悪夢の中で 詠子の章 参
「玉藻さん…… 」
「一妖として何もなしえなかった私に最後の希望をくれたのがあなたのお祖母様だったのです。」
欠片が放つ光が引いていく。そして次の欠片を拾い上げる前に自身の過去を語るその顔に自嘲にも似た悲しい笑みがあったのを大翔は見逃さなかった。
「詠子様は私を救ったあとにも旅を続けていらっしゃいました。ここから先は私が時系列順にご案内します」
「……分かるのか? 」
「はい。この剣は私と詠子様で作ったものですから」
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秋風にススキが揺れる一面の平野。聞こえはいいが、既にその光景の一部は無残なクレーターによってえぐられていた。
「…… 」
「もう、喋れないほどに堕ちてしまってましたか。悲しいですね」
全力で詠子に斬りかかる揺。その目はどこか虚ろで、しかも血のような赤に染まっていた。
「くっ!? 重い…… 」
「ソコヲ…… ドケッ!! 」
揺の連撃を紙一重で捌き、避け続ける詠子。防御に追われて額に汗を浮かべる彼女とは対照的に、揺は身の丈ほどもある長刀を片手で軽々と振り回している。
「ヌンッ!! 」
「ウぐ!? ……でも、やっと捉えました」
反転攻勢に出ようとした詠子の肩に揺の一撃が突き刺さる、がそれと同時に詠子は揺の腕をがっちりと握った。
「ヒトガ…… 振リ解ケナイ!? 」
「修羅には救いが…… 必要ですから」
左手で隠し持っていた短刀を突き刺す詠子。揺の脇腹に刃が突き刺さったその瞬間、仕込まれていた式印が空色に光り出し、その線が揺の体に走っていく。
「ハ……ナセァ!! 」
「一緒に来てもらいます!! 」
「アガァ!? 」
金属が引きちぎられるようなとてつもない轟音が鳴り響く。そして、揺の目に光が戻った。しばし戸惑ったように固まったが、目の前の少女の傷だらけの姿と自分の手に握られた得物をちらりと見やり、刀を放り投げた。
「終わったのか…… 」
「えぇ、なんとか。数度は死を覚悟させていただきました」
詠子の満面の笑みを見た揺は、しばしの沈黙の後空を見上げた。
「……月も、俺を笑うか。情けない男よ、全く」
揺の頬に光った一筋の輝きを、詠子はただ見つめるしかなかった。




