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異世界転生・転移の文芸・SF・その他関係

RPG世界で町や村が滅びない理由は、もしかしたらこういう事かもしれない

作者: よぎそーと
掲載日:2023/06/16

「ふざけんな」

 商店の店主たる商人レベル78は睨みつけた。

 目の前に立つ勇者レベル56はすくみ上がる。

「お前が魔王を倒すために旅をしてるのは知ってる。

 だがな、だからって値引きが出来ると思ってんのか」

 その一言に、勇者レベル56は口を閉ざすしかなかった。



 突然あらわれた魔王レベル135は、世界中に魔物の軍勢を送り出した。

 世界は戦乱の渦の中に巻き込まれた。

 この状況に世界各国は防戦一方となっている。

 圧倒的な数で押し寄せる魔物の軍勢に、兵力が圧倒的に足りないのだ。



 そこで各国は遊撃隊として勇者を編成。

 各地の魔物の拠点へと突入させている。

 膨大な魔物の群れを統率するには、どうしても指揮官が必要になる。

 その指揮官を仕留めて、命令や指示を出させなくする。

 否応なく魔物は混乱する。



 そんな勇者は人類勝利のための切り札である。

 戦力として大いに期待されている。



 ……という事だったら話は違うのだろう。

 しかし、現実は違う。



「だからって無理を通せると思うなよ」

 よりレベルの高い商人に言われては返す言葉もない。

 実際、勇者レベル56は販売していた武器や防具などの値引きをしようとした。

 それだけなら、商人レベル78もにらみつけたり怒りを押し込んだ声を出さなかっただろう。

 しかし、勇者はとんでもない事をほざいたのだ。



『俺達ががんばってるから魔物を抑え込めてんだぞ』と。

 とんでもない思い上がりだった。



「いいか、勇者」

 聞き分けのないクソガキにするように、商人レベル78は説教を開始する。

「お前らなんぞいなくても、どうとでもなる。

 忘れてんのか?」

 その声の圧力に、勇者レベル56はすくみ上がった。

 一緒にいる勇者の仲間達もだ。



 商人レベル78の言うとおりである。

 確かに勇者の活躍によって、人類側は防戦一方の状況を覆しつつある。

 しかし、いなくて困るという程でも無い。

 確かに膨大な魔物の数は問題だ。

 村や町を一歩出ればすぐそこにるような状態だ。

 どうにかしてこれを排除したいと誰もが考えてる。



 しかし、考えてほしい。

 そんな状況でも人類は滅亡に向かってるわけではない。

 村や町での営みは続けられている。

 朝起きて、食事を取って、働いて、風呂に入って、寝る。

 一般的なこういった生活活動は途切れる事無く続いてる。

 勇者がいなかった頃からだ。



 なぜならば、一般人もレベルを上げてるからだ。

 その強さはそこらの怪物を余裕で撃退出来る。

 その強さがあるから、村や町は魔物に潰滅させられずに済んでいる。



 ただ、魔物の数が多いから対処に手間取ってる。

 倒しても倒しても、後からやってくるのだ。

 これでは日々の生活もままならない。

 魔物を倒したって生活の糧が手に入るわけではない。

 食べる物も、便利な道具も、その他様々な生活に必要なものも、人が作らねば手に入らないのだ。



 そこで勇者という魔物と魔王撃退の専門職を用意した。

 彼らに魔物退治を任せ、他はそれぞれの仕事に専念しようと。



 この役割分担おかげで、魔物がやや優勢だった戦況も変わった。

 いくつかの地域や国では魔物を退け、邪魔の入らない生活が戻ってるという。

 それを成し遂げてる勇者は、確かに偉いだろう。



 しかし、それよりもっと偉いものがある。

 一般職だ。



 食糧を作るのは誰か。

 資源を採掘するのは誰か。

 資源を加工して道具にするのは誰か。

 文字や数字を駆使して管理するのは誰か。



 全て一般職だ。

 勇者のような戦闘職ではない。



 戦闘職は誰かが攻めこんできた場合にのみ役立つ。

 戦争だったり、今そうであるように魔王が怪物をけしかけてきた時だったり。

 そうでなければ戦闘職など不要でしかない。

 何も作り出さないのだから。



 戦闘職だけなら、食糧も資源も物品も生まれなくなる。

 出来上がったものがどれだけあるのかを管理も出来なくなる。

 普段の生活が成り立たなくなる。



 しかもだ。

 一般職は日々の仕事や作業で経験値が入る。

 レベルが上がっていく。

 生活をするだけで強くなる。

 当然ながら戦闘職よりも高いレベルになる。

 商人レベル78のように。



 対して勇者レベル56などは戦わなければ経験値が入らない。

 訓練のような模擬戦闘でもある程度入るが、殺し合いの本番ほどではない。

 この為、レベルが上がりにくい。



 それでも、同レベルならば戦闘職の方が強い。

 戦いに特化した能力を持ってるのだから当然だ。

 しかし、このレベルも一般職の方が高くなる傾向にある。

 あたりまえだ、毎日経験値が入るのだから。



 しかも、一般職の方が数が多い。

 戦闘職よりも多い。

 そんな一般職の者達が本気を出せば、戦闘職など一蹴できる。

 戦闘特化の能力や特技を持っていても関係がない。

 基礎となるレベルと、圧倒的な数でねじ伏せる事が出来る。



 極端な話、魔王との戦いでも、この一般職の者達が総出で対処すればどうにかなる。

 数で押し込めば、魔王を倒す事は出来る。

 ただ、損害が大きいので控えてるだけだ。



 それに、一般職が仕事を放り出して魔王との戦いに赴けばどうなるか?

 生活が成り立たなくなる。

 人類社会が崩壊する。

 食事も資源も道具もなければ社会は成り立たない。

 少なくとも文明は崩壊する。

 原始時代に戻るならともかくだ。



 衣食住を確保するには一般職が一般的な仕事をしなければならない。

 そうするために、勇者のような戦闘に特化した職業がある。

 これらに魔王や怪物と戦わせるために。



 極論すれば、勇者など魔王がいるから存在しているだけだ。

 魔王のような脅威があるからこそ存在価値がある。

 戦いがないところに戦闘職など不要なのだ。

 邪魔でしかない。



 それに、戦闘職は別に珍しくもない。

 貴重という事は無い。

 確かに上級職とか特殊職などはある。

 だがそれらも、いれば有利になるという程度でしかない。

 起死回生の切り札のようなものではない。



「いいか、お前らの代わりはいくらでもいる」

 商人レベル78が突きつける言葉が全てだ。

 勇者の代わりはいくらでもいる。

 いなくても問題はない。

 他の戦闘職で代打はつとまるからだ。



「そんなお前らが何言ってんだ?」

 商人レベル78は戯言をほざいた勇者レベル56をにらむ。

 それだけで勇者とその仲間達は震え上がる。

 レベルの差が能力の差、戦闘力の差になるのだ。

 自分達を上回る商人レベル78からにらまれれば生きた心地がしない。



「だいたい、他の仕事が出来ないチンピラが粋がってんじゃねえ」

 その言葉に勇者達が顔を引きつらせる。

「まともに仕事が出来なくて、しょうがなく勇者をやってるような奴等が」

「…………」

「暴れるしか能が無いお前らが出来る唯一の仕事が勇者だろ。

 そんな奴等が偉そうに噛みついてくるんじゃねえ」

 これもまた事実である。



 勇者に限らず、怪物と戦う戦闘職の多くは素行不良のはぐれ者ばかりだ。

 性格や人格的な問題でまともな仕事が出来ない。

 そんな者達が社会の底辺を流れに流れて着いたのが怪物との戦いだ。

 だからだろうか、レベルが上がって戦果をあげだすとつけあがる。



 なお、戦闘職全てが性格・人格破綻した者達ではない。

 まともな者達だってもちろんいる。

 そういった者達は国の兵士や将軍として軍隊などにいる。

 そうなれなかった者達、国から不採用とされた端切れが怪物退治に従事している。

 他にやれる仕事がないから。



「うせろ」

 商人レベル78は威圧を込めて告げる。

 黙り込む、しかし怒りでにらみつける勇者達に向けて。

「お前らに売るものはない」

「じゃあ、どうすんだよ!」

 勇者が怒鳴る。



「武器もねえ、道具もねえ。

 こんなんで戦えってのか!」

「あたりまえだろ」

 何をいってんだ、という調子で商人が言い返す。

「……もう武器も防具もがたついてる。

 修理もしてもらえなくちゃすぐに壊れる。

 でも職人は直してくれねえ」

「あたりまえだろ」

 何が悪いんだと商人は言う。



「お前らが悪さをしたからだろ。

 普通に修理を頼めば、修理費用を払えば問題は無かった。

 頭を下げて頼めばよかった」

「なんで!」

 どん!

 商人が机を叩く。

 その音でくってかかろうとした勇者が動きを止める。



「なんで?

 なんでだ?」

 逆に商人は尋ね返す。

「頭を下げて頼む。

 必要な代金を払う。

 そんなのあたりまえだろ」

 普通の人間なら当然だ。

 たとえそれが金を払って頼む依頼人だとしてもだ。

 頼む相手に頭を下げるなど当然の礼儀だ。

「お前らには分からんようだがな」



 あろうことか勇者達はそんな事しなかった。

 やってあたりまえという態度で「やれ」と職人に武器や防具の修繕を要求した。

 その態度に激怒した職人は勇者達を叩き出した。



 その話はすぐさまあちこちを巡っていった。

 商人の耳にも当然入る。

 入ったから、販売の全てを拒否した。

 勇者達が買い求めた補修用具や材料もだ。



「人に頼む事が出来ない、頭を下げる事ができない。

 そんな傍若無人な奴にくれてやるものは無い」

「カネなら────!」

「カネを払えばいいってもんじゃねえ!」

 声を荒げる勇者。

 それを覆い潰すほどの大声で商人が怒鳴る。



「人に素直に頭を下げられない。

 頼むことが出来ない。

 そんな奴なんざいらねえんだよ」

「…………俺達に」

「さっさと死ね」

 死ねっていうのかと言おうとした勇者達に先んじて答える。

「お前らなんざさっさと死ね。

 怪物と戦って死ね」

 それが商人の、そして町に住む一般職の答えだった。



 人はいたわりと慈しみで社会を成り立たせている。

 協力体制を作っている。

 親切が人をつなぎあわせている。

 それが理解できないから一般職からはみ出る。

 怪物と戦うだけの勇者にしかなれなくなる。



 言い方をかえれば、いつ死んでもいいという事だ。

 いなくても社会はまわる。

 世の中は成り立つ。

 文明を維持出来る。



 ただ、多少不便になるだけだ。

 怪物退治を専門とする者がいなくなるから、どうしても不便にはなる。

 ほんの少しだけ。

 充分に許容できる範囲で。

 損失にもならない、ただ不便になるという程度でしかない。



「お前らが死んでも別に問題はない。

 悲しくもない。

 だからさっさと怪物と戦ってこい。

 そして、死ね」

 誰もが望んでる、勇者達以外が求める望み。

 それを商人は口にした。



 その声に勇者と仲間達は愕然とする。

 自分達が拒絶される事が信じられないというように。

 しかし、そうなるだけの事をしてきたのが勇者達だ。



 暴言にはじまり、恐喝・強請・暴行・傷害・器物破損などなど。

 悪さをしてきたのがあたりまえの連中だ。

 まわりに高レベルの一般職がいるにも関わらずだ。

 すぐに見つかって袋だたきにされるというのに、懲りるという事がない。



 そんな連中だからまともに就職が出来るわけもなく。

 怪物退治をもっぱらとするしかない仕事に従事していく。

 しかも、国軍のような正規の仕事ではない。

 義勇兵や自警団のような自発的な防衛集団でもない。

 遊撃隊という、適当にでっちあげた組織に組み込まれていったのだ。



 名前だけ存在する遊撃隊。

 その実、他にいくところがなかった者達が集まってるだけ。

 愚連隊という方が実情を性格にあらわしてるだろう。



 そんな所にいる、そんな所にしかいられない。

 そんな勇者などに誰が敬意を払うのか。

 誰が重用するというのか。



「お前らは魔王と戦うから価値がある」

 商人をはじめとした一般人からすればその程度でしかない。

 それはつまり、

「魔王や魔物、怪物と戦わないなら何の意味もない」

 あたりまえだがこういう事になる。



「それにだ。

 遊撃隊の仕事には、一般人への横柄な態度や横暴な振る舞いはない」

 言うまでもない事だ。

 しかし、言うまでもない事を理解してないのが遊撃隊である。

「なのにお前らは一般人にふざけた態度をとる」

 値段を下げろ、無料で施せ、これくらいやれ。

 遊撃隊所属の者達にはこんな事をほざく者ばかりである。

 例外はいない。

 少なくとも商人が接してきた者達や、見聞きした範囲では皆無だ。



「そんなお前らにくれてやるものはない」

 当然の結果としてこうなる。

「それじゃあ俺達が死ぬんだよ!」

「だから死ねって言ってるんだ」

 動じること無く商人は応える。

「さっさと戦いにいけ。

 これが最後の情けだ」

 そう言って商人は勇者達をにらむ。

「でないと、俺達が黙ってないぞ」

 勇者達は黙るしかなかった。



 商人だけなら勇者達でもどうにか出来る。

 レベルは商人の方が高いが、それでも一人なら何とか倒せる。

 しかし、商人の店には様々な者達が集まってきている。

 労働者レベル67や店員レベル62。

 御者レベル59に事務員レベル69。

 店の中にいる者達が勇者達の前に立ってる。



 店の外にも騒ぎを聞きつけた者達がきている。

 いずれもレベル60からレベル70を超える者達だ。

 その中には警備兵などもいる。

 数でも質でも勇者達がかなうわけがない。



「町の外にいって魔物と戦ってこい。

 そうすりゃ、ここですぐに死ぬ事は無い」

「…………」

「武器も防具もすぐに壊れるだろう。

 怪物に殺されるだろう。

 だがな、それまでは生きていられる」

 最後通牒だった。

 勇者達にもそれは分かる。



 いつまでもこの場にいれば、周りの者が黙ってない。

 その時には、捕縛などという甘い対処はされない。

 確実に息の根を止めにくる。



 危険になった世界だ。

 下手な温情措置などとってられない。

 不安や不備があればそれがほころびになる。

 ほころびはやがて崩壊にいたる。

 そうなる原因になる不穏な人間はさっさと処分される。



 たとえば勇者達。

 これらを牢屋に放り込むとしよう。

 そうなると、警戒と警備のために人を割かねばならない。

 食糧なども出さねばならない。

 刑罰が執行されてもそれはかわらない。

 死刑ならその場で終わるのだが。

 懲役・重労働などに従事させるとなれば、投獄してる間は養う事になる。

 その手間がもったいない。



 まして、不満や不穏をもった者が反抗したら手間が増える。

 それが魔王の付けいる隙になるかもしれない。

 そうなるくらいなら、さっさと処分してしまおうというのが今の世の中だ。

 死刑を待つまでもない。

 その場で問題を起こす者を処分する事も黙認されている。

 法秩序だのと馬鹿げた事を言ってる場合ではない。

 判断を遅らせた事で、悲惨な結果に発展する可能性もある。



 そうならないように、その場での処分があたりまえになっている。

 魔王との戦いはそういう状況を作り出していた。



 勇者達とて例外ではない。

 魔王と戦い怪物を倒すなら良い。

 しかし、それ以外の部分で問題を起こすなら容赦はしない。

 たとえ魔物の脅威を退けても、勇者が脅威になるのでは意味がない。

 生活をおびやかす存在が魔王か勇者かの違いでしかない。



 だからこそ商人はつきつける。

 この場で処分されるか。

 怪物との戦いの中で死ぬか。

 二つに一つ。

 それ以外の選択肢は無い。



 戦いにおもむくふりをして逃げだすこともあるだろう。

 だが、そんなことをしても意味は無い。

 食べるものも見つけられない、とる事も出来ない勇者である。

 人里から離れたら野垂れ死ぬしか無い。



 なので、勇者や遊撃隊を外に追い出しても問題は無い。

 怪物との戦いで死ぬか、飢え死にするかの二つに一つ。

 他の町に行ってそこで稼ぎを得ることも出来ない。

 既に何が起こったのかは連絡がされている。

 他の町でも問題を起こした者は排除される。

 もう、どこにも居場所はないのだ。



 それが分かっていて商人は出ていけという。

 他の者達も同じ気持ちだ。

 いれば問題をおこす連中だ。

 せめて魔王との戦いに専念していればよいものを。

 遊撃隊の一員である事をかさにきようとする。

 そんな事をしてるから、そんな事をするような性分だから誰からも排除される。



 これでもまだ運が良い方だ。

 本来なら町の外に出すまでもなく処分されるのだから。

 何の支援も手助けもないとはいえ、外に追い出すのはまだ温情といえる。

 その先に死しかなくてもだ。



 あるいは。

 勇者などの戦闘職から転職すれば生きながらえる可能性はある。

 農民に狩人など。

 一般職になれば野外でも生きていける。

 しかし、そうなるとレベル1からやりなおし。

 再びレベルを上げるまで時間がかかる。

 だが、こうした生産系の職になれば食いつなげる可能性がある。



 だが、それも無駄である。

 たとえ能力や知識・技術があっても意味がない。

 やりとげる気力や意思があるかどうかが問題になる。



 普通の仕事が出来るならとっくにやってる。

 それが出来ないから遊撃隊になるしかなかったのだ。



 遊撃隊にいるものには継続的な作業が出来ない。

 一つの作業に集中する根気が無い。

 気が短く、すぐに頭と気持ちが沸騰する。

 地道に同じ作業をする事が出来ない。

 このあたりは能力や才能の問題ではない。

 性格や人格の問題だ。

 だから転職でどうにかなるものではない。



 そんな勇者達は町から追い出されていく。

 監視の兵士に囲まれて。

 万が一にも逃げだされたら厄介だ。

 その為、怪物のいるところまで連行されていく。

 死亡が確認されるまでこれは続く。



 とはいえ、レベル56の勇者と仲間達だ。

 簡単には死なない。

 戦闘を何十回も繰り返す事になるだろう。

 それでも、一回の戦闘で少しずつ体力も魔力も消耗していく。

 いずれ死体になる。

 時間はかかるが処分は確実に行われる。



 また、そうして働いてくれればいくらか安全を確保出来る。

 なんだかんだで怪物を間引きしてくれればありがたい。

 監視のための兵士をつけるのがもったいないが。



「普段からまじめに仕事してればいいんだが」

 遊撃隊に入るような者達にそんな殊勝な人間はいない。

 そういう人間は国軍や義勇兵・自警団にいく。

 そうした者達を消耗させずに済ますためにも、遊撃隊にはがんばってもらいたいものだと誰もが思っていた。

 それくらいは役に立って死んで欲しいと。



「無理だろうけど」

 ため息を吐きながら商人はぼやく。

 なんでまともに仕事をしないのかと。

 とはいえ、こんな悩みにいつまでもかまけていられない。

 今日も仕事があるのだ。



「がんばって稼がないと」

 不穏な時代だが、人間社会はまだ存続している。

 商人が活躍する場もある。

 そこでやるべき事をやっていかねばならない。



 ケチをつけてきた勇者たちのせいでそれが妨げられてしまった。

 そこに腹が立つ。

「こっちはそんな暇ないんだよ」

 既に消えた者達に愚痴を叩きつける。

 決して聞こえてないだろうと思いつつも。

 それでも、呪詛になって勇者共を縛り付ければと願った。



 この世界における勇者とはそんなものでしかない。

 魔王がいて魔物をけしかけてきて、その撃退に使っている。

 そう、使っている。

 道具のように消費するだけの存在。

 それが勇者であり、勇者を囲う遊撃隊という存在だ。

 そこに尊敬や畏怖というものは一切無い。

 あるのは軽蔑と嫌悪と怨嗟だけ。

 それ以外に向けるべきものは何一つ存在しなかった。



「でもまあ……」

 それでも思う。

「こうでもなきゃ、ありえないような」

 魔王と魔物という怪物がはびこるRPG世界。

 そこで一般人が無事に生きてる理由。

 勇者以外の者達が強くなければありえない事だった。



 前世の地球の日本で死亡して。

 そこから転生してやってきた世界。

 楽しく遊んだRPGのような世界で、勇者でも何でも無い事に落胆した事もある。

 だが、今になっておもえば、一般職で良かったと強く思う。



 戦闘職が特段優れてるわけではない世界だ。

 一般職でも充分に強くなれる場所だ。

 むしろ、戦闘職よりもレベルを上げることが出来る。

 それならばと一念発起して頑張ってきた。

 おかげで商人として成功する事が出来た。



 そんな商人にとって、勇者でも何でも無い事は幸運だった。

 最初は確かに苦労したし努力もした。

 レベルを上げるために必死だった。

 だが、レベルがある程度まで上がればあまり苦労はしなくなった。

 むしろ、前世よりも楽に生きる事が出来るようになった。



「勇者じゃなくて良かったなあ……」

 つくづくそう思う。

 下手に戦闘職についてたらどうなっていた事かと思ってしまう。

 国軍や義勇兵・自警団に入れるならともかくだが。

 下手に遊撃隊になってたら、今ごろどうなってたんだろうと。

 考えるだに恐ろしい。



 だが、商人はそうなってない。

 商人になってそれなりに成功した。

 富裕や富豪とまではいかないにしてもだ。

 何人もの従業員を雇って会社を経営するようにもなってる。

 女房や子供にも恵まれた。

 事業規模は今後も拡大予定で倒産の可能性は低い。



 前世ではここまで成り上がれなかった。

 それが出来るだけでも幸せというもの。

 出来れば今後もこのままでいきたいと思っている。

 勇者なぞにかまけてる余裕は無い。



「さあ、仕事仕事」

 自分に言い聞かせて仕事にむかっていく。

 今後の事業のため。

 自分の幸せのために。

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