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秋桜のペアリング  作者: shiori
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第七章「舞い降る雪のように」1

 こんなはずじゃなかったと、起こってしまった後になって思う


 私の中で、大きく何かが崩れてしまうのを感じた


 私には、どう責任を取っていいのか分からない


 どう、これから振舞えばいいのかも分からない


 でも、ただ一つ分かっていることは、”私が一番邪魔な存在だということだった”



私は心に傷を負ったまま内藤医院を出て、一人夜道を歩いた。

 あの場にいると余計に自分が部外者であるという意識が強かった。


 ふと頭上に目を向けて空を眺める。おそらく初雪だろうか、粉雪が降り続いていた。

 

 歩くと一時間はかかる距離だけど、今はどれだけ寒くても、外の空気を吸いたい気分だった。


 ショックのあまり頭が回らない、ずっとズキズキとして、視界がかすんで見える。


 楽しい一日になるはずだったのだ、それがどうして一人で帰り道を歩くことになっているのか、考える頭もなかった。


 街で一番高い建造物であるクリスタタワーが遠くに映る。

 心なしが普段は眩しいくらいに緑陽に光輝く姿が、今は霞んで見える。

 霞んでいる姿を見ると、街の象徴のはずなのに頼りなく見えた。


 この沈んだ気持ちに効く薬なんてない、ただ今は彼と離れたかった。

 心を蝕んでいるのが何よりよく分かったから。


 このまま呼吸が止まってくれたらいいのに……、そう思いながらも、極寒の冬の寒さは相変わらず私がまだ生きていることを教えてくれて、足を止めると余計に寒さを感じてしまうから、止めることなく足をただ動かしていると思っていたより早くアパートまで辿り着いた。



「早かったね、一人で帰るつもりじゃなかったのにね」



 惨めな自分に悪態を付いた。あのまま一緒にいられたら、二人でここまで来ていただろうと思うと、一人きりで帰ってくるのが余計に心細かった。


 彼のぬくもりを失ったまま、玄関のカギを開けて真っ暗な部屋へと帰ってくる。


 閉め切ったカーテンを掴んで満月の姿を覗かせる夜空を確認する。

 光輝く衛星の姿は昨日と変わらなかった。


 蛍光灯の照明を付ける気にもならなくて、電気スタンドの明かりだけを付けて床に座り込んだ。


「———————こんなのってないよ」


 一人になって、大切なはずの一日も終わってしまって、悲しい気持ちが溢れかえってくる。

 歩き疲れた疲れよりも、冬の寒さよりも、ずっとこの惨めな気持ちの方が今の私には堪えた。



「——————ダメだ、必死に取り繕ったって、このままじゃ、唯花さんにも、みんなにも嫌われちゃう……、私が全部悪いから、浩二を連れ出した私が、全部悪いから……」



 病院まで付いて行ったけど、真奈ちゃんに会わす顔がなかった。



 ずっと、いい人を演じて、冷静沈着に正しいことをしてきたはずなのに、唯花さんにもきっと全部見透かされてる。


 私が()()()()()()()()()()()()()()()()()()って、そのために()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って、そう見透かされてる。


 もうダメなんだ、これ以上、彼の大切ものを奪ってはならない。

 そんなことをしても、誰かの迷惑になるだけで、自分が惨めになっていくだけなんだ。



「——————もう、嫌いよ、みんなみんな嫌いよ!!!! どれだけ大切に想ったって、迷惑になるだけじゃないっ!!!!!」



 激情が膨れ上がって、耐えきれなくて身体に力に入れると、手の届くところにあった椅子を投げ飛ばして押し入れの扉にぶつけ、ガタバタン! と大きな物音を立てながら椅子は転がっていった。

 押し入れの扉が衝撃で大きな型を付けて、ボロボロになった木くずが落ちているのが見えた。


 大きな音がして心臓の鼓動が早くなる、でも、一度沸騰してしまった激情を落ち着かせるには全然足りない、自分の行動に驚きはしたが、まるで気分は晴れなかった。



「———————足りない、こんなんじゃ足りない。もっと、壊さないと、壊したい衝動にドンドンと駆られていく。そうだ、このまま身体が動かなくなるまで……、でないと、何の慰めにもならない。嫌なのよ、本当はこんな一人きりの部屋なんて!!」



 私はそこから言葉一つ吐き出す気力もなく、ただ闇雲に本棚の中に詰められ、綺麗に入れられた本を無造作に取り出してはそこら中に投げ、それから時を忘れて感情の赴くままに部屋中のものを投げたり壊したり、燃やしたりしながら、力尽きた頃には、薄暗い部屋でもはっきりと分かるほどに荒れ果てた部屋に変わり果ててた。


 足の踏み場に困るほどの惨状になり、そのまま力尽きて、再び部屋に静寂が戻る。


 息を切らしたまま、もう、自分が生きているのかもよく分からなくなった、それでも、どういう理由か分からないまま、途端に静かになると出ないはずの涙が零れ落ちて止まらなくなった。



「うぅ……、ああぁぁ……、ううああぁあぁあぁ……」



 壊れたものはもう戻ってこない、一度犯した過ちは許されることはない、そんなことは分かってる。


 

 でも、大切な思い出には違いないから。

 そのぬくもりを忘れることなんてできないから。


 

「大好きだよ……、浩二、どうして私をこんなにしてしまったの。

 ひどいよ、痛くて苦しくてたまらないよ……、こんな気持ち知りたくなかったよっ!!!」



 暴れたって、逃げようとしたって、忘れられるはずがない……、もう忘れる方法なんて分からない。


 ただ、もう一緒にいられない以上、彼はずっと私を苦しませるだけの存在でしかない。


「最後まで、惨めな終わり方がお似合いかな……、だって、私は最初から浩二と違って、何も持っていない人間だったんだから」


 私は涙が枯れるまで泣きじゃくって、泣き疲れるとそのまま眠りに落ちていった。


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