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秋桜のペアリング  作者: shiori
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第四章「取り戻せない時間」6

 話しながら歩いて玄関の前まで辿り着き、浩二が常時かけている玄関のロックを開錠し、先に玄関を開けて中に入る。

 片手で扉を押さえる浩二の後に続いて、少しかかんで遠慮がちに羽月が玄関を入っていく。


「お邪魔します」


 普段よりも緊張気味にそう言って、浩二の後に続いて紺色のブーツを抜いて、玄関を上がる。


「ずっとあのアパートで暮らしてるから、広々としたお宅にお邪魔するの、久々かも」


 廊下を抜けて、リビングに入ると、広々とした部屋に通され羽月は嬉しそうだった。


「あれくらいの部屋の方が掃除もしやすくて楽だけどな」

「窮屈なのはよくないって、心理学でもやってるでしょ?」

「それもそうか、せっかくだからな、今日はゆっくりしてくれ」

「うん、そうさせてもらうわ。何だか学園祭が終わってちょっと気が抜けすぎかも」

「それくらいでいいんじゃないか。生徒会も後輩がこれからは引き継いでくれるんだから」

「それはまだ気が早いかな……、まだ私二年生だから」


 学園祭が終わったことで、生徒会では引継ぎが徐々に始まっている。

 引継ぎを行うことで羽月の業務も減って、自由な時間が増えて、こうして一緒にいられる時間も作れるようになってきている。


「ちょっと、幸せすぎて悪いくらい。浩二といると、何もかも満たされるみたいで」


 しみじみとした調子で、嬉しさがこみ上げてくる羽月は、案内されるままにソファーに腰を下ろしてそっと呟いた。


「そうか、それじゃあ共犯ということで。俺は、今のままがいいな」


 ソファーに座る羽月と浩二の視線が合わさって、恋人として見つめ合う時間が続いた。

 そうしていると、止まった時間が再び動き出すように足音が聞こえた。

 きっと真奈だろう、浩二はそう思って廊下の方に目を向けた。



「おにぃ、帰って来てる!」



 元気な真奈の姿が目の前にやってくる。

 小学生になったばかりの真奈はまだ甘えん坊で浩二の姿を見つけて喜んでいる。


「おう、もうすぐお昼にするからな、買い物して帰って来たよ」


 真奈の言葉に浩二は答えた。


「きこうのきかんをしゅくして、おかえりなの!!」

 

 真奈が言葉と一緒に人懐っこく浩二の傍によってぎゅっと腕を掴む。

 だが、次の瞬間には真奈の視線は浩二に寄り添うようにソファーに座る羽月の方に移動していた。


 見つめ合っていた二人をみていた真奈は“()()()()?”と、すぐさま思った。


 真奈は兄がまだ自分がよく知らない女の人を連れ込んで二人きりでいるところなんて見るのは初めてだった。それに、二人の雰囲気は見たことないものだった。


 舞でもなく、この前学園祭の時に兄と一緒にいた人、そして、真奈の口は自然と開いて、思いつくままに次に発する言葉を止まらなかった。



「あの時、いっしょにいた女の人? どうしておにぃといっしょにいるの?」



 浩二は真奈に、恋人ができたこと、恋人が羽月であることをこの日まで言っていなかった、真奈の言葉に心がざわつくような感覚がしたが、浩二はちゃんと紹介しなければならないと思い、真奈の疑問に答えようと口を開いた。



「付き合うことにしたんだ。八重塚羽月さん、この前、学園祭の時に会っただろ?」



 あまり驚かせないように、そして真奈にも知ってもらおうと平静なまま浩二は真奈の言葉に答えた。



「——————どうして、この人なの……、おにぃ、どうして、お姉ちゃんじゃダメなの? ずっと、一緒に暮らしてきたのに」


 真奈の視線が羽月の視線と重なって、羽月が口を開き話しかけようとするが真奈の方が一歩早かった。

 

 言葉の内容から、唯花のことを言っているということは誰もがすぐさま分かった。


 真奈にとって唯花は隣近所に住んでいる、いわば家族のような存在だった。

 唯花が兄の浩二と一緒に仲睦まじい関係で自分を育ててくれた経験をしてきただけに、ショックは大きかったのだ。

 

 反射的に出た真奈の言葉は冷たいようであり、二人を責めるようでもあった。


 思わぬ言葉に挨拶しようとした羽月は押し黙って、この空気の中、何と言っていいのか分からない心境になった。


 真奈に二人を困らせようという自覚はなく、ただ真奈はずっと家族同然に暮らしてきたお姉ちゃんと呼ぶ唯花と、兄である浩二がくっ付いてずっとこの先もそばにいてくれることを信じて疑わなかったのだ。


「——————唯花は、隣近所でこれからも面倒見てくれるよ、それは、何も変わらないって」


 浩二は、真奈のことを傷つけてしまい、心にヒビが入ったような感覚を覚えながらも、なんとかフォローしようと言葉を返した。



「そんなの、ちがうもん。おにぃがいちばん大切なのは、おねえちゃんだもん。

 おにぃのバカ!!!!」



 浩二の言葉に納得できない真奈は大きな声でそう言って、涙を見せながら引き留める間もなく自分の部屋に走り去っていった。


 真奈がリビングからいなくなって、沈黙が流れる。


「浩二、いいの? 追わなくて」


 動揺が広がる中、どうしていいか分からないまま、羽月は浩二に言った。

 なぜそこまで自分が拒絶されているのか、羽月は浩二と唯花の関係を見れば何となく理解できたが、それでも今日会っていきなりこういうことになることは予測できなかった。


「後で、ちゃんと話しておくよ。今はそっとしておこう」


 浩二にとってもここまで真奈が拒否反応を起こすことになるとは想定していなかったので、どうしていいか分からなかった。


 ちゃんと説明するしかない、それは分かっていても、納得してもらうのには時間が必要なのだと浩二は思った。


「浩二がそれでいいなら」


 気持ちが一気に沈みながら、羽月は言葉を振り絞った。

 真奈はしばらく部屋にこもって出てこないかもしれないと浩二は思った。


「料理の準備でもして、待ってようぜ」

「うん」

「お腹空かしてきっと降りてくるさ、心配しなくても大丈夫だって」

「そうよね……」


 浩二の空元気に羽月はなんとか自分を納得させて、他にやりようもなく、しぶしぶ料理の準備に取り掛かった。

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