悪夢の中で 覚悟を決めろ
「もう二日経つのか…… 」
日を改めて、大妖は玉藻の部屋に面会に来ていた。まだ大翔は目を覚ましはしなかった。
「私の治療が悪かったのでしょうか? 」
「いや、妖と人が互いにつけた傷は呪詛になる。小僧が生きようと思わなければ無理じゃわな」
比喩抜きに『生死を彷徨う』大翔の寝相は正しく泥のようであった。
「詠子様からの頼みすら果たせない…… 守り手というのはなんとも情けないものですね」
「阿呆か、貴様」
俯く玉藻の背に、大妖が容赦ない一言を浴びせかける。驚いて振り向く玉藻の目に映ったのは、怒りとも悲しみとも取れない面持ちで大翔を睨む大妖の姿だった。
「大妖様…… 姿が…… 」
「ん? おぉ、戻り始めたか。まぁそんなことはどうだって良い」
大妖は思い出したかのように腰に下げていた刀を玉藻に差し出した。
「これは…… 詠子様の…… 」
「三文字目の手がかり、とやらにこれが置いてあった。お前なら分かるな? 」
「えぇ、この『弐識の剣』はとても覚えています」
「それをやる。後は好きにせい」
そう言ったきり部屋を出ていく大妖。玉藻は彼の姿を目で追うしかなかった。手渡された剣を最初はただ茫然と見ているだけの玉藻だったが、そのうち恐る恐る柄に手をかけた。
「っ!? これは…… 」
抜刀しようとした手が止まる。しばらく柄に手をかけたまま動けなかった玉藻だったが、次第に肩を震わせ始めた。
「詠子様…… 申し訳ない…… 」
鞘から刃をすらりと抜き放つ。天井に掲げた薄紫色の刃に、うっすらと赤い流星が走ったような気がした。
「私の覚悟が足りませんでした。ここまであなたが戦ってきたとは…… 」
しっかりと柄を握り締め、自分の胸に突き立てる。その手はまだ恐怖と不安が入り混じっているが、不思議と震えはなかった。
「あなたの想い…… 今こそ受け取ります」
そして、手にした剣を胸に突き刺した。
「あなたを追いかけてこれで三度目…… もう、二度と見失いませぬ」
刹那、まばゆい光の渦が部屋を覆った。しばらくして渦が止んその時、玉藻の心の中に今はまででは有り得ないほどの力が湧き上がっていた。
「人と妖とを繋ぐ力、扱えきれるかは分かりませんが…… 」
大きく息を吸う玉藻。その目には炎に似た何かが揺らめき、手は淡い光を発していた。
「やってみましょう」




