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04 信頼、歓迎 そして疑念

 ノックは二回。そして、こちらに呼び掛ける声。ハスキーな、それでいて快活な声が響く。


「レギリィくん! 迎えに来たよ。……あっはは! どうしたんだい? 間違えて薪を咥えた牛みたいな顔をしているよ?」


 街運営の共同宿舎。そのうちの端っこの部屋。そこがレギリィの家だ。目元に炭を塗ったような隈を抱え、悪い目付きをさらに悪くして部屋を出るレギリィ。絶賛寝不足である。


 ……昨日の戦いが頭から離れなかったのだ。レギリィは、少なくとも覚えているなかでは戦ったことなどない。それなのに身体が自然と動いた。それが……恐ろしかった。

 自分に関する記憶がない。今まで気にもしなかったことだが……ユーリィと出会う前の記憶が一切ないのだ。


「ほらほら、しっかりしておくれよレギリィくん! 今日はみんなとの初顔合わせなんだからね!」


 そんな思考も、バシバシと背中を叩かれる感覚と明るい声に遮られた。……そうだ。イーターに入れたのだから、ひとまず前進じゃないか。

 レギリィは頭をブンブンと振って、無理矢理に目を覚まそうとする。……ああ、こんなことなら、昨日は早く寝るべきだった。



 ついたのは喫茶店だった。初めて見るこじゃれた建物に視線を忙しなく動かすレギリィの手を、アルダは引いていく。

 一通り店内を見渡して……げ、と顔をしかめた。すぐにわかる。あの翼。昨日戦った相手だ。名前はたしか……ネフリティス、と言っただろうか



「そんな怒んなくてもいいジャーン、勝てたんでしょ? バンバンザイだよ」


 ネフリティスに話しかけているのは、ローズクオーツの瞳をした銀髪の少…いや、幼女。身長はどう見ても一メートルもない。


「不快なんだよ。あんな勝ち方! まるでこのボクが勝利を譲られたみたいじゃないか」


 声を荒くしているのはネフリティスだ。近寄らない方が良いだろう。


「慢心してたんだろう。自業自得だ」


 パフェを頬張りながら冷ややかな目をネフリティスに向ける黒髪に青目の少年。なにさ、と睨まれても、肝が据わっているのか動じない。


「あーっ! てかそれオイラのパフェ! 勝手に食ったな?! セットーだゼ?!」


 金髪の少年がテーブルを強く叩く。あまりに強く叩いたからか、隣のティーカップが地面に落ちて砕ける。


 ……レギリィは若干困惑していた。あまりにもイメージと違う。イーターといえば、命がけで魔物と対峙する自警団ではないのか? 目の前の彼らはまるで……ただのティーンエイジャーだ。


「下っ端だからね。私達は」


 レギリィの気持ちを察したのだろう。アルダがさらりと告げ、メンバーの方へ向かう。


「今日はよく集まってくれたね。いいかい? みんな、今日から私の可愛い可愛いチームメンバーに新たに一人加わることになった。レギリィくんだよ。仲良くしてやっておくれ」


 チームメンバーと呼ばれた彼らの視線が一気にレギリィに注がれる。

 ……レギリィは、緊張すると気が大きくなるタイプである。


「よろしくな。わた…俺はこの中の誰よりも強い。守ってやる」


 一人称を変えたのはアルダのアドバイスだった。だが、問題はそれ以外……


 済ました顔こそしているものの、レギリィの心臓はバクバクと鳴り響いていた。しくじった。しくじった! ナメられないようにと思うあまり、変なことを口走った!


 しばらくきょとんとしていたチームメンバー。だが、最初に口を開いたのは、背の低い幼女だった。


「なにそれっ! にゃはは、変なのー! よろしくね、チノはマチゲリーノ・ホープ! チノって呼んでね!」


 それが空気を解したようだった。他の二人も、自己紹介を始める


「オイラはフィンレー。フィンレー・ライリー! オマエ守ってくれるんだって? 頼りにしてるぜっ! オイラの分も働いてくれ!」


「……ルバート・マンチェスト。そう緊張するな」


 ……どうやら、ルバートには緊張していたのが見抜かれていたらしい。


「よしよし、私のことは知ってるだろうし、ネフリティスくんも名前は知ってるはずだからね。あとは……ラトゥリアちゃんだよ。おいで」


「ひゅっ! は、はひ!」


 アルダの呼び掛けに反応して、物陰からか細い声が聞こえる。……この声を、レギリィは知っていた。


「ら、らとぅ、ら、ららら……ラトゥリアです! ……い、言えた……」


 こちらの顔を見ないようにしているのか、それともただの癖なのか、勢いよく頭を下げる少女……ラトゥリア。この声は知っていた。丘で話したあの少女だ。


「……おまえはもう俺を見忘れたのか?」


 ついからかいたくなり、笑いかけるレギリィ。……なんだろう、ユーリィとは全然違うが、どこかユーリィのようで……

 へ? と間抜けな声をあげると、ラトゥリアはこちらを見上げる。くりくりとした灰色の瞳と目が合う


「あ! あのときの……!」


「へえ、ラトゥリアちゃんと知り合いだったんだね。縁だねぇ」


 驚きにか目を丸くするラトゥリアを見て、アルダが可愛くてしかたがないというように頭を撫でる。だが、この和やかな空気を壊すものがいた。


「そんなことよりさぁ? ボク、気になってたんだけど」


 あえてか大きな声を上げると、大儀そうに椅子から立ち上がり、こちらに近づいてくるネフリティス。


「不思議だよねぇ? キミのあの身体能力、明らかに人間のものじゃない……アビリティだ。でも、キミは今までイーターじゃなかったんだろ?」


 アビリティ。また出てきた言葉だ。ネフリティスはずい、と近づき、レギリィを見上げる。その翡翠の瞳には、明らかな疑念が写っていた。


「……キミ、何者?」


 空気が張る。さらに、レギリィは火に油を注いだ。


「じゃあおまえは、何と答えれば満足なのか?」


「へえ、じゃあキミ、答えられな__」


「はい、ストップストップ」


 売り言葉に買い言葉を防いだのはアルダだった。パチン、と手をたたく


「彼は記憶がないからねぇ。今はきっと何の答えも得られないさ。それにネフリティスくん。君に負ける、または君と同等程度なら、私が制御できるさ」


 そこにあったのは圧倒的余裕。自身の力への誇りと信頼。ネフリティスも、「そうだね」と反論しなかった。


「じゃあ、これで顔合わせはおしまいだね。ああそうだ、フィンレーくん、レギリィくんに色々教えておいてあげておくれ。それじゃ、解散!」


 彼らは解散も早かった。アルダの掛け声を合図に、それぞれがまたそれぞれの好きなことを始める。アルダもさっさと喫茶店を出ていってしまった。

 ……ただ二人、フィンレーとレギリィを残して。


「あー……レギリィ君」


 フィンレーはメガネをかけ直すような仕草をし、こちらをキリリと見る。……メガネはかけていないから、手の動きだけだ。


「今からオイラのことは、先生と呼びたまえ」


 レギリィの答えは早かった。


「ああ、おまえを呼ぶなということだな」

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