表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/20

第3話 久しぶりに電話帳を開く

 学校から帰ってきてかれこれ三十分、胸ポケットの中から紙を取り出し見つめている。

『xxx-0000-xxxx しずく

 可愛い丸文字でそう書かれている。帰る直前に橋本さんに呼び止められて渡されたんだ。

「待って香くん。これ。私の電話だから」

 彼女は僕の手の中にそれを突っ込むと、じゃあ、と手を振って友達のもとに行こうとした。その彼女の腕をつかみ、すこしして、つっかえていた言葉を絞り出して言った。

「僕のも……渡しとく」

 そう言って手に持っていた本のしおりに番号を書き手渡した。すると、彼女は微笑ほほえんでから待つ人たちのもとへ駆け寄っていった。僕は学校ではいつもああして本を読んでいるから、誰も声をかけてこない。友達と出掛けたりもしない。だから僕の連絡先を知っている人なんてほとんどいない。中学校入学後のこの一年半は誰ともつなげていないのではないだろうか。それでは困るから彼女は渡してくれたのだろう。これを手にもつと、自分が休日に女子と出かける約束を取り付けたという事実に現実味が沸いてくる。今でもなお信じられていない。気晴らしに彼女にあげちゃったしおりの代わりを選ぶとしよう。


次の日になり、朝一に電話がかかってきた。眠い目をこすり、枕元まくらもとのスマホに手を伸ばす。

「こんな時間に」

 と欠伸混じりの声でつぶやき、まぶしい画面を前に必死で細くなっていた目をこすり見つめる。『橋本はしもとさん』の文字を見て、ガバッと起き上がる。そして、今荒くなったばかりの息を落ち着かせ、電話に出る。 

『もしもし』

「も、もしもし、篠田しのだです」

こうくん、おはよう。寝起き?』

 開口一番のからかい口調に、橋本さんがいつもより一段と高いテンションなことに気づき眠気が完全に覚めた。

「う、うん。ごめん」

『いいえー。昨日のうちに連絡すべきだったから』

『今日のことなんだけど、お昼に駅前のレストランに来てくれる? えっと、十二時…』

 そう言って止まる。僕のことを気遣きづかっているのだろう。今は九時半。十二時でも間に合うと伝えようとしたとき、彼女の口が先に開いた。

『半ね』

 彼女の優しさを無下むげにはせず、そのままこころよく了承する。

「わかった。ありがとう」

 電話が切れて、全開になっている自分のクローゼットを布団から遠目に眺める。服なんてあったっけ。出かけないからなあ。僕は校内ではしゃぐ陽キャでなければ、何かに熱中するヲタクの人たちのように平日は落ち着いていて土日は活発的という人でもない。土日も外に出るのは、家族と出掛けるときと本を買うときだけ。後は家にこもって動画を見たり、ゲームをしたりしている。そんなことだから、もちろんお出かけ用のおしゃれな服などないので、仕方なく、本を買いに行くときに着るラフな格好かっこうに着替えることにした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ