風神の祠 怒りは炎の如く
「その怒りを食らって…… 私はもう一つ強クナル!! 」
疾風薙の袖口が光る。次の瞬間、まさしく風のごとき速さで大翔に切りかかっていた。が、大翔は前回の時とは違ってその一撃を脇差で受け止めていた。
「お前が強くなるのは結構だ…… だが」
「なっ!? 」
今の疾風薙なら押し返せるはずの大翔が全くはじき返されない。そして大翔の手にある脇差の刃が赤黒い覇気を纏っていた。
「お前だけは…… ここで死ね」
逆に疾風薙が弾き飛ばされた。大翔が振るった刀の軌跡が、どす黒いつむじ風となって両者の間を吹き荒れた。
「お前らが…… お前ラガァァ!! 」
目の前が真っ赤に染まっているのだろうかと思うほどに突進していく大翔。本来は人が到底及ばない相手であるはずの妖に食らいつくどころか互角以上の戦いを進めている。
「貴様……本当に人間かっ!? 」
「喋るナァァ!!! 」
疾風薙に迫る大翔。その鬼気迫る態度はもはや人とは言えない領域に突入していた。
(人が…… 修羅に堕ちるというか……)
(おやおや、人間がここまで怒りに飲まれるとは……)
大妖も祇蟷螂も、ただならぬ大翔の力に気付いていた。そして剣戟に伴って放たれる烈風の群れを何食わぬ顔で受け流している。
「グッ!? ……なぜ、なぜ人間がここまで…… 」
「そんなことはお前が知らなくていいンだわ。いいから黙ッテ逝ケヤ疾風薙」
得物を弾き飛ばされ、完全に這いつくばる疾風薙。冷たく見下ろして刀を構える大翔は完全に目が赤く光っていた。
「待て小僧!それ以上は…… 」
「……申し訳ありません、これ以上は見てられませんのデ」
大妖が大翔を止めようとしたその時、ほぼ不意打ちの様に祇蟷螂の小太刀が大翔の胴を貫いていた。
「ゴフッ!? 」
「すまない、助かった」
大翔の口元を紅い筋が伝う。そしてそのまま膝から崩れ落ちた。
「あぁ…… 迦穂…… 」
刀を引き抜く祇蟷螂。地面に血だまりが広がった。
「さてさて。修羅になった人間の力は…… 」
「気安く触るな三下共が」
祇蟷螂が大翔に触れようとした瞬間、祠を覆う森が吹き飛ぶほどの烈風が吹き荒れた。大妖が「キレた」のだ。
「こ、これは…… 恐るべき力ですね 」
「喋るなカマキリ。潰されたいか」
「い、いえ」
「だったらそのケダモノを連れてとっとと帰れ。今すぐに」
大妖のあまりの圧に、祇蟷螂は無言で疾風薙を抱えてそそくさと視界から去っていった。
「はぁ…… くそっ、小僧意識を保て!! 」
みるみるうちに顔が白くなっていく大翔。大妖はすぐさま傷口に手を当て、一気に妖力を流し込んでそれを塞いで応急処置を済ませて彼を担ぎ上げた。
「無茶しよって…… あのバカにそっくりじゃ全く…… 」
祠の扉を念力でこじ開け、急いで中を確認する大妖。しかしその中にあったのは埃を被った古い刀が一本転がっているだけだった。
「この刀…… なっ!? そんな馬鹿な…… 」
手に取るなり、刀の秘めた『何か』に気付いた大妖だった。しかし瀕死の大翔を放って調べるわけにもいかず、一瞬の間をおいて両手にそれぞれを抱えて飛び出した。




