第二章「愛に変わった日~救世主の再臨~」5
「真奈のいる場所が本当に分かったのか?」
走る私に追いつくように付いてくる樋坂君は言った。
「うん、おそらく、情報が正しいなら、きっと妹さんはそこにいるはずよ!」
「そうか、分かった」
樋坂君は頷き、納得した様子で私に追いついてくる。
私達は新校舎から旧校舎の方に向けて走っていく。
「旧校舎の方に向かっているってことは、もしかして……」
「ええ、樋坂君の考えている通りよ、体育倉庫はこの学園にもう一つある、旧校舎の方にある体育館の体育倉庫がね」
「でも、どうしてあんなところに真奈を……」
犯人たちの行動には依然、不透明な部分が多く、足を止めることは出来ず、急ぎながらも疑問は尽きなかった。
「それは分からないけど、おそらくあそこなら、誰も好んで行きたがらないし、都合はよかったんでしょうよ」
「そういうことか、でも、なんで真奈が連れ出されなきゃならないんだ」
「それは、まだ分からないけど、とりあえず、妹さんの無事を確認しないとっ!」
「ああ、そうだな、急ごう」
私たちは真奈の無事を願って、旧校舎の体育館へと急ぐ。
旧校舎の体育館、すっかり古びて使われていない場所だった。
そこに人が寄り付かないのには事情がある。
かつて、そこは30年前に未曽有の災厄が起きたときの遺体安置場所として使われていたとずっと噂されていたからだ。
災厄が引き起こされ、誰も抜け出せない監獄となったとき、大勢の人が亡くなった際の、遺体安置場所として体育館は使われていたそうだ。
何百人という遺体が最終的にはそこに安置されていたとも言われていて、今では心霊スポットとして扱われ、誰もが近寄りがたい場所として一部では有名だ。
深夜にバスケットボールの跳ねる音がするだとか、ラップ音や女のうめき声が聞こえるなど心霊現象は多種多様だ。実際に幽霊を見かけたといった目撃談も私のクラスメイトからも聞こえるくらい、危険な心霊スポットとされている。
そういうこともあり、学園祭でも旧校舎側の体育館の使用は禁止となっていて、今なお、興味本位で入らないようテープが取り付けられ、不法侵入は固く禁止されている。
それだけ曰くつきの場所であるから、早く取り壊してほしいという意見は長くあるが、取り壊そうとした建築業者関係者に度々不幸が起こるなどしたため、取り壊し自体も白紙になり、今なお建物は残り続けている。
そんな、心霊スポットとも言われるような建物に行くのは本来全力で拒否したいところだが、この際、進入禁止の場所とはいえ、後処理のことまで考えていられない状況だった。
生徒会だからと言い訳が付くわけもない場所なのは承知だが、私が行かなくて樋坂君は一人でも行ってしまうだろう。
それならと、もう、私も覚悟はできていた。
「気にしないで、突入するわ」
「ああ、ありがとな」
沸々と怒りの感情を抑えられないのが樋坂の声色からは伺えた。
私は先行して進入禁止と書かれたテープをくぐって、木々に囲まれ、人通りもなく閑散とした旧体育館の敷地に入っていく。
大きい扉の前までやってきて、心の中で、鍵が閉まったままであったらいいのにと願っていたが、残念なことに鍵はすでに何者かによって強引に開錠されていて、誰かがすでに中に侵入していることは間違いない様子だった。
「待って! 樋坂君!!」
「なんだよ、行くんだろ?」
不満げな様子で振り返る樋坂君、そのまま入ろうとする樋坂君を私は静止した。
止めようとする私の言葉に樋坂君は居ても立ってもられない様子であるのが丸分かりであった。
「落ち着いて、誘拐犯がいるとしたら、妹さんは人質に取られているようなものよ。無策で入っていったら、妹さんに危害が及ぶかも。それに、相手が凶悪犯なら武装だってしているかも」
「そんなこといったって……、真奈は俺が助けに来るのを待ってるんだ!」
「だから、お願い、無茶なことはやめてね。この先はミスの許されない戦場よ」
「分かってるよ」
「妹さんと一緒に無事に脱出する。それが一番の目的だってこと、見失わないで」
私は興奮気味な様子であることを心配して、念押しするために樋坂君に伝えた。
こんなことで、樋坂君にもしものことがあったら、私は一生後悔するだろう。
そのために樋坂君にはこの先、何があっても無茶な行動は慎むよう、しっかり念を押しておく必要があった。
「ああ、約束する、みんなで無事を祝おう」
「うん、ありがとう。それじゃあ、行くわよ」
私たちは大きな音を立てながら古びた体育館の扉を開いて中に入った。
生徒会としての責任だけじゃない、私は樋坂君のためにも、この事態を早急に何とかしたかった。




