表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風花奇譚   作者: orion1196
31/40

悪夢の中で 詠子の章 伍

「行くのか? 」


「えぇ」


 静かな、しかし圧倒的な『何か』を秘めた大森林。入り口の寂れた鳥居の前で、揺と詠子は足を止めた。


「危ないぞ」


「えぇ」


「……そうか」


「申し訳ありません。でもこれは一人でやり切りたいのです」


 詠子の目をしばらく見つめ、揺は踵を返した。


「終わったら迎えに来る」


「はい、お願いします」


 揺の背中をしっかりと見送った後、詠子は静かに山へと足を踏み入れた。




 ・・・・・・・・・・・・

「なるほど、これは…… 」


 麓から見た時は分からなかったものがそこにはあった。頂上の祠の周りの木々はまるで大嵐に遭ったかのように折られ、無残な様相を呈していた。


「この聖域に踏み入れるとは…… 恐れ知らずじゃな、貴様」


 詠子の目の前から声がする。が、そこには何もいないようにみ見えた。


「いいえ、恐れはあります。その上で貴方になさねばならないことがあるんです」


「ほほう、なれば…… 」


 どこからともなく風が吹き荒れ始めた。詠子は静かに抜刀し、次の刹那目に見えない『何か』を受け止めた。


「見えとるのか? えらくいい反応じゃな」


「勘…… ですっ!! 」


 受け止めた一撃をはじき返す詠子。やがて不気味な笑い声と共に大妖が姿を現した、がその姿は今とは全く違う神々しいものであった。


「その剣…… 『四季宮(しきのみや)』か。なるほど、お主で最後か」


「えぇ、ゆえに太祖の…… 我ら四季宮の始まりである穐宗(あきむね)様のお言葉をそなたに伝えに参りました」


「そんなもの…… 今更要らぬわ」


 哀しそうなを見せる大妖。その右手にはいつの間にか両刃の短剣が握られていた。


「くっ!? 」


「残念ながら、女の剣ではこれを受けきれまいよ」


「ああァァァァッ!? 」


 あり得ない力で剣ごと押し込まれ、大妖の凶刃が詠子の鎖骨に食い込む。どす黒く歪んだ笑みを浮かべた大妖は直後、言葉を失った。


「……抜けぬ? 」


「折角の好機、逃がしませんとも」


「これは…… ッ!? 」


 刹那、詠子の剣が光り始める。慌てて飛びのこうとする大妖を、辺り一帯の森ごとまばゆい光が包んだ。


「こんな…… こんな不条理を受け入れて…… 穐宗、お前はッ!! 」


「大人になりなさい、迦楼羅」


 光の束が詠子の剣に集まり巨大な矢の形を取る。そして大妖を、迦楼羅の胸を千条の光が貫いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ