存在確認(プロローグ)
ここは木漏れ日射す針葉樹の森の中。
まだ早朝ということもあり、ヒンヤリとした風が足首に触れる。
ザクザクと落ち葉を踏みしめるたびに、私は白い息を吐いた。
道はほんの少し上り坂。
ただし背負っている探索用カバンがなければ、もっと気楽に歩けただろう。
森の生体調査に来ているのだから仕方がない。
私は歩きながら、探索用カバンを前に抱えるよう背負い直し、半開きになったチャックの中からサユナと名前の付いた双眼鏡を手に取った。
これは私がまだ幼かった頃、飾り棚の双眼鏡をじっと見つめて離れない私に、ヤレヤレと観念した祖父が私の名前を書いて渡してくれたものだ。
なんの近未来的機能もない、思い出のただの双眼鏡。
探索用カバンの品々と比べると、前時代的と笑われるかもしれないな。
歩き続けていたが、目的地までもう少しのようだ。
断崖の先から朝日が覗き、双眼鏡のレンズが目を輝かせる少年のように反射する。
私は一歩一歩目標に向かって順調に歩んでいることを実感し心が弾んだ。
森を抜け、切り立った断崖の上にたどり着く。
私は足を止め、そこから見る景色を見て思わずつぶやいた。
「私の旅はこれから始まるのだ。」
空は晴れやか。
遥か先には一本の巨木”世界樹”が植わっており、その周りを様々な種の木々が生い茂っている。
時降り飛竜のような生物が他の生き物を追い回すように飛び回り、森の中に消えていく。
そこは世界樹の森。
これから一生をかけて探索と調査を行う森。