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秋桜のペアリング  作者: shiori
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エピローグ「愛のしるし」2

 アパートに戻った私は、”愛のしるし”を見つけるために夢中で家中を探し回った。


「ここでもない……、ここにもない……、でも、もしかしたら、まだ……」


 何時間たっただろう、探し物なんてすぐに終わると思っていた。

 部屋も狭い上に、私は大して物を持っていなかったから。


 でも、私は諦めきれなくて、諦めることが出来なくて、探し続けた。


「探さないと……、なんとしても……」


 本棚やキッチン、机の引き出しや押し入れまで、同じところを何度捜しただろう。

 

 自分に早く諦めろと何度も言い聞かせようとするが、諦めが悪いのか、手を止めてはくれず、意地を張り続けるような自分に驚くほどに、諦めてはくれなかった。


「浩二が付き合って最初にプレゼントしてくれた……、大切なものなの……。お願い……、出てきて……っ」


 きっと、もう捨ててしまってなくなってしまったに決まっている。

 見つかるはずがない……、覚悟は出来ているが、それでも私は涙腺が緩んでいくのを自覚しながら懸命に探し続けた。

 もしかしたら……、もしかしたら……、そんなわずかな可能性を願って。


 私は求めた。

 漆原先生が手に持っていたシルバーの指輪の輝きは、本物だったから。

 だから、私はその大切なものまで、失いたくなかった。


 

 ――――懸命な捜索の末、ようやく、それを見つけた。



 机の引き出しから、机の奥に落としてしまって、ずっと見つけることのできなかった、大切なペアリングの片割れを。


 私はその手に掴んだ埃の被ってしまった指輪の入ったケースを手に、もうすでに瞳の奥に涙を溜めて、そのまま恐る恐る震える手でケースを開いた。



 その瞬間、スッと頭の中でほろ苦い思い出達が蘇って来て、私の瞳から大粒の涙が溢れた。



 小さなダイヤの入った、シルバーリング。

 他の誰のものでもない、浩二と私との、確かな”愛のしるし”



 その指輪の輝きに目を奪われ、心洗われるように、失われた色彩が戻ってくるように、私の手のひらの上で光り輝くその銀色の輝きは、眩しく私の視界を照らしてくれた。



 それは12月の初めだった。


 私と浩二はクリスマスが近づいたこの季節にペアリングを買いに繁華街の中にある、宝石店の入っている百貨店を訪れたのだった。


「これとか、似合うんじゃないか?」

 

 すっかり棘の抜けた優しい表情で指輪を一緒に選んでくれる浩二がいた。

 恋人同士でいるのが板についてきたように、私たちは普通のカップルと完全に同化していた。


 人の順応力は相当だと思いながら、私はそれを素直に受け入れ、幸せでいっぱいだった。


「お揃いのものがあるって素敵ね」


 買い物を終えた後、何度目かの私のアパートに訪れた浩二とのセックスをした後に、私は手を繋ぎながらしみじみと呟いていた。


「確かに、何か本当に恋愛やってるんだなって実感するな」


 微笑む浩二の顔がそばにあった。

 冷えた身体を温め合う、私はそれだけでドキドキした気持ちが続いて心地よかった。


「ずっと、こうしていたいわ……」


「そうだな、こうしていると学生であることも忘れてしまいそうだ」


 一緒に買ったペアリングを付けていると、より深く彼と結びついている実感が持てたのだ。


 彼とどこまでも行けるような気がしたんだ、あの頃は。



「ずっと、待ってくれてたんだね……、私が見つけてくれるのを」



 ”ここにある”ということは、そういうことなのだと、私は心の底から思った。

 

 私は運命の再会に感謝するとともに、胸が熱くなった。


「これでまた、ちゃんと会えるよね……、話すことも出来るよね」


 驚くほどに、私の声は涙のせいで震えていた。


 私は指輪との再会を果たしたと同時に、浩二ともちゃんと会って話せるようになりたいと思った。


 先生の言葉も大きかったが、この瞬間、本当の意味で私の時計の針が再び動き出し始めたと、私は感じた。



「4月からは一緒だよ、浩二。


 大丈夫だよ、今度は拒絶したりしないから。


 だから、私のこと、嫌わないでね。


 私がまだ勝手に覚えてるだけだけど、叶えたいことがあるだけだけど。


 まだ、一緒に演劇をするっていう、約束が残ってるから。


 今度はクラスメイトとして、優しくしてね、浩二」



 一人きりの部屋で、指輪を大切に握りしめながら、私は呟いていた。


 次第に震えが止まり、勇気が沸きあがってくるようだった。


 まだ肌寒さが残っているけれど、季節は巡っていく、再会の春へと向かって。


 そして、私はまた歩き出す、こうして見つけた指輪と共に春の予感を感じながら。

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