第4話 お姉ちゃん!?
レストランに到着すると橋本さんは既に店に着いていた。中に入ると彼女はいつものセミロングでおめかしをしてかわいらしく座っていた。気合いの入ったその格好に僕は息をのんだ。とはいえ、中学生が行くレストランなんてたかが知れていて、十中八九その地域の小中学生で溢れ返るファミレスだ。まあ、実際は昨今の中学生事情などリアルなものは僕は分からないけど。僕が席に着いてまもなく彼女はナポリタン、僕はハンバーグを頼んだ。食事中、彼女はこちらを見ては微笑んでを何度もくりかえしていた。それに対し、僕は自意識過剰なだけかと思って最初は耐えていたけど、すぐに耐えきれなくなった。耐えきれずこぼす笑みにもまた彼女が微笑んだ。それを繰り返していると、彼女は半分食べ終えたくらいで話し始めた。
「ねー、この後どれぐらい一緒にいれるの?」
少し不安そうにこちらを伺うようにつやつやした目を向けてくる。これが上目遣いかと心の中で感服しつつ、質問に答える。
「七時頃までなら余裕だし九時ぐらいまでなら何とかできるよ」
「そう。わかったわ」
彼女の顔が少しだけ顔が明るくなった気がした。そういえば何をするか聞かされていなかった。ただ、『遊ぼう』と言われただけ。さらに少ししてお互い食べ終わると、彼女が行きたいところがあるというので、会計をしてそこへ向かうことになった。彼女曰く徒歩で数分。滅多に外に出ない僕はこの駅前で周りに遊ぶようなところがあるなんて全く知らなかった。橋本さんに連れられる道中、僕は意を決して彼女に聞いてみることにした。
「なんで、僕を誘ったの? 雫……ちゃんなら友達なんて他にも」
その先を言わせまいとするかの如く、彼女は食いぎみで返事をしてきた。
「えへへ。内緒~!」
答えという答えは得られないまま、彼女から目的地に着いたと告げられた。
『橋本』の表札。まさしく彼女の家だ。ここが行きたいところ? 疑問を持ち隣に立つ彼女を見る。彼女はどうぞ入ってください、と言わんとばかりに鍵を開け、扉を開いた。素直にしたがった。御両親は不在のようで、洗面所に案内される。そこで手を洗うと、彼女は僕を自分の部屋に招き入れた。姿見にヘアアイロンや化粧と言ったファッションアイテムの数々に驚いた。友達の部屋、ましてや女の子の部屋に入るのなんて4年ぶりだ。従姉妹の部屋を去年お邪魔したが、こんなにもぎゅうぎゅうにコスメアイテムたちが並んだ棚はなかった。
「始めよっか」
「何を?」
聞くと、彼女は頬を赤らめた。何も答えず、コードをコンセントに差し込みヘアアイロンを温め始める。僕は櫛を渡された。何をすれば良いのかわからず、僕がボーッとしていると、彼女は櫛を僕の手から奪い取り、髪をとかしてくれた。正にされるがままの状態で、そのまま髪は橋本さんの手によっていじくられ続けた。どんどん髪が巻かれていく。もはや抵抗せず、僕は任せることにした。『遊ぼう』と彼女が提案するその前に彼女と僕が何の話をしていたかを思い出したからだ。諦めて身を彼女に委ねることにしたのだ。そうしているうちに髪は更に巻かれていきツインテールにリボンがつけられる。
「可愛い~!」
自分が完成させた僕の髪を見て橋本さんは叫んだ。
「妹ができたみたいで嬉しい」
と小声で呟いたのが聞こえた。その言葉を聞いて僕は耐えられず、彼女の体に抱きついてしまった。
「恥ずかしいよ、お姉ちゃん」
雫ちゃんは自分より一回り小さい僕を抱き返してくれた。