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EATER~ヒトクイ魔物はやがて人になる~  作者: 雛森灯世介
ジェット・ブラック編
12/24

12 戦いの終わり、そして手紙

 今回の討伐は、ドローマの街にも、イーターにも大きな被害を出した。


 だが、そんなことは些細なことなのだ。彼はほくそ笑む。


 “倒せた”。それが大事なのだ。何よりも大事な、たったひとつの事実。


 彼はタバコの吸い殻を谷に落とした。あの巨大な魔物……ドローマの王が落ちていった谷の底にだ。


 ……ドローマの王。なかなか皮肉めいた名前じゃないか。


 彼は谷に背を向ける。さあ、もうこいつには用はない。


 ……そういえば。


 そういえば、変なのがいたな、と思い当たる。


 あの猛攻のなか、ドローマの王に決定打を与えた者がいた。


 確か……第五チームの新入りだったか。勇敢というか、無謀というか……


 まあ、どうでもいいことではあるな。


 彼は止めていた馬へと足を進める。もうここに用はない。


「……レ……ギ……ナ……」


 地の底が唸るような声が、谷底から聞こえた気がした。それは幻聴か、はたまたまだ生きているのか。


 彼は嘲るように笑う。どちらにせよ、ドローマの王の玉座はもはや砕かれた。そしておそらく彼女ももう……


 彼はひらりと馬に跨がる。その口許には、上機嫌な笑みが消えなかった。




 



「もう……! 無茶、しすぎ……だよ……!」


 中央街ケントロンには、イーター専用の宿舎があった。その一室にて、ラトゥリアがベッドのレギリィに手をかざしていた。


 ラトゥリアのアビリティ。“治癒”。手をかざしたものを、人、物、限らず元の状態に戻すことができる。


 優しい暖かさと共に、ゆっくりと痛みが引いていく。


「おお……身体が動くようになった」


「まだダメ! お、起き上がらないで!」


 珍しくラトゥリアが大声をあげる。すっかり短くなったろうそくの火が揺れた。


 ぽーん、ぽーん、と八回、時計が鳴る。あれから、もう一日が経ったようだ。

 

「ねぇ……レギリィ……」


 ラトゥリアがぽつりと呟く。その声には、暗い響きが伴われていた。


「あたし……戦えなかった。た、戦いに、行くことさえ……」


 ラトゥリアはぎゅっと手を握る。握りしめる。回復役である彼女は、ずっと戦場の後ろにいた。それが、辛かったのだろう。


「みんな、み、みんなが……戦ってるのに……あ、あたしだけ、安全なところで……」


 ぽつりぽつりと溢していく。目を伏せ、次第に声が小さくか細くなっていく。


「ご、ごめん、ね、こんな話……困る、よね」


「生きてる」


 ラトゥリアの言葉に、ただ一言、けれど強く返す。レギリィはまっすぐにラトゥリアの目を見た。


「生きてる。ラティが俺を治癒したからだ」


「あ……」


「誇れ、ラティ。おまえが生かした命だ」


 それはレギリィの本心だった。心からの言葉だった。もし……もし、自分がラトゥリアのような力を持っていたなら……ユーリィを助けられたかもしれないのだから。

 

 ラトゥリアは小さく頷いた。その目には、かすかに光が宿っていた。


「ありがとう……レギリィ」


 軽く首を傾けてへにゃりと笑うラトゥリア。優しいその笑みは、ユーリィによく似ていた。



「あー、お邪魔だったかな?」


 弾かれたように扉を振り返るラトゥリア。特徴的なハスキーボイスの持ち主は、もはや見なくてもわかるだろう。


「あ、あ、あ、アルダ?!」


「いや、いいよいいよ、続けて」


「そ、そんなんじゃ……!」


 真っ赤になってしぼむラトゥリア。にやにやと下世話な笑みを浮かべるアルダ。レギリィは首をかしげる。


「続ける……? 何を?」


「わー!! わー! わー! わーわー! い、良いの良いの! レギリィは、そ、そのままで良いの!!」


「あー……そっかそっか。レギリィくんはそういうのまだわかんないかー」


 二人の態度に訝しげに首を傾けるも、大したことではないのだろうと聞くのをやめた。……なんだろう。アルダのにやけた視線が不快だ。


「そ、れ、よ、り、も。レギリィくん、君に手紙だよ」


 こほん、と小さく咳払いをして、いつもののんきな笑みに変わるアルダ。レギリィは手紙を受けとる。羊皮紙に赤い封蝋。ずいぶんと洒落ている。


「……誰から?」


「読んでごらん」


 とはいっても、どう開けるのかがわからない。しばらく逆さまにしたりもて余していると、隣からラトゥリアが手を伸ばした。


 封蝋を剥がし、手紙を取り出す。中に入っていた一枚の紙をラトゥリアから受け取り……そこで気づく。文字が読めない。


「ラティ、読んでくれ」


「え?! い、良いの?!」


 ドキドキしながら手紙を開くラトゥリア。だが……文字を見た瞬間、石のように固まってしまう。明らかに目が点になっているのがわかるだろう。

 そう、手紙の内容はあまりにも突飛だった。首を傾げるレギリィの向こうで、アルダが快活に笑う。


「あっはは、驚くだろう? 幹部の方から来たんだから、大方想像はつくよ。寂しいねぇ、せっかく可愛いチームメンバーが増えたと思ったのに、もう昇格なんて」


 だが、この予想は外れていた。


「ち、違うの……その、ね、内容……読むね」


 ラトゥリアは手紙を読み上げる。その内容に、二人もラトゥリアと同じ反応をした。部屋に微妙な空気が漂う。


「……はい?」


 アルダが顔をひきつらせる。レギリィはもはや言葉さえ出なかった。


 手紙には、こう書いてあった。




〈親愛なるMy princessへ。


 明日、貴方に花束を届けに伺います。

 体調のほどはいかがでしょうか。私に何もできないことを、とても悔しく思っております。


 この愛が貴方の傷を癒せるのなら、そのためならば私は心臓を切り裂いて貴方への愛を取りだし、貴方に手渡すでしょう。

 貴方を愛しております。明日、貴方に会えるのがとても楽しみです。

 

貴方のKnight、ジェット・ブラックより〉




「……宛先、間違ってないか?」


 悪寒が走る。その言葉を絞り出すので、レギリィはやっとだった。

今回から新章に入ります! よろしくお願いします!

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