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風花奇譚   作者: orion1196
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雪に咲く花よ

 昔から、見えてはいけないものが見えてしまった。

 人ならざるものたち。周りのみんなが『(あやかし)』と呼ぶそれが、彼だけは見えていた。


 ・・・・・・・・・・・・


「…… 」


「やめとけって。俺はそんなに旨くないぞ」


 取って食おうとするやつに話しかければ、大体向こうが去っていく。でも虚空に向かって話しかける彼を見て、人間も等しく彼から去っていく。


「……はぁ。厄介なもんだなホント」


 ため息を吐く詰め襟の彼、秋月 大翔(あきつき ひろと)は夕焼けに影が伸びる学校からの帰り道を一人行く。『妖』が見えるその目ゆえに気味悪がられることが多く、余程ではない限り基本一匹狼である。


「中学の頃はもう少し友達作れたんだけどなぁ…… 」


 高校生活もニ年目となった今、10年打ち込んだ剣道すらも熱が冷め、無気力極まれりといった具合なのだ。これに関しては誰が悪いというと難しくなる。周りが年末のお祭りムードに包まれていても彼の心は全く動かない。


「あー、大翔君また部活サボってる。駄目だよちゃんと顔出さなきゃ、もうすぐ大会でしょ? 」


「……まぁたお前かよ迦穂(かほ)。俺は大会メンバーじゃないしな、本気になれるかよ」


「私、新人戦で頑張ってた大翔君が好きだったんだけどなぁ」


 大翔の右腕に抱きつくセーラー服の彼女は如月 迦穂(きさらぎ かほ)、大翔の幼馴染である。周りに引かれがちの彼を唯一普通の存在として扱う彼女とはもう10年の仲になる。


「おいバカ、こんな一本道でベタつくなよ」


「いいじゃん、誰も見てないんだし。それにこの方があったかいじゃん♪」


「そ、そうじゃなくてさぁ…… 」


 そう、例え冬場の人目がない通りでも『何かしらは』彼らを見るものがいるのだ。迦穂は無垢な笑顔で抱きつくのだが、大翔からすれば冷やかすような『奴ら』の目線が気が気でない。


「せっかく二人きりなんだし、今日くらいは大翔の家に泊めてよ」


「無理だって。お前を泊める部屋がない」


「分かってくれないんだぁ…… えーん」


「嘘泣きするなって。それに……俺はそういうの興味ないんだ」


 二人の間を木枯らしが駆け抜ける。街頭のイチョウから最後の葉が散った。風に誘われて二人が空を見上げると、ぽつぽつと雪が降り始めていた。


「二日連続か。今年はホワイトクリスマスらしい」


「ロマンチックだね。私、そういうとこ好きだよ」


 しばしの沈黙が流れる。抱き付いて大翔を見つめる迦穂とは対照的に、大翔は虚空を無言で見つめていた。


「大翔君はまだ気にしてるの?その『見えちゃう』体質を」


「気にしない方がおかしいだろ。それに……っ! 」


 異常な気配に気づいてとっさに迦穂を庇う大翔。迦穂が大翔の右腕に目をやると、ざっくりと何かに斬られたような跡がある。うっすらと雪が被った道路に赤い跡がくっきりと写った。


「大翔君!? 」


「気にすんな、鎌鼬(かまいたち)だ」


 たまたま近くに転がっていた手頃な枝を構える大翔。迦穂は目を凝らすが相変わらず何も見えない。


「こんちきしょうがぁ!! 」


 片手で懸命に虚空を打つ大翔。その瞬間、迦穂の目にありえない光景が飛び込んできた。


「大翔君…… それが(あやかし)ってやつなの? 」


「……は? 」


 大翔の手が止まった。しかし迦穂は今そこにいる非現実的な何かを直視しているのだ。


「オ主、(あれ)ガ見エルノカ? 」


 狩衣、古文の中でしか見ないような雅な服を着た、両手に鎌を持ったイタチが迦穂を見ながら舌を出す。


「ナラオ主ヲ頂コウ!! 」


「迦穂ォ!!! 」


 標的を変え、即座に飛び出す鎌鼬。その速さに大翔は手も足も出ない。化け物の鎌が迦穂の首を捉えかけたその瞬間、大翔は思わず目をつぶった。


「ソノ命貰ッタァ! 」


「い、いやぁぁッ!! 」


 その刹那だった。突如としてありえない程の突風が鎌鼬を吹き飛ばし、化け物は路端に置かれたゴミ箱に激突した。


「……え? 」


「迦穂お前…… 何したんだ? 」



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