最後の一文字 過去からの手紙
「あの小娘…… 最後の最後まで…… 」
唇を噛む迦楼羅。ふと祠に視線を戻すと、中央の観音扉が開いていることに気が付いた。
「なんだこれは…… 手紙? 」
手紙は丁寧に封がなされていた。表には特殊な式札が貼られており、裏には見慣れた筆跡で『迦楼羅へ』と書かれている。
「…… 」
黙って封を解く迦楼羅。刹那、手紙がひとりでに開き、宙を舞った。
『この手紙が開かれたということは、あれから80年以上は経ったという事になりますね』
『おそらく孫の名前は…… 大翔、でしょうか。もしそうなら私の曾祖父と同じ名前になりますね』
「なッ!? 」
(……そうか、お前は穐宗と同じだったのか。さぞや辛かったろうに)
あまりの慧眼っぷりに迦楼羅は度肝を抜かれた。と同時に、迦楼羅は彼女に勝てなかった理由を即座に理解した。
『さて、本題ですが…… まだ、許せませんか? 』
「当たり前だ! あいつらも、自分自身も…… 」
思わず声が出る。なぜここまで感情的になるのか、迦楼羅自身すら分からなくなっていた。
『……80年間ついぞ貴方が変われないままなら、今途方もなく悩んでいる事でしょう。でもその純なところが貴方の本質なのですよ、迦楼羅』
「…… 」
何も言えなかった。自分にどうしろというのか、自分は何をすればいいのか、詠子は何が言いたいのか、解決できない得も言われぬ感情が迦楼羅の腹の中に渦巻いていた。
『私の孫がお前に足りぬものを、正確には知らずに捨ててしまったものを教えてくれるだろう』
「…… 」
『さぁ、もうあなたの中に名前は帰りました。万象の王よ、そなたは自由です。生のままに』
恐らくここまでなのだろうか。手紙は突然力を失ったようにパサリと床に落ちた。
「……生のままに、か」
「何をすればいい? 何を感じればいい? 俺には何が足りない? 轟迦楼羅は何が欲しい? 」
手紙を握り締める迦楼羅。しばしの無言の後、迦楼羅は黙って祠を背にして歩き始めた。




