成長 詠子の言葉
「……気付いてしまえばなんてことはなかったな」
物憂げとも寂しげとも取れる大翔の表情が、まるで稲妻の様な衝撃を玉藻の脳裏に焼き付けた。
『ごめんなさい玉藻。あなたには辛い思いをさせてばっかりですが…… でも、あなただからお願いしたいのです…… 孫を、頼みます』
玉藻が見た詠子の最後の笑顔。何もかもが同じだった。その目に吸い込まれていくかのように、玉藻の口がひとりでに開いた。
「っ!! 詠子様!? 」
「……え? 」
「あ、いえ…… 申し訳ありません」
剣を手に布団から起き上がっている大翔の背姿と目に惹かれ、思わず玉藻から声が漏れた。
「そんなにばぁさんに似てるかな? 俺」
「えぇ、もうそっくりです」
思わず笑みがこぼれる玉藻、大翔は静かに「そうか、良かった」と答え、静かに立ち上がった。
「ど、どちらへ? 」
「迦穂を助けに行く。勿論、ヤケを起こして突っ込むわけじゃないよ」
「な、ならっ!…… 」
「いいや、俺が行く」
声の方を振り返ると、そこには迷いのない笑みを浮かべる和希が立っていた。
「玉藻さんはここでみんなを守るんだろ? 」
彼女はとっくに支度を済ませていた。いつもの服ではない、最初に遭った時同様の巫女服に着替えていた。
「その刀…… 」
「あ、これか? あの…… 揺からもらったんだ」
「そう…… ですか」
一回り大きくなった和希の得物を見つめる玉藻。そして揺の名前を聞いて納得がいったようだった。
「安心してください、必ず守ります」
「……お任せします、和希」
・・・・・・・・・・
「……本当に生き延びたようだ、本質が変わってしまっている。どうする、祇蟷螂」
「人質には使えるでしょうね…… ですが、もう妖力は回収できませんね。なにせ妖力のよの字も感じません」
かの洞窟では、疾風薙と祇蟷螂が迦穂の扱いを決めていた。しかし、迦穂の目にはなぜか近寄りがたい何かが取り憑いているようで、二人は薄気味悪かった。
「……やっぱり、貴方たちは悲しい人ね」
「うるさい小娘!いい加減にしないと…… 」
「まぁ待て疾風薙、あまり感情的になると死期を早めるよ? 」
祇蟷螂がニヤリと笑う。だがその目は笑っているというより怒りに近い。
「さてお嬢さん、貴方にはもう少しここで大人しくしていてもらいますよ? 構いませんね? 」
「えぇ、もちろん」
「……まるで人が変わりましたね、あなた」
口元からも笑みが消える祇蟷螂。松明の火が彼の発する声に合わせて不気味に揺れて迦穂の顔を照らし出すが、なぜか彼女は静かに笑っていた。
「確かにそうかもしれません。今までの人生に比べたら、色々ありすぎましたから」
「ほほう。で、我々に臆する必要もなくなったと」
「いいえ、違います。あなたたちが…… 悲しい人に見えちゃって」
ピクリと眉が動く二人。迦穂のまっすぐな視線は変わらず二人を捉えている。四肢に枷をはめられ
「確かに、世界の見え方が変わったように思います」
「……そうですか」
「祇蟷螂さん、どうしてあなたはそんなに悲しそうなんですか? 」
「さぁ? どうなんでしょうか。まぁ私はどのみち…… いや、これ以上はやめておきましょう」
とうとう祇蟷螂は迦穂から視線を外した。しかしその背中から察するに、正確には目を逸らしたというべきなのだろうか。
「さて、疾風薙さん。お仕事ですよ」
「……あぁ」
分からないが故の恐怖か、はたまた怒りか。二人は弾かれたように洞窟を出て行った。




