悪夢の中で 心を拾って
「ここが…… 地獄ってやつか。なかなか寂しいもんだな」
地面があるかすら怪しい無限の暗闇で、大翔はもうかなりの時間を一人で黄昏れていた。
(あぁ、死ぬんだな……)
真っ暗だった。本当に光が存在しない空間に、大翔は一人うずくまっていた。
「まぁ、もう仕方ないさ」
じりじりと押し寄せ、肩に重くのしかかる闇は、大翔のありとあらゆる気力を抜き去っていった。
(まだやりたいこともあるけど、もういる意味がないんだ……)
「もう、何も!!…… 」
「まだ諦めないでください大翔様!! 」
うずくまる大翔の手を取る何者かの温もり。まだ輪郭すらないほどのぼやけたものではあったが、その正体ははっきりと理解できた。
「玉藻…… さん? 」
「えぇ! ……あなたのお祖母様との約束を果たすべく、参りました」
「だったらいいよ。ここは地獄の入り口ってやつだろ? 」
「そうじゃないんです! まだ…… まだあなたは死んでいない!! 」
必死に大翔の手を握る玉藻。しかし大翔はその手を無言で振りほどこうとした。
「待ってください! 私の話を…… 」
「待つも何もないよ、もう」
ここでようやく大翔と目が合った玉藻であったが、その目のあまりの生気のなさに一瞬恐怖した。
「迦穂は死んだ。俺はもう、ここにいる価値すらないんだ」
「そんな卑下は許しませんよ!! あなたは…… 」
「もう……もう何もないじゃないか! これだって全部俺が招いたんだ……もう、放っといてくれよ…… 」
大翔の背後に広がる闇が徐々に彼の輪郭をむさぼっていく。その姿があらわになった玉藻の肌も、闇に焼かれて薄く煙を上げていた。
「ほら、あなたはこっちに来れないんだよ玉藻さん」
「ぐっ…… それでも、今度だけはこの手を離すわけにはいかないのです」
大翔を抱きしめる玉藻。いたるところから煙が吹き上がるが、次第に闇の先端が大翔から離れていくのが伝わってきた。
「あなたに、この剣を」
「これは…… 」
「『弐識の剣』と呼ばれています。人と妖の心をつなぐ者のみが作り出せる、神器にも等しい武具です」
玉藻から刀を受け取る大翔。その瞬間、今まで闇だった周りの景色が急転換し、割れた鏡の様にそれぞれの欠片がばらばらに景色を映している。
「私が伝えるべきものを…… あなたのお祖母様が私に託したものを今、お伝えします」




