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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

百合短編

女好き王子に婚約破棄された公爵令嬢、浮気相手を全員寝取って復讐完了。

作者: れとると

4000字未満の短編です。

『フリチア公爵令嬢コレット・ディープマウント。


 お前との婚約は、破棄させてもらう!』



 ……しばらく前、わたくしにそんなことを勇ましげに言った王子がいました。


 今、テーブルを挟んで向かいの椅子に座って震えている人物と、同じ方だとは……到底思えませんが。



 髪もぼさぼさ、ひげも伸び放題、頬もやせこけ、雨に濡れて水も滴っている。


 衣服も平民が着るような……それもボロ布のようで。


 体を拭く布くらいは与えているのですが、それを纏ったまま呆然としています。



 彼が首から下げている鎖の先には、王家の紋章が入った銀のペンダントがあり。


 その言動を踏まえても、この方があのアリューゲル王子であることは確かでしょう。



 彼は夕立がおさまった頃、森の隅にひっそりと建つこの館にやってきました。


 どう伝手を辿ったのか、実家を追い出されたわたくしの居場所を突き止めたようです。



「それで。わたくしに何用でしょうか」



 わたくしが声をかけると、彼は肩をびくりと震わせ。


 それから慎重に顔を上げ、こちらを……無遠慮に見て来ました。



「もう、お前に頼るしか、ないんだ……!」



 わたくしは、なるべく表情を変えないように彼を見返します。



「廃嫡されたんだ……誤解だって言っても、誰も聞いてくれなくて」



 続きを促されたと思ったのか、王子が支離滅裂な内容を口走りました。


 廃嫡はわかりますが、何が誤解だというのか。



「帝国のアリエラ皇女とご婚姻なされて、安泰だというお話でしたが」


「アリエラとは、別れたんだ」



 一国の王子と皇女の婚姻を、個人のような感覚でおっしゃられる。



「双子が生まれて、あいつ余裕がなくなってさ。それでこう」


「侍女に手をお付けにでもなったと?」


「あんなの遊びなんだよ! なのに話を聞いてくれなくて」



 やはりこの方、その「遊び」にどれほど女が泣かされていて。


 どれほど周りが心労で胃壁を削られていたか、わかっておられないようです。



「彼女はどこかに出て行って……子どももとられちゃってさ」



 ……まるでお子様がご自身のもののように言いますね。



「それだけじゃない! なんでか父さんも母さんも怒ってて。


 『お前は廃嫡する!』って。追い出されたんだよ。


 廃嫡ってなんだよ、意味わかんねぇ……!」



 …………本当に「廃嫡」という単語の意味を知らない可能性がありますね、この方。



 教育係からは、幼いころからずっと逃げ回っていたそうですし。


 ああ、若い女性の教育係に変わったら、ずいぶん勉強熱心になったとは聞きましたね?


 それも何度も変わって、しまいには教育自体を放棄されたそうですが。



 勉強と称して、いかがわしいことばかりしているからです。



「だからイザベラのところに行ったんだよ」



 聞いてもいないのに、続きを喋りはじめました。


 イザベラ王女は、山岳を挟んだ向こう側の国の姫です。


 一時、王国に学問を学びに来ておられたことがありました。



「そしたら、『イザベラを返せ!』って言われたんだ。


 何でだよ。俺があいつと別れたのはもう何年も前だぞ!」



 揉めに揉めた末、手ひどく振ったの間違いでしょうに。


 国家間の力関係の都合上、イザベラ姫と、かの国は泣き寝入りを強いられたはずです。



 彼女を王妃に迎え入れてしまっても、本来なら問題なかったはず、なのですが。


 幼少より婚約していたわたくしの実家、フリチア公爵家が口を出し。


 さらには彼自身が別の女性……それもイザベラ姫の侍従に手を出したことが原因で、拗れました。



 おっと、忘れるところでした。「姫の侍従」で思い出しました。


 わたくしは控えていた侍従に目配せし、茶を配膳させます。



「お疲れのご様子ですし、体も冷えておられるでしょう。お飲みください」


「ああ……なんだこれまずっ。甘いけど、飲めたもんじゃないな」



 文句を言いながらもロクなものを飲み食いしてないのか、彼はお茶をぐっと飲み干しました。


 ……作法など、あったものではありませんね。



 そしてカップをソーサーに戻したところで、その顔が固まりました。


 食器を下げる侍従を、震える手で指さしています。



「その後は、どうされたのです?」



 わたくしが水を向けると、彼は侍従を気にしながらもこちらを向き直りました。



「ウィンディのところへ行ったんだけど……彼女がいないばかりか、騎士に追い回されたよ」



 ウィンディ嬢は王国の辺境伯ご令嬢。


 精強な騎士団を持つことを許された貴族の娘で、ご自身もかなりの武勇をお持ちです。



「それは大変でございましたね……あら」



 応接の扉が二度、叩かれました。



『コレット様』



 廊下から聞こえた声に、王子が弾かれたように扉を見ます。



「来客中よ」


『……それが、騎士が訪ねて来まして』


「いないと言ってくれ!」



 急に王子が叫びました。


 扉の向こうの声が、しばし止まります。



「応対は任せます。お客人同士がかち合わないように」


『……はっ』



 廊下からする足音が、声の主が離れていくことを伝えてきます。


 わたくしは王子を流し見て。



「今日はお疲れでしょう。まずは休まれるとよろしいかと」


「あ、ああ……そうするよ」



 ……礼もなく、それが当然のような言い方。


 何がこの方を、こうさせてしまったのでしょうね。


 元からといえば、それまでなのですが。



 テーブルの上の鈴を鳴らすと、扉を開け、幾人かが部屋に入ってきました。


 一人は男装、褐色の女性。当館で執事業務を任せています。


 さらに二人の侍従。



 彼女たちを見て、王子が席を立ちました。


 勢いがよかったのか、椅子が倒れます。



「お、おま! イザベラ!? え、エリスとオレーヌ!? あ、そっちはやっぱりカレン!!」



 それぞれを指さし、口角から唾を飛ばしながら、彼が叫んでいます。



 そして。


 開いた扉から僅かに聞こえる……赤子の鳴き声が、二人分。



「ま、まさか! アリエラまで!?」



 おや、この王子。やはり女絡みなら、多少は頭が回るようです。



「こ、コレット……」



 わたくしを見て震える彼を、じっと見てから……にこりと笑い。



「あなたが手を出した侍従や町娘、令嬢たちは一人残らず拾い上げました。


 ウィンディは当館で兵の統率を任せています。


 イザベラは執事長にあたりますね。


 そしてアリエラは、わたくしの妻になりました」


「はぁ!? おまえら女同士だろう!! 結婚なんてできるか!


 お、俺を馬鹿にしているのか!!」



 馬鹿だとは思っていますが、馬鹿にはしていません。


 確かに、王国では同性婚姻は不可です。


 ですが。



「帝国でなら、女性同士でも結婚はできます」


「ば、ここは王国だぞ!?」


「いいえ?」


「……へ?」



 彼は口を開き、間の抜けた表情を浮かべています。


 わたくしも椅子を引いて立ち上がり、彼の正面から向き合いました。



「ここは帝国です。


 あちらに亡命したわたくしが攻め落としたのですから、間違いありません」



 だから、王国の騎士には彼を引き合わせられないのです。


 連れていかれては……つまりませんからね。



 力が抜けたのか、彼は膝から崩れ落ちました。



 わたくしはゆっくりと彼に近づきます。


 ……正直近寄りたくない臭いがしますが、致し方ありません。



 この時を、待っていたのですから。



「大丈夫。あなたには何もしません」



 近くにひざまずき、優しくその耳にささやきます。



「ほ、ほんとうか!?」



 ふふ。


 まだすがれる何かがあると思っている、愚かな声。


 ――――叩き落しがいが、あります。



「わたくしはただ、あなたのものだったすべてを奪うだけ」



 身を離し。


 立ち上がり。


 見下す。



「女も、地位も、名誉も、家族も……その国も、すべて」



 そして最後には、その命を。



「何もかもがなくなる様を、じっくり見せてあげますね」


「やめ、やめて……」



 ……彼の一言が。


 なぜだかわたくしの心を、大きくかき乱しました。



「わたくしが!


 浮気はおやめくださいと言ったとき!


 あなたはこうおっしゃったのです!」



 わたくしは床を踏み鳴らし、強く彼を睨みつけました。


 あの時の彼の顔を……その屈辱を、思い起こしながら。



「 い や だ ね !」



 ……彼が白目をむいて、どさりと倒れました。


 茶に混ぜさせた薬が、効いたようですね。



「イザベラ、後始末を頼みます」


「はい、コレット様」


「…………これで、一段落つきましたね。


 やっと、あなたたちを解放してあげられます」



 わたくしは我慢強い分、執念深い女です。


 この日のために、彼が手を出した女性を一人残らず集めました。


 ただただ、復讐のために。



 アリエラはこれ以上傷物にするわけにもいきませんし、責任は持ちますが。


 他の子たちには、それぞれの人生がある。


 これからそれを、探していかなくては。



「そのお話なのですが、コレット様」



 おや、なんでしょう。


 イザベラと、侍従たちが……なにやらかしこまって。



「あなた様に口説き落とされた女一同、責任をお取りいただきたく思っております」



 …………ん?



「いえその、口説いた覚えは……」


「復讐のためだというのは分かっています。


 しかし、あの夜真っ直ぐに私を見たあなたの瞳を、忘れられません」



 イザベラ?



「もう男なんて嫌です、コレット様がいいです!」


「この日をずっと待ってたんです、早くもらってください!」


「ちょ、順番は決めてあるでしょう! コレット様、私が先です!」



 エリス? オレーヌ?? カレン???



「騎士の方々には丁重にお帰りいただいたので……私もお相手いただければ」



 いつの間に戻ってきたのですウィンディお仕事早いですね?



「ちょっとコレット! あなた来ないと私たちの子は泣き止まないのよ!


 そんなクズほっといてさっさと私たちを構いなさい!!」



 アリエラその子たちもう結構大きいのによく二人ともだっこで連れてこれますね???



 というかこれはその、いけません。まずい流れです。


 この館、あと何人いると思っているのですか。


 一同? イザベラ一同って言いました?



 わたくしが全員、責任とるんですか???


 帝国の「クロユリ」と呼ばれる領は一時、女人だらけの地だったという。


 その中心には、かつて存在した王国の元公爵令嬢が。


 いたとか、いないとか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] コレットさん、知らずうちにハーレム築いてらっしゃるw とても良いざまぁと百合ハーレムでした(*´꒳`*)
[良い点] ざまぁが気持ちよかった [気になる点] 復讐方法 手を出した姫達の口説き方 [一言] コレット様ぁ~
[一言] これイチャイチャしつつ王国滅ぼすアフターみたい
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