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秋桜のペアリング  作者: shiori
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第四章「取り戻せない時間」5

 羽月のアパートにお邪魔したことをきっかけに、今度は羽月が浩二の暮らす樋坂家にお邪魔することになった。


 羽月が料理を作り、一緒に食事するということで、一緒で買い物へ出掛けた。


 スーパーマーケットをデートの時と同じように手を繋いで歩いた。

 こうして手を繋いで歩いていれば学園で交際を秘密にしている意味はないのだが、二人は学園以外ではそこまで気にしないことにしている。


 普段、隣近所に住む幼馴染の唯花などの影響で和食の多い浩二のためにクリームシチューを作ることになり、生鮮食品を中心に買い出しすることになっている。


「……たまねぎ、にんじん、じゃがいも、豚肉と、後はいいわよね?」

「いいんじゃないか? それとも、りんごとかシーフードも入れるのか?」


 勝手に口を付いて出た言葉だったが、浩二はそういえば唯花の作ったシーフードカレーやりんごの甘味を加えたカレーも美味であったと思い出した。

 クリームシチューを食べた記憶はあまりなかったが、それはシンプルな材料だった気がした。


「それも魅力的な案だけど、今日はいいかな。カレーも肉じゃがもシチューも材料似たようなものなのに、気付いたら材料腐らせちゃうのよね……」

「そうなのか?」

「一人暮らししてると、まとめ買いして失敗することはよくあるのよ」


 浩二には一人暮らしの経験もないし、余ったら隣近所が食べてくれるので、そういった経験はなく、理解の及ばないところであった。


 昼食の時間に間に合うように、早めに買い物を済ませて、互いにエコバッグを持ちながら樋坂家までやってきた。


「男の人のいる家に入るのって、やっぱり緊張するなぁ」

「そういう経験、本当にないのか?」

「自分の家族以外だったら本当にないって、前にも言ったけど、私、男の人とお出掛けしたりするような関係になったこともないんだから」


 樋坂家の玄関の前までやってきて、羽月は言った。

 真面目な羽月らしいことだが、浩二から見たら最初から遠慮がなかったので、それくらいの経験はあると付き合う前は思っていたのだった。


「でも、案外生徒会長は羽月とも遊びたかったのかもよ?」

「ないないって! 会長はお人形さんみたいな書記の子がお気に入りだったんだから。いっつもデートに誘っては断られてたけど」


 会長の軽いノリで断られるのが分かっているのに話しかける姿を思い出して、羽月は久々にとんでもない破天荒だったなぁと思い出した。


「そういうのはフェイクの可能性あるから、本心では真面目な羽月がタイプって可能性もあるけどな」

「うーん、ないと思うけど、そうだとしたらとんでもなくメンドクサイ性格ね……」


 引っ越してしまった生徒会長の話しとなると羽月は容赦がなかった。


「そんなことより、早く入りましょ」

「そうだったな、ついつい話し込んじまった」


 話しを切り上げて、玄関へと再び向き直る。


 浩二が生まれた時からずっと住んでいる一軒家。

 庭として使えるほど広いスペースはないが、自動車一台停める駐車スペースはある。

しかし、両親が他界してから自動車は引き払ったために、ずっと停められておらず、空いたスペースになっている。


「でも、やっぱり緊張するのは変わらないわね」

「そうか? うちは真奈もいるから、普通の家庭と似たようなものだと思うけど」


 緊張しているという羽月に浩二はそう言った。


「家族がいると、それはまた別の緊張があるのよね」


 浩二は確かにそうかもしれないと思ったが、二人きりというのはそれはそれで落ち着かなくて、緊張することを先日、羽月のところにお邪魔したときに経験しているだけに、どっちつかずに感じた。


「あまり、気にしないでいいぞ。せっかくの休日なんだから」

「うん、ありがと。一人でいるとほとんど読書してるか勉強してるかだから、一緒にいられるだけで嬉しい」


 真面目な羽月らしい返事であるが、ハニカム笑顔で曇りなく浩二に言った。

 

 この時代においても、人間は勉強というストレスと向き合わなければならない事に変わらない。

 それがもちろん興味関心のあることであれば娯楽と似たように受け入れられるが、そんな楽な気持ちになれることはそう多くないだろう。

 今なお、革命的な技術が開発されて、勉強する必要がなくなるということもなく、効率的な学習法なるものは、宣伝文句のように無数にあるが、地道に勉学に向かうという根本的なことは時代を経ても変化していない。


 つまりは、学力は努力あってこそ実になるものであることに変わりないというわけだ。


 そういうわけで、羽月の日々、勉強に時間を割く習慣は変わることなく続いている。


 学園でも優秀な羽月は自分のことを凡人と言っているように、人よりも何倍も努力しているということだ。

 部活動というものがありながら、そこを逃げ道にせず、勉学に勤しむ羽月の姿は模範的ともいえる。


「ご機嫌だな」


 密着するようにそばを離れない羽月の姿に思わず浩二は呟いた。


「それは、毎日が楽しいもの。

 幸せって、こういう事を言うんだなって、つくづく思い知らされてる」


「全部、俺のせい?」


「当然でしょ、休日の過ごし方まで変えちゃうんだから」


 付き合って以来、学園では見せないような表情や言葉を、羽月は掛けてくれる、その恋人ならではの特別な関係であることが、浩二にとても嬉しく、照れる気持ちが止まらなかった。


 丸くなったようで、素直になったようで、時折甘えてくる羽月の姿を浩二はそれが自分にのみ向けられていることが分かるからこそ、一段と愛おしく思うのだった。

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