第六章「黄昏に暮れる病室」5
「真奈!!」
内藤医院まで辿り着き、真奈の眠る病室まで入ると、浩二はベッドで眠る真奈のところまで行き声を掛けた。
羽月は病室の入り口で悲し気にその様子を見ていた。
達也が病状を伝えると浩二は涙を滲ませながら、真奈のそばを離れなかった。
時は過ぎて、夜になっても目覚める様子がないのを見て、その異常さを羽月も気付き始めた。
「薬の効果は効いている、明け方には目覚めるさ、唯花がすぐに見つけてくれたから処置が早く済んだからな。今回のことはなんとかなったな」
すでに事情の聞いていた唯花はそれで少し安心したようだった。
「唯花さん」
病室の外で羽月は声を潜めるように唯花のことを呼んだ。
浩二には聞かれたくないという意図が見えたので、唯花は病室を出て、話があるという羽月の傍に寄った。
「ごめんなさい、後のことをお願いできる?」
羽月は憔悴しきったような、いたたまれない様子で唯花に言った。
「ええ、私はずっと見ているつもりだから」
唯花は擁護するつもりはなかったが、羽月の体調も気遣って答えた。
「唯花さんも無理しないでね」
「うん、心配してくれてありがとう、羽月さんも無理しないで」
普段、仲が良いからか、こんな状況でも自然とお互いに労う言葉が出てきた。
羽月が翻して病室の中の様子を一度ちらっと見てから、離れていく。
「さよなら、私には荷が重すぎて背負いきれなかったわ」
それは誰に対して言い残した言葉か、辛うじて声の聞こえた唯花には意味が分からなかったが、その言葉だけを残して羽月はとぼとぼと内藤医院から出ていった。
「羽月さん……」
羽月が通り過ぎて行った廊下を眺めながら、唯花は呟いた。
大きな心の穴が開いてしまったような、そんな心境を唯花は羽月から別れ際に感じた。
*
交替で真奈の様子を見ながら、朝陽が登る頃になって、真奈は目を覚ました。
「おにぃ、来てくれてたですか?」
目を覚ましたばかりの真奈が、小さくか細い声でそう言うと、浩二の瞳からは一筋の涙が零れた。
「ごめんよ、真奈。一人にさせて、頼りない兄貴だったよな……、ごめん」
「そんなことないのですよ。おにぃがまなのそばにいるのを、ずっと感じながら眠っていたのです。だから、泣かないでほしいのです」
真奈の記憶には浩二に過去看病をしてもらった記憶もちゃんと残っている。
その時の安心感を思い出したのか、浩二がギュッと握る手のぬくもりを感じながら、真奈は安心した様子だった。
「でも、みんなに囲まれて、うれしいのです」
やっと一息ついた三人、ようやく長い一日が終わったような感覚を覚えながら、退院の時まで交代で三人は面倒を見ることにした。




