悪夢の中で 最も気高い蒼
漆黒の闇だった『それ』は、大翔と玉藻が立っている場所を中心にうっすらと光が差し始めた。
「大翔様…… 」
「悪い玉藻、力を貸してくれないか? 」
「えっと…… これでよろしいでしょうか? 」
差し出された手を取る玉藻。刹那、体中を電撃に似た何かが流れた。
「うっ!? これは…… 」
「やっぱ初めてだからばぁちゃんみたいにはいかないか」
恥ずかしそうに微笑む大翔。次の瞬間二人の手の間から青白い炎が溢れ、暗闇を燃やしていく。その炎は瞬く間に暗闇を晴らし、やがて大きな鳥へと姿を変えた。
「この熱量…… 詠子様より…… 」
「そんなことはないよ。ちょっと元気が有り余ってるだけさ」
火の鳥はまっすぐ飛び上がり、二人のいる夢の世界の天井に穴を穿った。天蓋はあっという間にヒビが走り、ゆっくりと崩れ落ちていく。
「そろそろ時間だ。行こう」
「……はい」
・・・・・・・・・・
「ん…… 」
夢から戻ってくる際にどのようにして帰ってきたかの記憶はなかった。とりあえず周りを見渡すと、手を握ったまま玉藻が目に涙を浮かべていた。
「大翔様…… お帰りなさいませ」
「ただいま」
既に傷はなかったが、跡はくっきりと残っていた。
「うーん、やっぱり呪詛は残るよなぁ」
恐らく目覚める時に一気に傷が塞がったのだろうか、傷跡を触ってみるとほんのりと暖かい。
「そうだ、一個気付いたことがあるんだ」
「何をです? 」
「迦穂は生きてる」
「それは…… 」
玉藻はその一言だけですべてを察した。大翔は『目覚めた』のだ。
「さてと…… 」
揺からもらい受けた刀を手に取る。大翔はしばらくそれを眺めていたが、刀を鞘に納め、玉藻の目の前に突き出した。
「ばぁさんは一から作ってたけど、そんなことしてる時間ないしこれで勘弁してくれ」
玉藻がおずおずと手を伸ばす。鞘に触れた瞬間に指先から青い炎が溢れ出し、それらが黒塗りの鞘に刻まれていく。そして玉藻は体の内にかつて感じたことのある暖かさを覚えた。
「『弐識の剣』…… あなたも…… 」
「ありがとう玉藻。おかげで助かったよ」
刀を抜く大翔。その刃は最初の薄紫色の煌めきを残したまま淡い蒼光を纏っていた。
「大翔……お前、いつの間に」
声のする方を同時に振り返る二人。そこには和希が呆然と突っ立っていた。
「心配かけてすまなかった。なんとか戻ってこれたよ」
「お帰り。それはよかった」




