風神の祠 緊迫の旅路
「行ってしまいましたね…… 」
大翔と大妖が飛び去っていた方角を見つめる和希。中庭から空を仰ぐ彼女のその隣にはもちろん玉藻が立っていた。
「彼だけには、傷ついてほしくない…… なんとも傲慢ですね、玉藻様」
「いいえ、恩人の息災を祈るその感情は間違いではないですよ。和希」
縁側においてある湯呑を取る二人。その眼に並々ならぬ不安の色を抱えたままお互いを見つめるまま沈黙が流れた。
「私は…… 何もできない…… 祓魔師が、人ひとりも救えないなど…… 」
「和希…… 」
切り詰めるように泣き言を吐く和希の背にかける言葉を、玉藻は見つけることが出来なかった。
・・・・・・・・・・
「なぁ、天狗様」
「あん? 」
「そんなに遠いのか? 」
「言うてしまえばあの宿が里の真ん中、これから行く祠は西の端。俺が力を取り戻したとはいえ2時間は飛ぶ羽目になる」
再び大翔を背に空を飛ぶ大妖。風除けの術で守られているからか、大翔に一切の不快さはなかった。
「背中を掴みづらいのが唯一の欠点だな。このフライト」
「仕方なかろう。諦めてくれ」
羽ばたくごとに激しく動く背中にしがみつく大翔の姿は、確かに情けない。そういうこともあって大妖はわざわざ上空を飛んでいるのだった。
「そういやさ、天狗様は名前を取り戻したらどうしたいんだ? 」
「おん? まぁ昔のように気ままに暴れるかのぉ」
「……そうか」
会話が止まる。前に山登りしたときの饒舌さはどこへやら、二人は話題にすら困る始末であった。と言っても話題を提供してくれる何かは流石に雲の上にはない。
「もしさ、迦穂を生かしたいがために俺が天狗様に戦いを挑んだら乗ってくれるか? 」
「乗るさ。間違いなくな」
「……分かった」
・・・・・・・・・・
何もない洞窟に、何かを引きずるような音だけが細々と響いていた。
「やだ……まだ消えたくない…… 」
既に消えてしまいそうな手足を必死に動かそうとする迦穂。既に二人が残した焚き火も消えかかり、一切の光明が閉ざされようとしていた。
(まだ……まだ大翔くんにちゃんと話せてない…… )
既に意識もあやふやになり始めているのに、それでも彼女はまだ消えかかっていく自分の未来に抗い続けていた。
(私は、まだ…… )
種火から最後の火の粉が散る。そのうちの一つが迦穂の目の前にひらりと落ちてくる。
(まだっ!! )
もう何もつかめないはずの手で火の粉に触れる迦穂。その時、ただの火の粉だったはずの粒が暖かい光を放ち始めた。
「大翔君に、会いたい…… 」
そこで電源が切れたかのように力尽きる迦穂。しかし彼女の手の中の光の粒は輝きを増し、冷え切ったその体を優しく包み込んでいった。




