幕間 真意と真理
溢れ出た光の塊はやがて人の形へと移り変わり、そして部屋の景色すら塗り替える。映し出されたのは大翔によく似た青年と、彼の足元に広がる広大な草原だった。
「今は遠き友よ。いずれ来る時のために俺の思いを魂に刻み付け、子々孫々に託そうと思う」
映像の人が笑いかける。映像を食い入るように見ている迦楼羅の目から、大翔は目の前に映るのが誰かを容易に理解できた。
(この人が俺の祖先…… 四季宮 穐宗なのか)
その場にいた誰もが大翔と映像の影を見比べる中、迦楼羅と大翔だけは目の前をまっすぐ見つめていた。
「なるほどな。迦楼羅が存外俺に気を使ってた理由が分かったよ」
「うるさい」
「優しいんだな」
「いったん口を塞げ小僧」
二人の、いや一同の心の内を掬うこともなく大翔の先祖は話を続ける。
「どうだろうか。俺が死んで命の重みは刻まれたかい? 」
「あぁ…… 痛いほどな」
「……まぁ、刻み込まれたと信じよう」
穐宗が一同から目線を空へと向ける。
(そうか、ご先祖様は信じているのか)
その横顔からにじみ出る寂しさを誰もが感じているが、終ぞ答えは誰も口に出せなかった。
「迦楼羅、この四季宮 穐宗が最後のお願いをしたい」
「…… 」
「自分の心を、信じてくれ」
「……相分かった」
迦楼羅の独り言のような返事をまるで予知していたのか、それとも子孫たちの魂から彼の足跡を見守っていたのか。満足そうな笑顔を残し、穐宗は消えた。
「……」
改めて大翔に向き合った迦楼羅の目はまるで秋空の様に澄み渡っていた。そして大翔はその目が意味するところも即座に理解できた。
「秋月 大翔」
「……それ、今更口に出して言うことか? 」
「うるさい、黙って聞かんか」
まるで秘め事を暴露する少年の様に恥じらう迦楼羅を見て一同の緊張と口元が緩んだ。
「……大翔よ、手を出せ」
「あぁ、改めて」
迦楼羅が差し出した手を握る大翔。その場にいた者たちは一人残らず『それ』が意味するところを余さず理解するとともに、その瞬間を見逃がすまいと身を乗り出した。




