むう(きむう)の腕を掴んだ。


床が──割れていく!


全速力で走った。


気むう(きむう)を抱えながら、

とにかく、走った。


ゴオオオオオオ……ッ!!


轟音。


本堂の床が、

──崩れ落ちた。


中心から広がる、巨大な穴。


青白い光を放ちながら、

闇の中に浮かんでいた。


あの中央の塔が……

まるで、最初からなかったみたいに、吸い込まれた。


これは……夢だ。


いや、夢であってくれって感じ?


できるなら、さっきの「キスで目覚めた」系ラブドリームに戻してくれ。


お願いだから。


でも、頬をつねる前に──


うちらの身体が、浮いた。


穴に……

引っ張られてる!


うちは、とっさに本堂の柱を掴んだ。


片手で柱を、もう片方で──

気むう(きむう)の手を握ってる!


気むう(きむう)っ!!」


「……っ!」


気むう(きむう)も、必死で掴んでる。


でも──引力がどんどん強くなってる!


うちのバッグが吸い込まれた。


気むう(きむう)のスクバも、ひゅんって消えた。


神い(かみい)、離して! 無理だよ!」


「絶対に離さないぞ!!」


妹を穴に吸わせるとか、

そんな選択肢あるわけないだろ!


少年漫画の主人公じゃないぞ、うちは!


でも、妹だけは──譲れないんだぞ!!!


「お願いだから、手を離して!」


「イヤだっつってんだろ!!!」


気むう(きむう)が、

手を、離した。


……うそ。


一瞬で、制服の袖を掴み直した。


けど──その瞬間、


うちの指が、柱から滑った。


──無理だった。


でも、いいよ。


一緒に死ねるなら、それも悪くないって思った。


……って思った瞬間、


「やっぱ死ぬの、ヤだ。」


そう思い直した。


引きずられるように、宙に舞った。


落ちてるのか、飛んでるのか──わかんない。


青白い光に目が焼ける。

でも、身体中が……アドレナリンでブチブチに鳴ってた。


血管が弾けそう。

心臓が耳まで届きそう。


これ、

本当に現実なんだぞ──!!!


目を開けた瞬間──


うちは、落ちてた。


完全なる、自由落下。


気むう(きむう)も一緒だった。

表情までは見えないけど、たぶん……同じくらい恐怖してたと思う。


周囲は、

模様。

色彩。

……いや、しみ?


万華鏡の中に放り込まれたみたいな世界だった。


目が回る。

吐きそう。

眠くなりそう。

でも、心臓は破裂しそう。


どっちにしろ、気が狂いそうだった。


そんな中、見えたんだ。


──青い薔薇。


ボロボロだった。

壊れてる、というより、溶けかけたガラスみたいな感じ。


次に、赤い薔薇。


……睨まれた気がした。

評価されてる。

「お前、どうなんだよ」って目。


そして、白。


白い薔薇は、優しく、

……でも悲しそうに、こっちを見てた。


どの薔薇にも──うち自身が映ってた。


でも、

どれも、うちを見てはくれなかった。


……何もツッコめなかった。


脳が止まった。


冗談を言う余裕もなかった。


気がつくと──


闇。


周囲が一気に、真っ黒になった。


黒。

もっと黒。

目を開けてるのに、見えないレベル。


その中を、気むう(きむう)と一緒に、まだ落ちてた。


しばらくして──


突然、景色が現れた。


落ちた。


完全に、ドスンッて感じで。


うちと気むう(きむう)

まるで放射能入りのじゃがいも袋みたいに落ちてきた。


場所?

見た目は……クローゼット。

でも中身は──


鍋、鍋、鍋、鍋、鍋。


鍋。

フライパン。

おたま。

蓋。

そして──


ウィンクしてきた気がする木製スプーン。


「うぎゃあああああああああああっ……」


うちはスプーンの誘惑を振り切りつつ、

鍋の海に全身着水。


全部ぶちまけた。


悪臭レベル:中世のニンニクスープ。


「うううう……いたたた……」


うちは床の上で、ぐにゃぐにゃと高貴にのたうった。

……残ってるのは、気高き何かの亡骸だけ。


気むう(きむう)もなんとか起き上がろうとしてたけど──


まな板だった。


動くまな板。

呼吸するまな板。

魂を宿した……生ける調理器具。


そのとき、視線を感じた。


見た。


見られてた。


目が合った。


もっふもふの毛玉。


毛玉?

いや……生きてる。


体は丸くて、全身がふわっふわ。

手も足もない。

ただの──毛。

毛のボール。

そこに、目と口がくっついてる。


目は飛び出すほど大きくて、

口はちっちゃい「にゃ」って形。


「……」


「……」


「……にゃ。」


喋った!?


いや、違う。


小声で、ざわざわしてる。

ざわざわ、にゃにゃ。


「おい……今、うちら完全に魔女扱いされてない……?」


(ていうか、実際屋根から降ってきた女二人だし。うん。そういう展開。)


なんとか起き上がって、

周囲を確認する。


ようやく理解した。


ここ、キッチンっぽい。


だから鍋。

だからスープ臭。

だからスプーンの襲撃。


……でもさ。


猫毛玉軍団の説明、どこ?


誰か説明してくれ、

この現実ファンタジー!!


その時だった。


バアアアアアンッ!!!


──ドアが吹っ飛ぶかと思った。


いや、マジで。

壁が震えたからな?


現れたのは……二匹の猫。


ガチムチで、二足歩行で、軍服着てる。


ヒゲはビシッと整ってて、

顔が完全に「職務中」のやつ。


気むう(きむう)とうち、何も言えずに連行された。


まるで異世界の犯罪者。


そして後ろ手に──

「それ」をつけられた。


手錠……いや、違う。


光るヘビだった。


宙に浮かびながら、

液晶の中に星を閉じ込めたみたいなボディで、


するりと手首に巻きつく。


……触れてないのに、

動けない。


まったく、ミリも。


コスプレ用に一個欲しいレベルだぞ、これ。


連れていかれたのは──

古そうだけど、しっかりメンテされた回廊。


見た感じは中世ファンタジー風。

暗いけど、どことなくエモい。


ドラクエと進撃の巨人が混ざった感じ。


気むう(きむう)の顔は、完全に「諦めOL」モード。


一週間連勤でコピー機がぶっ壊れたときの顔。


うちはというと、

「もう何も驚かねーわ」って気分で歩いてた。


……と思ったら。


ドア。ドア。ドア。


左右にずらっと並んだ、数字付きの扉たち。


……え、なにこれ。

中世の猫ホテル?


しかも、一部のロウソク──


……PNGだった。


止まってる。

揺れない。

平面。

まるで、うちの胸。


……いや、もういいや。慣れたわ。


そして、最後の扉を抜けて、現れた。


玉座の間。


でっっっっっかい空間。

中央には、ど真ん中に赤い絨毯。


奥には──

玉座。


(だよね!)


その両側には、装飾っぽい柱が立ってる。

ゲームだったらボス戦始まるやつ。


誰かがそこに──座ってる。


でも、まだ見えない。


少しずつ近づいていくと……


バシッ!


足を打たれて、

膝をつかされた。


強制・尊敬モード。


気むう(きむう)と目が合った。


「……やべぇやつ来たな。」


って、無言で通じた。


うちは、ゆっくり顔を上げた。


──見えた。


角。


毛。


顔。


──ヤギ!?


まさかの。


いや、待って。

王様、ヤギ!?!?!?


ヤギが王冠被ってんだけど!?!?!?


王冠!?!?!?!?


……はい、限界突破です。


でも、そのヤギ──


すっごく落ち着いてた。


ロイヤルブルーのマント。

両肩には、金色の薔薇型の肩当て。


めっちゃ重厚感あって、

……正直、カッコいい。


目は、鋭いけど静かだった。


見下してるわけじゃない。

ただ、全部知ってる目だった。


見抜かれてる。

裁かれてる。


「この世界に来た意味、

もう知ってるぞ」みたいな、そんな目。


そして──


彼は、低く。ゆっくりと。


全てを見通すような声で言った。


「連れていけ──

魔女室へ。」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ