第五章「本当に大切なこと」4
一方、浩二が待ち合わせ場所の駅に辿り着くと、羽月は待ちくたびれたように顔を上げて、それでいて上機嫌に浩二を出迎えた。
今日の羽月はコンタクトレンズを付けている。浩二と一緒にいるときはリラックスしていることも多いので、眼鏡の時とコンタクトを付けているときは半々くらいで、デートに出掛ける時は比較的にコンタクトが多い。
羽月いわく幼いころに矯正して視力は日常生活レベルでは問題なく暮らすことができ、ケータイ代わりの目で覆うタイプの通信デバイスも問題なく使用できるようだ。
「もう、息切らしてないで早くいくわよっ」
明るい調子で羽月はそう言って、寒さで息を切らした浩二を急かして先を行こうとする。
一本一本が細く、サラサラとした長い黒髪と、白いコートに柄の入った赤いスカートとニーハイソックスをしていて真冬の一月に着るには寒そうに見えるが、羽月はそんな様子は微塵も見せずに、寒い街並みをブーツを履いて元気に歩いている。
セーターの上に、ダッフルコートとマフラーを着け、重装備をした浩二は羽月を追いかけて、スニーカーで滑らないように慎重に足を動かしながら走って羽月の横に立って、軽く羽月の白いコートに触れながら、コートからひょこっと覗かせる細く白い手に、自分の指を絡めながら、手を優しく握った。
「浩二」
ドキドキした気持ちと嬉しさのあまり、羽月から言葉が思わず零れる。
「これで、少しは寒さも紛れるかな?」
浩二は繋いだ手に少し力を込めると、羽月もそれに気づいてその手を離さないように、同じように力を込めた。
「そうかもしれないわね。じっと待ってると、結構寒かったから」
「それは悪かった」
「そんなことないわ。私が早く着いちゃっただけだから。
それに、寒がりなのはむしろあなたの方だから」
日常的にさむいさむいと口にするのは浩二の方で、羽月は寒さには鈍感な方だ。
こうして寄り添って歩いていると、周りから見ても微笑ましい、羨ましいと思うほどに恨めしいカップルに見えることだろう。
そんな周りの見解などお構いなしに、二人は電車に乗り込み、遠く離れた遊園地まで向かう。
何度か乗り換えをしながら、久々の遠出に二人のテンションも高かった。
二人きりでいられるだけで幸せな二人にとって、日帰り旅行に出掛けるのは何よりも幸せなことだった。
浩二は誕生日プレゼントを帰り時のゆっくりと出来るタイミングで渡そうと考えていた。
今日は朝から出掛けているから長時間一緒にいることができるので、それがいいだろうと考えたからだ。
「学生なんだから、もう少し遊んでおけばよかったと、最近つくづく思うわ。
生徒会にいたから、そんな余裕はないって自分では思ってたけど、会長は他の生徒会の子たちと時々遊びに出掛けていて、私はそんなこと気にせずに家で勉強したり本を読んだりしてばかりだったから」
羽月は昔の記憶を振り返りながら、思ったことを浩二に言った。
「真面目過ぎるのも考えものだな」
「だって、何話したらいいのか分からないんだもの。
私、歌もあんまり聞かないし、流行にも疎いから」
浩二が羽月に休みの日は何してる? と聞くと、勉強してるか家事をしているか本を読んでるか、後は猫をあやして遊んでるというから、あまり他の子に話題提供できることが少ないのだろうと浩二は思って、羽月の言葉に理解を示していた。
そんなこと気にせず生徒会のメンバーとも同じようにはしゃいでいればいいとは思うが、羽月の性格上、大勢で集まって遊ぶのは苦手なのだろうから仕方ないと思うしかなかった。
「でも、羽月は最初の頃に思ってたよりずっと女の子らしくて意外だったな。
猫やぬいぐるみが好きだったり、読書家で真面目なイメージと違ってビックリした」
「それくらい普通よ、失礼しちゃうわね。それに、私はそんなにみんなが思ってるほど真面目でもないから」
羽月は周りの目にも納得しかねる様子で、返事をした。
「そうかな?」
「そうだってば」
真面目じゃないのは自分のせいかもと浩二は思いながら、恥ずかしがる羽月を見ながら不真面目に羽月いわく不純異性交遊のようなことを続けてきたこれまでを思い出した。
浩二自身、これくらいは周りのカップルもやってるという認識ではあるが、羽月にとっては刺激がどれも強すぎるらしい。
「確かに真面目に見えて、積極的だしなぁ」
今度は浩二からからかうように羽月の表情を伺いながら言った。
「変なことばっかりする、浩二に言われたくないわ」
見つめられた羽月は不満げにそう言って反論した。
「変なことはしてないつもりだけど。羽月が知らないだけで」
「絶対そんなことない、浩二が、その……、そういうことに詳しすぎるだけよ」
男って本当にそういう事になると元気になって興味津々なんだからと羽月は呆れ気味に言って、止まらなかった。
羽月がそういうことに耐性がなさすぎるのがそもそも問題なのではと浩二は思ったが、性行為について、わざわざ車内や街中で話すような話題ではないと思い、それ以上言及することをやめ、浩二は口を噤んだ。




