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秋桜のペアリング  作者: shiori
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第二章「愛に変わった日~救世主の再臨~」7

 顔を隠したままの不機嫌そうな男の一言で一旦、この場は静まり返り、私はなんとか身体を起こして、助けに来た様子の女性の方を再度よく観察した。


 特別鍛えているようにはとても見えない、凛々しさは感じるが、特段、おかしな様子のない普通の成人女性に見える。


 見た目には年齢の判断しづらい容姿だが、腕には数珠を付け、黒いワンピースと綺麗なネックレスを着けた、スラっとした体形の八方美人のような女性で、その堂々とした振る舞いからは余裕さえも伺え、自然と大人の貫禄を感じさせた。


 だが、この緊迫した状況の中で、慌てる様子一つなく、まるで荒事に慣れているかのような堂々とした佇まいは、私なんかとは全然雰囲気が違っていた。



「うーん、今日のところは()()()(メシア)とでも名乗っておきましょうか。こういう現場を見ると、見過ごすわけにはいかないのよね。私の性分としてはね」



 視線を逸らすことなく、軽い口調で私の疑問に答えてくれた女性。

 女性は武器を所持していないにもかかわらず、目の前の光景に恐れている様子を微塵も見せない。

 この女性の絶対的な自信がどこからやって来るのか、私は不思議でならなかった。


「もう一度警告する、この子どもの命が惜しければ、この場から立ち去りな」


 男は自分たちが優位に立っているという立場に変わらぬ様相で、助けが来たこの状況でも諦める様子はなく、牙をむいた。


綾芽(あやめ)、その子たちをお願い、ここは私が引き受けるわ」


 救世主と名乗った女性は軽く微笑み、自信を覗かせたまま、綾芽と呼んだ少女に指示をした。

 一度こちらに振り向いた女性からは香水のほのかな香りが漂い、私の気持ちまでも優しく安心させてくれているかのようだった。


「ラジャーです」


 怖じ気いてしまっている私に駆け寄ってきたのは、綾芽と女性に呼ばれている中学生くらいの少女だった。

 こんな修羅場と化した現場には似つかわしくない、人形のように可憐な黒髪の少女が私と樋坂君の間に入る。


「それじゃあ、この場は母様(ははさま)に任せて、引き揚げますよ?」


 落ち着いた様子でそういって助けに来た少女は、血に染まった樋坂君の身体を迷いなく背負い上げる。


「ええっ?!」


 私は驚いた。その小さな身体で樋坂君の身体をおんぶして歩き始めたのだ。


「ほら、お姉さんも早く、急いでください」

 

 苦しい様子も見せず、私の方を見て少女はそう言った。


 信じられないものを見ていると心に感じながら、私はなんとかこの場から引き揚げようと痛みを堪えながら立ち上がり、再度、誘拐犯と対峙する女性の方を見た。


「大丈夫よ、心配しないで。こういう荒事には慣れてるから。

 無事、お子さんは助けて見せるわ。外で待っていて、急いで治療しないと、その男の子危ないわよ」



「—————はい、よろしくお願いします」



 荒事を生業(なりわい)とする威圧的態度で人質を取る男たちの前に、女性は臆することなく一歩踏み出し、毅然(きぜん)とした態度で立ち向かおうとしている。


 威厳をその身一つで示す女性を前に、邪魔をするわけにはいかず、もう私には、そう答えるほかなかった。


「さぁ、行きなさい。この場は任せて」


 私を安心させるために女神のように優しく微笑む女性。

 この突然現れた“救世主”のことを信じて任せるしか、それしか選択肢はもう私に残されていなかった。


 私は女性の言葉に頷き、緊迫感のある状況に心臓をバクバクさせながら、樋坂君の身体をおんぶする少女を追って体育館を出る。


 一体、何が起こっているのか、この人たちは何者なのか、そんなことまるで想像が付かないまま、私は体育館の外に出て、ようやく陽の光を浴びることが出来た。


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