揺と和希 運命の出会い
玉藻たちが大翔の治療をしている間も、結局和希はその現場に立ち会うことすら出来なかった。
(私は、結局何一つ守れなかった……)
大広間の飾り花を整える事すらままならず、和希は虚空を見つめたまま動けずにいた。
「はぁ…… 」
口を開けばため息しか出ない。完全な無気力である。
「私は…… 」
「おーい玉藻、頼まれてた分の酒持ってきたぞ」
聞いたこともない声に和希が振り向くと、そこには煙草をくわえた長髪の青年が大量の酒瓶を抱えて立っていた。
「ア…… えっと、玉藻様は…… 」
「おん? お前見ねぇ顔だな。誰だ? 」
「えっと…… 最近ここに預かってもらってます、姫月 和希と申します」
「あぁ、お前が新入りの人間か」
男はいそいそと倉庫に連なる廊下に酒瓶を置き、黙って和希の手を取った。
「よぉ、俺は揺ってんだ。よろしく」
「え!? いや、何をして…… 」
「いいからついてこい」
・・・・・・・・・・
「さて…… あんた、思い詰めてるだろ? 和希とやら」
宿から歩いて30分ほどの丘の上、ポツンと建てられた東屋のベンチに腰を降ろした二人。そして揺がずいっと和希を見据えて話し始めた。
「いや、その…… 人に言えるような悩みじゃ…… 」
「いいから言えって」
腕を組んで遠くを見たまま、和希と目すら合わせずにタバコを吸い続ける揺。しばらくうつむいていた和希だったが、ぽつりぽつりと口を開き始めた。
「……もう、分からないんだ」
「何が? 」
「自分の……生きる意味って言えばいいのかな? なんていえば良いんだろうか」
右手で顔を押さえる和希。そして小刻みに震え出した。
「私は……どうすればいいんだ」
「…… 」
ちらりと和希の方を流し目で見る揺。気付けば分厚い雲が空を覆い、遠くから雷鳴がうっすらと響いてきていた。
「敵討ちのために❘祓魔師になったはずだった…… でもふたを開けてみればどうだ? 親と育ての師匠の仇には半殺しにされ、あげく目の前の少年一人守れない…… 私は…… もう生きてっ!? 」
「それ以上はやめときな。お前の心の中はおおよそ分かった」
物音ひとつ立てることなく、揺の指が和希の手を押さえていた。驚く和希を尻目に、揺はふわりと和希の隣に腰を下ろした。
「少しだけ、昔話をしようか」




