幕間 消え逝く者よ
「……埒が明きませんね、やはり」
拷問開始から既に2日経とうとしていた。なお尽きない迦穂の妖力を前に、祇蟷螂は既に呆れすら覚えつつあった。
「いつまでいたぶるつもりなんだ? もう飽きただろ」
疾風薙はもはや迦穂を見もしない。といっても当の迦穂はズタボロである。
「うっ!?…… 」
「うめき声しか出せなくなりましたか…… それもそうでしょうね、我々に妖力を吸われるというのはすなわち魂を削られるようなもの」
「なら早く終わらせてやれ祇蟷螂。見ていていい気がしない」
「そうですね」
一旦何かしらの術で手に彫った刻印を消すと、祇蟷螂は改めて手に印を彫り始めた。その印が細かさを増していくごとに迦穂の胸元が光を帯び始めた。
「……こ、これは…… 」
「おぉ、恐るべき反応ですね。普通はこんなこと起きませんよ」
光る迦穂をちらりと見てニヤリと口角を上げる祇蟷螂。次の瞬間、さっきまで少なくとも五歩分ほどの距離があった焚き火のそばから疾風薙が瞬間移動して迦穂の口をふさいだ。
「んグぅ!? 」
「騒ぐな。痛みが無いように一瞬で終わらせてやる」
「そろそろお遊びはおしまいです…… さようなら、お嬢さん」
印を刻んだ手をゆっくりと迦穂の胸に突き出す祇蟷螂。その手はスッと迦穂の体の中に入り込んでいく。
「アァァァ!!? 」
「あったあった。これが『核』ですね…… フンッ!」
勢いよく引き抜く祇蟷螂。その手には迦穂がさっきまで放っていたのと同じ薄緑色をした淡い光の塊が握られていた。
「やめ……かえ、して…… 」
「さて、目的は果たされました。行きますよ、疾風薙」
「…… 」
指先がうっすらと薄く透け始めていく迦穂を尻目に足音もなくスッと洞窟を去っていく二人。
「やだ……いか、ない、で…… 」
渾身の力で身をよじる迦穂。しかし、最後の叫びはむなしく透け始めた手は繋がれていた手錠すり抜け、迦穂の五体は力なく地面に叩きつけられた。
「あ、あぁ…… 」
なんとか動こうともがくが、既に消えかかった手足では地面をなでる事しか出来なかった。
(あぁ、消えるってこういうことだったんだ……)




