悪夢の中で 詠子の章 壱
大翔が数ある欠片に手を伸ばす。刹那、触れた欠片から光が溢れた。
「これは? 」
「弐識の剣が記憶している、所持者の過去です。想いと記憶が結晶となった霊具であるこの剣の特性です」
二人は、剣が見せる記憶に包まれていった。
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「この辺りも、結界が緩み始めていますね…… 」
詠子は森を歩いていた。修験道服に笠を被り、錫杖を携えて歩くその姿は得も言われぬ美しさを秘めていた。
「四季宮も私で終わり…… この命が終わる前に残すべきものを残さねば…… 」
しめ縄の緩んでいる要石を清めて再び歩き始めようとする詠子だったが、ふと傍の茂みから鳴る物音に気が付き、そっと低木をかき分けた。
「……え? 」
「それはこっちのセリフです。自刃しようとしてましたね、貴方」
「いや、これは…… 」
「いいから、その匕首をこっちに渡しなさい」
半ば強引に短刀を奪い取る詠子。そして映像が途切れ、欠片が放つ光が消えていく。
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「……玉藻さんが、自殺? 」
「えぇ、あの時は無力に打ちひしがれていたのです。衰えゆく妖の世界に対して自暴自棄になっていたのですよ。さ、次はこの欠片です」
「……あぁ」
次の欠片を手渡す玉藻。大翔はためらいなくそれを受け取った。
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「……そうでしたか。この辺りの妖も」
「えぇ。私もなんとかしようとしているのですが…… やはり、誰も耳を貸してくれなかった」
焚火を挟んで向かい合う詠子と玉藻。俯く玉藻の頬は既に涙にぬれていた。対照的に詠子は無言で玉藻の話を聞きながら薪をくべていた。
「人がここまで進歩した今、妖はもう消えるしかない! これは事実なんです…… もう、私に出来る事なんて何も残ってない…… 」
「…… 」
「たとえ私が神であっても崩せない事実…… 私は…… 私は!! 」
「まだ、変えられます」
「そんな事はない!! 」
立ち上がり激高する玉藻。しかし自身を見据える詠子の目に宿る何かに気圧され、再び切り株に腰を下ろした。
「人と妖が心を通わせる…… かつては出来ていたではありませんか」
「そんな奇跡を起こせる人はもういない…… いないんです! 」
「どうでしょうか…… 私は、そう思わない」
次の瞬間、玉藻の背後に大きな影が現れた。その姿に玉藻は恐怖を感じた。
「ウゥ…… グルルルル…… 」
「熊…… 矢が…… 」
「あぁ、人里におりてしまったか。おいで、傷を塞いであげる」
首を垂れ、頭を詠子の膝に預ける熊。詠子は矢を優しく引き抜きながら、首筋に手をかざす。
「癒しの術…… あなた、名前は? 」
「四季宮 詠子。最後の四季宮です」




