第五章「本当に大切なこと」5
長い移動を経て、昼前には遊園地に着いた二人は足早に入場ゲートをくぐり、思い思いの面白そうなアトラクションを回りながら、羽月の作ってきたお弁当のサンドイッチを食べて、仲睦まじい調子で久々の休日を満喫した。
昼過ぎになって、二人はゲームセンターに入ると、UFOキャッチャーにチャレンジすることになった。
コインを入れて、音楽が流れる中、クレーンが自動で口を開ける、羽月は前のめりになって真剣の眼差しでボタンとレバーを操作して商品獲得を狙う。何十年も前から仕様の変わらない操作感であるが、そんなことは気にせずに楽しむことができるのも、UFOキャッチャーのいいところでもあった。
「もうちょっと! もうちょっと!」
クレーンがいいところまで、いき目標に向かって標的を捉えるが、お目当ての商品を上手く掴めない羽月であった。
「UFOキャッチャー、結構遊んだりするのか?」
「私は時々かな……、うちにいる”ぬい”はほとんど買ったものだけど……」
それ言葉を聞くだけで浩二は羽月の実力を察するように理解した。
「この、うさぎ、欲しいのか?」
幾度となく挑戦を続ける羽月の姿を見て、たまらずに浩二は声を掛けた。
「うん、うさぎさん、かわいいから」
羽月が頬を赤らめて子どもに戻ったような甘い声で言うのを聞いて、浩二は思わず可愛いと思ってしまった。
UFOキャッチャーの中にいる羽月が愛おしそうに見つめるうさぎのぬいぐるみは顔や表情こそうさぎだとすぐにわかるし、特徴的な耳もついているが、身体は抱きしめやすいよう設計されているためか、円柱型をしている。
ぬいぐるみ自体がかなり抱きまくらのように大きいサイズなので、取るのが大変なのは見た様子理解できた。
「それじゃあ、俺がちょっとやってみるか。取れたらプレゼントするからな」
「本当?」
「当然だろ」
浩二は羽月と交代して、自信を覗かせながら慣れた手つきでコインを入れてレバーを動かす。
クレーンの掴み具合や、ぬいぐるみの重さも考慮しながらベストの攻略法を考える。
「(この形式なら手前に押し込めは、高い確率で落とせるはず……)」
これまで見た雰囲気を見て、正確にレバーを動かし、クレーンを想定した目的の位置で止めて、クレーンが下りていく姿をじっくりと羽月と一緒に見守る。
「(これはいったか?!)」
内心そう思った瞬間、見事にぬいぐるみがコロンと転げ落ちていくのが見えた。
カランカランと店内中に鐘の音が鳴って、若い店舗スタッフがいそいそとこちらに寄ってくる。
若い店舗スタッフに祝福されながらうさぎのぬいぐるみをギュッと抱きしめる羽月は嬉しそうにハニカム笑顔を浮かべて、浩二も一緒に嬉しい気持ちになった。
「おめでとうございます!!」と言って袋を渡してくれるスカートのやたら短いスタッフを見送った後も、羽月は顔を赤らませて愛おしそうに顔をうずめてうさぎのぬいぐるみを抱きしめていた。
「満足したか?」
「うん、ありがとう」
ぬいぐるみを抱え、半分だけ見える顔で、羽月はさらにうんうんと頷いて見せた。
喜びのあまりに火照った様子の羽月をベンチまで連れ出して、そこでゆっくり落ち着くまで話しをした。
だが、唐突に通話を知らせるランプが点灯し、呼び出されていることに気づいた。
「ねぇ、通話来てるんじゃない?」
浩二の目に灯った特徴的なマークで羽月は通話の知らせが来ていることに気づき、声を掛けた。
「いや、メッセージみたいだ」
「本当? 大丈夫?」
「おう、行こうぜ、せっかく遊びに来たんだから」
嫌な予感がする、それは浩二も羽月も薄々感じていて、でも今この楽しい時間を失いたくなくて、浩二は立ち上がって、現実から目を背けるように羽月へと手を伸ばした。
「うん、今日は一日ずっと一緒にいてくれるよね?」
不安に感じた羽月が声を掛ける、羽月の心に抱いている感情が伝わって、ちくりと嫌な予感が浩二にまで伝わった。
「あぁ、誕生日なんだから、遠慮しなくていいって」
浩二は自分自身や羽月を安心させようと言葉を伝えると、それを聞いた羽月はぬいぐるみの入った袋を背負いながら手を伸ばして、夢が覚めてしまわないように浩二の手を握った。




