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第6話 騒がしい朝

 予行練習という眩しい日差しにさらされつづけた長い1日が終わった。帰宅すれば、どっとのしかかる疲労のままに床に倒れ込み、目を閉じた。もう一日あると考えるのはとりあえず避けよう。帰宅部の自分にとっては予行練習は当日に筋肉痛を起こすためだけの時間でしかない。もちろん今年も例年のようにその脅威にさらされることになるだろう。

 いつものアラームにうならされながら朝起きると、キッチンからいい匂いがただよってきていた。そうか、今日はお弁当か。先日、伝えたとき、母は『平日の朝に面倒な仕事を』なんて言ってたけど、この匂いで気合いが入っていることが十分に分かる。あいにく明るい青春はしていないし、このお弁当もどうせ1人で食べるんだけど、と自分で考えながら母への気悪さと寂しさを感じた。お弁当と水筒でいつもより重くなったバッグを背負って学校へ向かった。

 学校に着くと早くも多くの人が集まっていた。ハチマキを巻き合う姿や入念に準備運動をしている人たちがあちこちで見られた。教室の中の異様な景色を見て、教室の入り口で立っていると中から雫ちゃんが駆け寄ってきた。彼女の目はいつもの朝の眠たそうな目とは変わって冴えきっている。

「おはよう。雫ちゃん、可愛いね」

 ハチマキを着けた彼女はいつもより頼もしくも可愛いかった。

「可愛い? やった! じゃあこうにもしてあげる」

 机の上の僕のハチマキを手に取りおそろいにつけてくれる。土曜日と同じように抵抗せずにしてもらう。我ながら可愛いと思う。

「ありがとう!」

「ふふ。私は香くんのお姉ちゃんなんだから、気にしなくていいんだよ~」

 その言葉にこの前のことを思い出しドキッとさせられた。週末のことを考えていると後ろから声がした。

「二人とも可愛いね!」

「雫ちゃん、おっはー」

茉生まきちゃんもおはよう」

 伊藤さん、か。いつも雫ちゃんと一緒にいるから知ってはいる。

「篠田くん? 可愛いね、それ。雫ちゃんにやってもらったの?」

 コクリと頷く。

「そう! やってあげたんだよ」

「いいな~! 私もやってもらいたい!」

「それお母さんに朝早くから時間掛けてセットしてもらったんでしょ? それも可愛いよ」

 そう雫にいわれ不貞腐ふてくされつつ、照れ顔を見せた。二人は僕にじゃあね、と言って、いつもの人たち、いわゆるイツメンのもとへ去って行った。


 炎天下での長い開会式が終わりやっと種目に入ることになった。最初の種目は僕ら2年生の台風の目。メジャーな競技だ。端的に言えば、四~六人程度を一組として、数組に別れて、順番が来た組は太い棒の前で横並びになりお腹の辺りでその棒を抱えて走る競技。途中、コーンなどの障害物で内側を軸に回転することから台風と呼ばれている。この競技が今回の体育祭一酷な競技だと僕が思うのは、組分けがあるからだ。今回は四人×九組での実施になった。四人組は男女二人ずつで構成される。僕は組分けの際、いつものように誰も誘えずに一人でいると学級委員の森さんが気をかせて組んでくれることになった。本当に申し訳ない。小さい頃からこうだったわけではないので、いつも先生と組んでいた的なエピソードは持っていないが、実際今の状況はそれとなんら変わらない。女子ペアと合流後、森先生のコミュ力で真ん中に配置してもらった。というのも台風の目の醍醐味だいごみである回転時、内側に軸となる重心の固い人、外側に大回りを走れる足の早い人が来るのが鉄則で、小柄の帰宅部はどちらにもならないのだ。逆に空手道部の森先生は堂々《どうどう》と内側の大役を引き受けてくれた。この大役が勝敗を左右する競技性のため、他の競技より圧倒的にこの競技に意気込む人が多いと噂を聞いた。理由はもう一つあって、男女ミックス競技で綱引きや徒競走と違い、同じ組になりさえすれば必ず組の仲間と撮影されるので、カップルたちは周りから茶々《ちゃちゃ》を入れられずに一つのフレームに収まる少ないチャンスなのだ。中学校入学から一年半以上が経過した現在、カップルも着実に増えている。いうまでもないが、僕にそのような恋人やそのきっかけもない。

 競技の結果は四クラス中二位となんとも言いがたい順位。一位が同じ紅組の三組で紅組にワンツーフィニッシュ分の加点が入り、最初の種目にして大きく差が開き紅組サイドの応援席は先輩後輩の応援団たちの声を中心に盛り上がっていた。二年生の午前中のもう一種目の綱引きも紅組の勝利に終わり、総合でも紅組優勢のまま、午前の幕を閉じた。

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