第六章「黄昏に暮れる病室」4
達也は真奈の呼吸が穏やかなものになるのを見届けると病室を出て、一通り今すぐできることを終えると、浩二に通話を掛けた。
これ以上遠慮することもないだろうと達也は考えた。
「すまん、達也から掛かってきたみたいだ」
遊園地を回る二人のもとに達也からの連絡が入った。
浩二は羽月の手を放して、引っ張り出したイヤホンを耳に着けて通話を繋いだ。
その様子を見た羽月の表情が固まって、じっと不安げに浩二のことを見つめていた。
「浩二、真奈ちゃんをうちの病院に搬送させてある、早く浩二も来い」
周囲の雑踏を搔き消すような、達也の重苦しいまでの報告。
前置きのないまま言い放った真剣な達也の言葉に浩二の心が揺れた。
達也は真奈が病室にいるともなれば、浩二はデートを中断せざるを得ないだろうと考えた。
浩二にとっても羽月を納得させる言い訳にもなる、達也はそこまで考えて、このタイミングで連絡を入れた。
浩二は隣に羽月がいる状況ではあるが、妹の一大事となればもはや無視出来る状況ではなかった。
「真奈は……、真奈は大丈夫なのか?」
焦る気持ちの心境のまま浩二は達也に聞いた。
「今は眠ってる、唯花も一緒だ、分かるな? 待ってるぞ」
「うん……」
信じたくない気持ちが残りながらも理性で納得させて、なんとか反射的に返事で声を出した浩二の言葉を聞くと達也そのまま通話を切った。
急な連絡に動揺が浩二の中で広がった。
浩二の目の前には羽月がいて、今の会話が聞こえていたのか、羽月の方から先に口を開いた。
「行っちゃうの? せっかく今日は誕生日だから、一日一緒にいてくれるって言ってくれたのに」
羽月の切実かつ身体にまで響くような冷たい言葉が浩二に重くのしかかった。
この状況に至って、羽月の気持ちがあっても、その訴えがあったとしても、浩二はそれでも、一番大切なことを見失ってはならないからこそ、羽月に断り入れなければならなかった。
「真奈は家族なんだ、俺が守ってやらないといけないんだ」
浩二は他に言いようがなく、羽月に正直に答えた。
「やっぱり、私がいると迷惑だよね……」
羽月は目を伏せて、立ち尽くしたままで、もの悲しそうな表情でそう言った。
「そんなことはない、羽月は大切な俺の恋人だよ」
その言葉を残して、振り返ることなくその場を立ち去ろうとする浩二の手を羽月は掴んだ。
「行かないで……っ、お願い、私も一緒に行くから」
置いて行かれるのを恐れて声を振り絞るようにして羽月がいうと、浩二も歩みを止めた。
こんな状況で離れられて、孤独に耐えられるような羽月ではなかった。
二人はそのまま無言のまま遊園地を出て、真奈のいる病院まで急いだ。




