第一章「思い出の中の二人」2
その後、放課後の二年生の学年会議が静かに始まり、私は早く終わってくれないかなと思いながら、会議の様子を眺めていた。
時々、意見を求められて回答したり、大丈夫かな? と思って各クラス委員に質問したりしていると、時間はどんどんと過ぎていった。
時は過ぎて、同学年を相手にした会議も終わって、気怠そうにクラス委員や生徒会役員が引き上げていく。
私はそのまま会議に使った生徒会室に残って、黙々と事務処理を続けることにしたのだが、一人の生徒が机に突っ伏したまま寝ていた。
「(……どこのクラスのクラス委員よ、会議中もずっと寝てたけど)」
今回の会議はクラス委員ごとに発言するわけでもなかったので、私は準備での疲れと生徒会長の逃亡(この際もう逃亡でいいだろう)での心労もあって、全員が誰かまで思考が回っていなかった。
「どこでも寝られるってある意味才能よね。さっさと起こさないといけないのだろうけど、まぁ、いいか、そのうち起きて帰るでしょう。さぁ、仕事仕事っと、早く終わらせて、晩ご飯食べに寮に帰ろう。昨日のカレー残ってるから食べないと」
私は寝ている生徒が聞いてるわけないかと思って、だらしなく声に出しながら、パソコンを立ち上げて、また新しい資料の作成に入る。
「本当に、起きてこないわね。よっぽど疲れてるのかしら」
資料作成に入って15分が経過し、それでも未だ微動だにせず眠り続ける男子生徒を見て、さすがに心配になってくる。
思えば、他の生徒会の生徒たちも帰ってしまったから、この寝ている男子学生と二人きりになってしまったのだと気付いた。
私ってば、何やってるんだろう……、早く追い返せばよかったのに、可哀想なのと面倒なのとごっちゃになって、放置したまま時間だけが過ぎて行ってしまっている。
「(ちょっと、コツいたらビックリして起きるかな?)」
私はボールペンの反対側で男子生徒の肩を興味本位でコツいてみる。
「(全然反応がない……)」
もっと他のところだったら起きるかなと思って、色んなところを私はコツいてみる。
だが、努力の甲斐なく、男子生徒は熟睡しているためか起きてくれない。
自然と男子生徒との距離が近づいてしまっていることに気づいた。
「(ち、近いっ! 私ってば、何してるんだろう……)」
恋愛経験のない私にとって、緊張しても仕方のない距離だった。
普段は見せないような、落ち着きのない私がいた。
「(いつまでも、バカなことやってないで、さっさと起こして帰ろう……)」
さすがに準備でお昼も抜いていたから、お腹も空いてきたし、私は早く起こして残りの仕事を終わらせて帰ろうと決めた。
「もう、いい加減に起きなさーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!」
自分でもビックリするくらい、普段出さないような大声と共に、私はノートで寝ている男子生徒の頭を平手打ちで叩いた。
「(あっ、思わずやっちゃった!!)」
気持ちが入りすぎたのか、思ったよりもきつくやってしまった!!!
やってしまった後で後悔しても遅いけど、もうこの際、諦めるしかない、だってずっと寝てるこの男子生徒の方が悪いんだから、こっちが非難される筋合いはないはず!!
「う、うううっ、なんだ、すごい頭がいたい、だれだよっ……」
情けない声を出しながら、何度コツいても起きなかった男子生徒がお目覚めになる。
男子生徒が頭を上げて、こちらを向いたとき、ようやく彼が誰かに気づいた。
「随分、熟睡してたわね、樋坂君」
私は強気に恨めしい表情を作って、眠っていた樋坂君に向けて声を掛けた。
確か樋坂君は同学年の演劇クラスの生徒、クラス委員じゃなかった気がするけど、そういえば先生に言われて来たとか言ってたっけ。
「あれ? 誰かと思ったら、副会長じゃないか、何やってんの?」
私の気も知らないで、樋坂君は何事もなかったかのようにそんなことを口にした。
「もう会議は終わってるわよ、あなたが起きてくれないと、私、帰れないんですよ、分かりますか?」
私は怒りを抑えて、出来るだけ丁寧に伝えた。
「なんだ、そっか、起こしてくれてサンキューな、んじゃ、俺は帰るわ」
そう言って、立ち上がって、樋坂君は帰ろうとした。
「ちょっと、待ちなさいっ」
いきなり退出しようとするから、私は思わずカッとなって怒気を込めて樋坂君を止めた。