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風花奇譚   作者: orion1196
11/40

迷いの森 錯綜、三者三様

「ほれ、乗れ。帰りは飛んで帰る」


 少しばかり力を取り戻したらしく、腕から伸びる羽根の量が心なしか増えた気がした。大翔が背中にしがみつくと、大妖は一羽ばたきだけで空高く舞い上がった。


「す、すげぇ…… 」


「これでも恐らく二、三割じゃろうな。宿まではゆっくりと風に乗るから寝るなりなんなりしておけ」


 これも大妖の力なのだろう。雲の上を、つまりはかなり上空を飛んでいるはずなのに全く寒くない


「……あのさ天狗様」


「ん?どうした? 」


「さっきの…… (ゆらぎ)だっけ? なんで天狗様を見たら手を引いたんだろう」


「あぁ、それは妖の掟じゃな。『名前を失った者、またそいつに関係する者に手出しをしない』って原則がある」


 大妖が語る掟、大翔はそれを受けて「妖にとって名前は人間より重たいものなのか」と軽い気持ちで大妖に質問を投げかけたが、大妖は少し黙り込んでしまった。


「ごめん天狗様、俺なんかまずいこと聞いちまったか? 」


「いや、そうじゃないが…… まぁ、そうなるわな。小僧、よく聞けよ…… 」




 ・・・・・・・・・・

「はぁ、はぁ…… まだ、続けるんですか?…… 」


「うぅむ、まさかこんな量だとは。普通の妖でしたら2、3分で妖力を吸いつくされて木乃伊(ミイラ)なんですけどねこの印」


「……本当に妖力なのか? それは」


「えぇ、間違いなくそうですね」


 いぶかしげに祇蟷螂の手に彫られた印を覗き込む疾風薙。軽く首を振った祇蟷螂は力なく手を降ろし、逆の方の手で思い切り迦穂の顎を鷲掴みにした。


「ングぅ!? 」


「多少強引にはなりますが…… 仕方ありません、核を抜き取りましょう」


「ちょ、やめて!! 駄目!! 」


 反抗しようと身体をのけぞらせる迦穂。しかし次の瞬間、彼女の両手に鎌が突き刺さった。


「……動くな」


「ありがとう疾風薙。それじゃあ、始めますよっと」


 祇蟷螂の印に反応して光る胸。突如、祇蟷螂が光の源へ向かって迦穂の体へ手を突っ込んだ。


「アァァァァッ!!?! 」


 3人しかいない洞窟に迦穂の叫びがこだました。


 ・・・・・・・・・・

「何故だ…… 」


 玉藻を襲ったあの騒動から2日、和希は壊れた広間の修理から始まり宿の下働きを続けていた。


「分からない…… 」


 和希にとって妖は憎むべき相手でしかなかった。そしてそれは相手も同じだと本気で信じていた。だがその前提はこの数日で崩壊し始めていた。


「なぁ、雷獣」


「なんでしょう? 」


 自分の隣で一緒に床掃除をしていた妖に話しかける。相手は律儀にも手を止めて話を聞いてくれた。


「お前は、人間が憎かったりしないのか? 」


「うーーん、どうなんでしょう…… 僕はそもそもこの里を出たことがないからよくわかりません」


「そう、なのか…… 」


「そんな暗いこと考えてないで、ちゃちゃっと掃除終わらせて玉藻様に報告しに行きましょう」


「あ、あぁ…… 」


 またしても疑問をぶつけきれないまま、和希は目の前の作業に集中せざるを得なくなった。

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