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秋桜のペアリング  作者: shiori
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第二章「愛に変わった日~救世主の再臨~」6

 体育館内に恐る恐る入っていき、薄暗い室内にゆっくりと慎重に足を踏み入れていく。

 幽霊騒ぎもある事から、私だってほとんど入ったことのない場所だ。


 ロクに換気もされていないのだろう、あまり嗅いだことない、異質な臭いが立ち込める体育館の中を歩いていく。感じたことのない異臭は本当にここで多くの人の遺体が置かれていたと信じさせてくるほどに、信憑性のある状況であった。


 ピリピリするような空気の重さで、身体から力が吸われるような、感じたことのない不思議な感覚だった。


 閉じられている体育倉庫を見つけ、そこに手を掛けて、覚悟を決めると、一気に開いて中の様子を確認した。



「真奈っっ!!!!!!!」



 樋坂君は焦った様子で怒りの表情を浮かべ叫んだ。


 開かれた扉の先に、黒いビニールテープで口をふさがれ、マットレスの上に座らされ、両手を後ろ手に縛られた真奈の姿がそこにはあった。


 両手を縛るのに使われている太いロープはバスケットボールを入れる鉄製のボックスに繋がれ、真奈の力で引っ張っても到底ビクともしないものだった。

 子ども対してすることとは思えない、残忍なまでの光景が広がり、まともな人間のすることとは思えない、あまりにも残酷な仕打ちが目の前で引き起こされていた。


「うううぅぅうううっ!!!!」


 兄の姿を目にして、助けを求めて真奈がその場で涙目になりながら暴れ、声を出そうともがいた。

 だが、何の抵抗もできない真奈は辛そうに身動きできない姿を兄である浩二の前で晒すことしかできなかった。


 樋坂君がすぐに真奈のことを助けだそうと近寄ろうとするが、そこに見知らぬ男が無言のまま襲い掛かった。



「―—―——うあぁああぁぁ!!!!!」



 俊敏な動作で正面からお腹にパンチをもらった樋坂君が苦し気にうめき声を上げながらその場に倒れた。

 顔を隠した覆面の男、全身を黒いローブで覆った黒づくめの男、この場にはあまりに不揃いな容姿をした男は、これだけのことをする誘拐犯だけあり最初から容赦がなかった。


「きゃぁぁぁ!!! 樋坂君っ!!」


 私は急いで苦しげな様子で倒れこんだ樋坂君に駆け寄る。

 荒い鼓動をしていて痛そうだ。


「“羽月”! 逃げろ! 早く!! 助けを呼び行ってくれ、こいつらは俺が抑える!!」


 凶悪犯を前にそう言って、顔を歪めながらも立ち上がろうとする樋坂君。

 だが、駆け寄ろうとしていた私の身にも危険がすぐそこまで既に迫っていた。


“バシン”と鈍い音がして、声も出せないまま私はその場に倒れこむ。

 逃げる間など、最初から与えられてはいなかった。


 急に訪れた衝撃で私は意識を一瞬で失いそうになるのを必死に堪える、痛みを感じている限り、意識は取り戻せるはずとなんとか正気を保とうとする。

 

 おそらく、バットのような物で背後からもう一人の誘拐犯に叩かれたのだろう。


 意識は朦朧とするが、なんとか痛みを我慢して、目を開いて状況を確認する。

 目の前にはそれでも立ち上がろうとする樋坂君、その間、ずっと奥で涙を流し、不安そうにこちらを見る真奈の姿が確認できた。


「貴様っっ!!!! ゆるさねぇぞ!!!!」


 次の瞬間には私の背後から襲い掛かった男と揉み合いになり、怒声を上げる樋坂君の姿があった。


「無理だよ!! 樋坂君やめて!!!!」


 倒れ込んだまま訴えかける私からの必死の叫びは届かず、樋坂君は怒りに任せ、無茶を承知で武装した男に立ち向かっていく。


「“()()()()()()()”」


 正面に立つ男が一言冷たい視線のまま、低い声でそう告げる。


 その手は怯える真奈の腕を掴んでいて、その言葉は樋坂君と揉み合いになっている仲間に向けて告げた言葉だった。


 その言葉を聞き、樋坂君と揉み合いになっているもう一人の男は、迷わず素早い動作で身体のどこかから取り出したコンバットナイフで樋坂君の身体を容赦なく突き刺す。


「あああぁあぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!!!!」


 その瞬間、樋坂君の悲鳴が木霊し、その場に倒れこむ。

 薄暗い体育倉庫に樋坂君の赤い血がポタポタと止めどなく流れていく。


「いややややややぁっやあやっややっぁぁ!!!!!!!! 樋坂君!!!!」


 体育倉庫の床に倒れ、苦しむ樋坂君の姿に思わず私は叫んだ。

 

 このままじゃ、何も抵抗できないまま、樋坂君を失ってしまう。


 だが、凶器を持った男たちに私が抵抗しても、余計に状況を悪化させるだけだ。


 どうしようのない無力感に襲われ、なんとか立ち上がろうとする気力も沸いてこない。


 私なんかでは、到底太刀打ちできる相手ではなかった。


 その時、わずかにガタガタと体育館が振動していくのが分かった。


 そこからの光景は、今までの常識を超えたものだった。



 どこからか入ってきた大人の女性が二人の誘拐犯の前に立ちふさがり、一体何が起こったのかもまるで分からないまま、一瞬のうちにそばにいた男がよろめき、ゆっくりとスローモーションでその場に倒れこんでいた。



 それを見て、反射的に奥にいたもう一人の男はナイフを取り出し、真奈の首にそのナイフを突き付けた。


「——————止まりな、何者だ? 抵抗するとこいつの命はないぜ」


 機械交じりのくぐもった声で、脅しをかけてくる男、助けに来た女性の動きもそれを見て止まった。


「―—―――――あなたは、一体……」


 女性の方に視線を移し、呆然としたまま私はそう呟いていた。


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