生誕
おかしな夢を見た。映画館で今までの人生を流されているかのような。どこか懐かしい温度を感じながら、あらゆる負の感情が溢れながら。エンドロールではとても安心していた気がする。でも、なんだか物足りない気がした。
カーテンを開ける音で目が覚めた。視界からするに木目調の部屋にいるようだ。まだ寝ていたかったが、白衣ではないが、白く、薄いコートを着た自分と同年代くらいの目のクリクリとしたショートカットの女と目があってしまい、断念した。
「あら、お目覚めですか?」
「まあ。」
裏表のなさそうな笑顔で尋ねられた。すごく愛想が良くて、こういうことに慣れてるようだった。
「痛いとこありません?お腹空いてるとかあったら教えてくださいね。あ、でも一週間くらい何も食べてないんでしたっけ?そしたら急に食べるのはよしといた方がいいですね。いや、寝てたんだからわからないですよね。……。あ、ごめんなさい。喋りすぎちゃった。」
一人で喋っているのか。質問攻めが終わった後、何個かかいつまんで答えた。やっと自分が質問できる。
「えっと、ここってどこなんですか?」
「え、ご存知ないんですか?あ、そっか契約したのあなたじゃないですもんね。」
「契約?」
「はい。柳家さんって方が入院・施術費用を全額出されたので。」
施術?右手に巻かれた包帯のことか?自分の異変を見つけようと全身に意識を回したところ、頭に訳のわからないヘルメットのような装置がついていた。内側はスポンジのような生地でその装置は図太いケーブルで枕の横にある四角く、巨大な鉄製の箱と繋がれている。自分がヘルメットの存在を感知したことに気づいたのか、
「ああ、それ、外しますよ。」
そう言って頭につながっているケーブルを外してヘルメットをそっと引き上げた。案外すんなり外れた。一キログラム位あったのだろうか、頭が軽く、緩んだネジのように回る気がする。
「これ、何なんですか?」
「治療に使う装置です。うちでしか扱ってないんですよ。」
少し得意気に言った。ここに来る前に自分は頭でも打っていたのだろうか。今のところ頭に痛みはないので、おそらくそれなりに効果のある装置なのだなと思う。
「包帯外しますね。」
右手の包帯が外れたのだが、怪我をしたのか、というほど違和感はなかった。やはり、長い時間眠っていたのだろう。
「痛くないですか?」
「はい。よく治っているみたいです。」
「よかったです。担当医が退院許可を出しているので、今日中でしたら、いつでも退院していただいて構いませんよ。一応担当医の説明を受けてからにしてくださいね。準備ができましたら、ここを出て右にずっと進んだところに受付があるので、そちらに来てください。」
いつでも、、。ベッドに余裕があるのだろうか。普通の病院はベッドが完治した患者に居座られることを嫌がるのだが。
看護師らしき女は先ほどから変わらない愛想を残して病室から去っていった。名前を聞き忘れた。そもそも医者とはそんなに暇なことがあるのか。
ここにいても仕方がないので、さっさと医者の説明を受けて帰ろうと思った。今日中に退院できるように色々整理しよう。