城門の下
雲ひとつない青空、頂点に太陽ひとつ。そろそろ昼飯刻になろうかという時間帯の街の正門に馬車と騎馬の集団がやって来た。
ここは交易の街ザレ。この国だけではない大陸の交通の要衝。この国の大身の貴族領の第二都市より大きい、なんなら中地位貴族領の領都よりはるかに大きい。と、待ち受けるのはRPG並みの城壁、町並み。ついでにに街の中の道行く人々もRPG並み。
そして、街城壁の正門を潜ろうとするのは2頭建ての馬車1台に騎乗6騎。見慣れない1頭の小型の騎獣に引かれた小いさな荷車1台。後には繋がれ引かれた空馬2頭。空馬の後ろにはさらに羊が数頭が繋がれている。馬車こそ1台だが騎馬以外も全てがウォーホースというのはそれなりの陣容。ウォーホース、野生以外は生活のすべてを人間に依存し繁殖すら人間に委ねているとはいえ魔物は魔物。そのくせ隊列と言うにはまるきりまとまりのない並び。荷車に至ってはメンバーに屈強な男が何人もいるにも関わらず少女が一人で御者台に座るだけ。よほど騎獣の聞き分けがいいのか手綱さえ握っていないし、本当に何もせずにただただ上の空で座っているだけ。
「しばらくこの街に滞在して商売をしたいのですが、ギルドへはどうやって行けばいいのでしょう?」
キャラバンからひとり離れて声を掛けてきたのは見習いくらいの年頃の少年。他のメンバーは少し離れた場所に控える。この少年、幼いといえど使い走りと言うにはどうにも雰囲気が違う。その少年に向かって答えたのは警備のリーダーらしき門衛。
「そうそう慌てるな。まずは全員の身元確認からだな。」
納得顔の少年。
「そりゃ、ごもっともさまデス。」
少年は振り向いて仲間に声を掛ける。
「お~い、みんな〜、並べ〜。」
身元確認の魔道具を使い一人づつ順番に身元確認をしていく。身元紹介もほぼほぼ終わって門衛が言ってくる、
「あとは、あの二人で終わりか?」
門衛が視線を向けるのは我関せずの表情で馬車の屋根に腰掛ける二人の少女。2頭立てだけあって車高はかなり高い。
「さっさと降りてきて終わらせてくれよー。昼飯を食う時間が無くなるだろ〜。」
やれやれと言う表情で馬車の屋根から降ってくる二人、なんとも不思議な光景で降っくるの言葉通りに重力を無視したようにゆらゆらと地面に降りてくる。魔法を使ったようにも見えない。
全員の身元確認が終わりキャラバンのメンバーは再び距離を置いた場所に控える。門番のリーダーらしき衛兵が少年に問う、
「商売ということだが、あの羊を売りに来たのかな、」
「はい、この街なら家畜はいつでも高く引き取ってもらえると聞いたので途中の村で仕入れて来ました。羊だけじゃなく他にもいろいろと売れそうなものを積んできました。」
「なるほどな。ところでリーダーは君に見えるのだが、合っているのかな?」
「ハイ、ぼくです。」
「うーん、ずいぶんと若く見えるが、」
「ハイ、ヒト族ですので見かけ通りの12歳デス。」
「そうか。その、なんというか、道中……、」
「心配ご無用です。彼らがついていますから。」
「ウーム、確かにこの街くらいなら彼らだけで潰せそうなメンツだな。」
「またまた、御冗談を。」
「社交辞令のつもりは無いんだがなあ。」
ボヤきとも独り言ともつかないような返答に
「まあ、私にとっては大変頼りになる仲間ではありますが。ところで、あのー、ギルドのことなんですが…」
「お〜、すまんすまん、そうだったな。で、商人ギルドでよかったのかな?」
「冒険者ギルドと商人ギルド。あと錬金ギルドか薬師ギルドあたりも教えていただければ、あとは…、」
「おいおい、ずいぶんと手広いなあ。そこらへんならこの道を行った先の天使像のある広場に沿って纏まっている。看板は他所と共通のを出してる見ればわかるだろう。この規模のキャラバンなら広場に待たせておけるスペースもあるから、このまま行けばいい。場所さえ空いていれば追い出されることは無いだろう。」
「これはご親切に、」
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さらに会話は続く。
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「それではこれで。いろいとありがとうございました。」
一通りのやり取りを終えて遠ざかって行く一行の後ろ姿を見ながら、いかにも新人然とした門衛は独り言のように周りの同僚に、
「あんなにちっこいのが主なんすね。しかも羽振りが良さそうって羨ましいかぎりだよなあ。どこぞの大店の跡取り修行ってとこっすかね。」
比べればベテランに見えなくもないような門衛が返す、
「あのゆるい雰囲気じゃそれは無いだろ。おおかた、どこぞのお貴族様か大商人の厄介払いだろ。財産分けなんて一回こっきり、もらった財産を使い潰したら、実家にも戻れずに(胸の前で十字を切る)。」
隊長格に見える衛兵が話に加わり、
「さすがに捨て扶持にウォーホース10頭なんて豪華過ぎないか。その線は薄いんじゃないかと。それにあのメンツ、家のお下がりにしても自分で集めたにしても凄すぎる。」
「あんな育ちがよくて世間知らずな感じは、絶対に部屋住みの穀潰し以外にはないと思うんだがなあ〜。だがまあ、たしかに厄介払いにしちゃ貰い過ぎかもしれないか。」
もっと何倍もの大規模な隊商をいくらででも見る機会がある門衛達だが、成人するにあと何年もかかりそうな少年が率いるには不釣り合いなキャラバンとのギャップは彼らの興味を引いたようで会話はつづく。
街中を進むと天使像が見えてきた。広場はかなり広い。確かに場所を間違え無ければこのキャラバンくらいなら邪魔にされて追いたてられることもないだろう。広場を見渡せば外周に沿って各種ギルドの看板が見える。
「どっか適当なところに止めて昼飯にしようか。」
御者台に座った少年が一同に声をかける。
雲ひとつない青空、頂点に太陽ひとつ。時刻は昼食にちょうどよい頃合い。