第四章「取り戻せない時間」8
「驚かせちゃったかしら」
手を放し脱力したまま、再び、二人きりになった台所で羽月は言った。
「そうだろうな、唯花にとっては、俺が彼女を作るのも、彼女を家に上げるのも初めての経験だろうから」
羽月が複雑な心境になる。
そんな羽月を見て、また浩二は口を開いた。
「でも、気にしても仕方ないだろ? 唯花だって、好きな人がいるときはあったし、付き合ったらこんなことも起きるってことくらい、分かることだと思う」
それが説明になったかは分からないが、二人は気を取り直して料理の続きをした。
料理が完成し、浩二は真奈を呼びに行ったが、真奈は“お姉ちゃんのところに行ってくる”と行って、家から出ていってしまった。
二人きりになれることは嬉しいが、それでも真奈や唯花の心境を考えると浩二は複雑だった。
でも、浩二はせっかく来てくれた羽月を喜ばせようと出来る限り明るく振舞った。
二人で食事をして片づけをして、強引な羽月の提案で浩二の部屋で一緒に勉強もして、たくさん話をした。
身体を触れ合って過ごせば一番それが幸福なことだと、それはお互い分かっていたが、それだけではいけないという感情が残っていて、気持ちの整理は付かなかったが、それでも一緒にいられる時間は、それだけで幸せだった。
「段々、季節も変わって寒くなってきたわね」
「そうだな、あっという間だな」
浩二の部屋で二人くつろぐ時間、二人は話しをしながら穏やかな時を過ごしていた。
学園祭も終わり、季節は秋から冬へと移り替わろうとしていた。
街には落ち葉となった紅葉の葉っぱで溢れ、コートを着て歩く人の姿も出てきた。
確実に季節は変わり、時の流れを感じさせてくれる。
「恋人らしいことが出来ることが、こんなに幸せだと思わなかった。
そう考えると、今までの日々はなんだったんでしょうね」
浩二の肩に頭からもたれかかって、心地良さを満喫する羽月、浩二はそんな羽月を愛おしそうに横目で見ていた。
「今までの時間だって、今、こうしている時間を幸せだと実感させてくれるためのものだと考えると、無駄ではないのかもって、俺は思う」
「そう……、そうかもしれないわね。
違いが分かってこそ、今、こうしていられる時間が、かけがえのない大切な時間だと実感できるんだから、無駄じゃないわよね」
無駄ではない、そう思いながら。
でも、ずっと幸せになれなければ、それは、その人にとっては意味のないものだと、ただ、満たされないだけであると、そう、考えることもできて。
だから、これは自分たちが幸福であるからこそ出てくる、言葉なのだと、浩二は考えるのだった。




