ひよっこ探索者たちと共に
ここは世界樹の森。
犬猿の仲だった冒険者ギルドと探索者ギルドが和解し協定を結んだ後、最初に開拓の宣言がなされた森。
両ギルド内でも指折りの冒険者と探索者がチームになり、第一陣として出発。
その後周囲の安全が見込めること、近辺に新たなダンジョンを発見したことにより、正式な開拓命令がでる。
冒険者ギルドはその知名度をもって各地から人を集め、モンスター駆除や各種建設作業などを行った。
探索者ギルドはその知恵をもって集まった人々に教鞭をとり、周辺の生態系調査や医療の充実を手伝った。
そうしてできたのが、勇気ある開拓者たちの住む町『ブライトウッド』。
次第に人が集まり、金品のやり取りが増えたことで両ギルドの共同出資により商業ギルドが発足。
商業ギルドの影響により物流が盛んになったことで、商店や飲食店が増え町は拡大。
気が付けば人口は1万を超えた。
「いまやブライトウッドは、世界樹の森で一番大きな町になったわけだが……。っておいサユナ!聞いているのか!」
「聞いてるよ!でも私はカワイイお母さんと遊ぶことで忙しいの♪」
ここは世界樹の森……、のブライドウッドにある探索者ギルド近くの森。
今はギルド恒例『あつまれ!ちびっこ探索者体験教室』の真っ最中。
教鞭をとるのは私の祖父。
探索者としてはそれなりに名が知れており、若いころは各地を飛び回っていたようだが、世界樹の森が発見される前年に加齢により探索者を引退。
世界樹の森にも第一陣として乗り込んだようだが、主に裏方として後輩の育成に注力、今やちびっこ体験教室の頼れる教官である。
しかし、子供は風の子元気な子。
おとなしく座って聞いていることに飽き始め、しまいには遊びまわる始末。
私はサポートとして後ろの方で教室を見守っていたが、こちらにかけてきた少女におままごとに誘われ、そのウルウルとした瞳にNOとは言えず、快諾してしまっていた。
祖父はあきらめ半分、子供たちに聞こえるよう大きな声で私に呼びかける。
「では次のお勉強に移ろう。サユナ、探索者が皆持っている”タイセツ”な物と言えばなんだ!」
突然の大声に子供たちは驚き、一瞬静寂が流れた。
私は足元に置いていたカバンを手に取り、子供たちに見えるようそれを掲げた。
「それはもちろん、探索用カバンだね!」
「正解!その中には何が入ってる。」
子供たちは目を輝かせて、カバンの方をじっと見つめている。
私は財宝でも出すかのように、大げさにカバンの中に入っている物を見せた。
「そうだね、まずはこの『虫集めの蜜とハケ』かな。蜜をハケにつけて木や石に塗ると、虫さんが寄ってきてくれるんだ!運が良いと金ピカのカブトムシさんだって捕まえられちゃうかも。」
男児たちは大喜び、ただ心なしか女児たちは興味が薄れているように見えた。
「虫さんだけじゃないよ、じゃじゃーん『釣り竿』。これでお魚さんを釣ることもできるんだ!近くの川でカワイイハートの形をした貝も釣れるし、加工すればアクセサリーにピッタリかも!」
その言葉に女児たちにも笑顔が戻る。
子供たちは思わずあたりを見回し、自分のお目当ての生物がいないかとソワソワとし始めた。
「そして最後に、この『地図』。これは自分の移動した位置を自動で記録していってくれる地図だよ。地図を開いた場所を中心に5kmも離れた範囲まで記録してくれるの!使ってみたい?」
子供たちは大きくうなづく。
子供たちの気分が高まっていることを察知し、祖父が皆に呼びかけた。
「そうだろう、そうだろう。そんな諸君らの為に、今日は全員分の探索用カバンを用意した!さて、これからはお待ちかね、森の探索の時間だ!」
子供たちの歓声が森の中に響き、近くの草花を揺らす。
負けず劣らず、祖父が大声で号令をかけた。
「皆ここで地図を開くことを忘れないでくれよ……。それでは出発!!!」
木漏れ日の指す、穏やかな森の中。
子供たちの元気いっぱいの声と、かける足音が木々の合間から聞こえてくる。
春の息吹のようなその声につられたのか、探索場所の遠くの木陰から、奇妙な木の仮面をした子供が一人こちらを見つめていた。