第二章「愛に変わった日~救世主の再臨~」4
懸命に探し続けること一時間余り、しかし、努力の甲斐なく真奈のことを見つけるのが叶わない状況に変わりはなかった。
捜索を続け、ようやく得た情報は、“体育倉庫に連れていく”という、男二人組の会話だった。
目撃情報によれば、その二人組は眠った真奈のことを背負い上げていたという。
私は樋坂君と合流して、急いで情報にあった体育倉庫に向かった。
「妹さんは、おそらく二人組の男に誘拐されてる、急がないと!!」
「ああ、なんとかしても真奈を助けてやらねぇと」
焦る私たちは走って体育倉庫へと向かう、犯人たちの目的も分からないまま。
しかし、このまま見つからないまま時間が過ぎればより深刻な事態を招いてしまう可能性もある。悠長に構えている場合ではない。私たちは足を動かし、現場へ急いだ。
運動場の方にある体育倉庫には誰もいなかったので、体育館に戻り、そこにある体育倉庫の扉を渾身の力で一気に開いた。
「真奈っっ!!!!!!」
真奈の無事を祈る気持ちを込めて、樋坂君は大きな声で叫んだ。
だが、体育館の照明が入り、徐々に視界が開けたが、そこに真奈の姿はなく、返事もなかった。
「———————彼女はここにはいないよ」
暗闇の中、無人と思われた体育倉庫の中に立っていた見慣れない謎の人物が一言答えた。
顔立ちから中国人に見える男。貴金属のアクセサリーを着け、カジュアルな格好をした金髪の若い男だった。おそらく高校生か大学生か、20歳近い年齢に見える外見をした男だと見た目から判断できた。
「誰だ?! 誘拐犯の仲間か?! 真奈をどこにやった?!」
樋坂君が捲し立てるように、何喰わず顔でそこにいる中国人に向けて言葉を言い放つ。
「君は勘違いをしているようだね」
「何が勘違いだ、何か知ってるんだろ?! 早く答えろ!」
感情が高ぶり、激情と化した樋坂君の声が辺りに響き渡る。
それでも平静な様子の男は、淡々と口を開いた。
「犯人たちはここには来てないよ、どうやら外れだったみたいだね」
「あなたも、同じ情報を知ってここに来たの?」
「そういうことだ、残念だったね」
私の質問にも無関係といわんばかりの口調で男は答えた。
「せっかく一年に一度の機会だというのに、手掛かりを見失うとは、まぁそれはいいか、彼らが重要なことを掴んでいるとは思えないしね。
そうだ、君たちに聞いておきたいことがある。この学園に“秘密の地下書庫”があるという話を聞いたことはないかい?」
地下書庫? 都市伝説か何かかと私は思った。
本当にあるとすれば貴重なデータベースであるのは間違いないだろうけど、初耳だった。
「突然、なんだよ。今はそれどころじゃねぇし、俺はそんなもん知らないよ」
目の前の男が見るからに怪しいことに間違いはないので、樋坂君も容赦なかった。
「そうか、貴重な文献が残されているなら、調査しておきたかったのだが、そちらのお嬢さんはどうだい? 君は生徒会の人間だろう? 何か知っているんじゃないか?」
確かに現代において、紙媒体で保管された文献は貴重なものも多い、だが、見返りも素性も何にも説明も提示もしない一方的な情報要求、早く真奈を救わなければならないこの状況で、彼の悠長に構えた質問は、それだけであまりに配慮の足りないものだった。
「そんなものは知りません。たとえ、知っていたとしても、あなたのような不審な人間に応える人なんていないと思いますけど?」
私は遠慮なく男に対してはっきりと思ったことを言ってのけた。
それくらいで落ち込むような相手ではないことはすでに分かり切っていた。
「そうか、君たちも冷たいね……、この街の繁華街に移り住んできた者は皆、希望を胸にこの国を訪れたが、こちらの要求には答えてくれない、話もまともに聞いてくれない、同じ人間だというのにね」
学園都市から離れた市の繁華街は復興以来栄えているが、悪い噂も度々聞かされる。
両手をポケットに突っ込み、彼はどこか自嘲気味に他人事のような話し口調で自分達の話しをして、この状況を飲み込めていないようだった。
「あなたね、今はそんな御託に付き合っている場合じゃないの! 樋坂君の妹さんの一大事なのよ」
私は樋坂君のためにも、彼を非難した。彼が何者かは分からないけど、こうしている間にも、真奈の身に何か起こっているかもしれないと思うと、居ても立っても居られないのが普通だ。
「そうだね、急いでいるなら、ここを立ち去るといい。
こっちも、情報を得られないのであれば、今日のところは引き上げるよ。面白い劇もついでに見せてもらったし、十分楽しめたよ。
じゃあ、最後に一つだけ伝えておこう。こちら側の予想だけどね。
体育倉庫と言われて、ここじゃなかったということは、もう一つ探す場所があるんじゃないかい?
そちらの方はまだ未確認だから、危険のほどは判断しかねるけど後は君たちに任せるよ。アリスの子らが暴走を引き起こしてまた新たな災厄を招くのは、こっちも見たくないからね」
男の言葉を聞いて、私は一つ、心当たりを閃いた。
「樋坂君、妹さんの居場所が分かったかも、急ぎましょっ!!!」
これ以上この男の相手をしている場合ではない、そう自分に言い聞かせて樋坂君の腕を私は掴む。
「あ、あぁ、分かった」
私が腕を掴んで、恨み辛みな表情のままの樋坂君は引っ張られるままに、もう一度だけ男の方を睨んでから、こちらを振り返って、私と一緒に体育倉庫から離れた。




