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学校のマドンナと一緒にお昼ご飯を食べる権利

作者: 村崎羯諦

 たまたま空きが出ていたので、僕は五千円を払って学校のマドンナである伊藤さんと一緒にお昼ご飯を食べる権利を購入した。当日の昼休み、僕と伊藤さんは学校の中庭にあるベンチに並んで座り、それぞれが持ってきたお弁当を一緒に食べる。開けっぱなしにされていた校舎の窓からは、他の生徒たちのはしゃぐ声が聞こえてきた。


「どうして伊藤さんは誰かとお昼ご飯を食べる権利なんてものを売ってるの?」

()()()()?」

「いや、あんまり褒められたことじゃないじゃん。そういうのってさ。何か理由があるのかなと思って」

「理由なんてないよ。ただ、簡単にお金が稼げるからやってるだけ。欲しいものがあったら、それを買うのに使ってるし、特に欲しいものがなければ貯金に回してる。ひょっとして、私の家が貧乏だからだとか、将来留学をするためにお金を貯めてるとかって言って欲しかった?」


 僕が頷くと、伊藤さんは呆れた表情を浮かべ、ため息をつく。


「みんなが同情してくれるような理由なんてないし、偶然可愛く生まれてきたことを利用して小遣い稼ぎをしているだけ。理解してくれなんて言わないけどさ、世の中の全ての人間が、自分の理解できる範囲にいるなんて考えない方がいいよ」


 なるほどと僕は頷く。他に何か言いたいことはない? 伊藤さんに言われたので、僕は少しだけ考えてから彼女に伝えた。


「伊藤さん。ずっと好きでした。付き合ってください」

「ごめんね。気持ちは嬉しいけど、私、大学生の彼氏がいるの」


 それから月日は流れ、僕と伊藤さんは高校の同窓会でばったり再会する。彼女はさらに綺麗になっていて、左手の薬指には結婚指輪がはめられていた。どういう人と結婚したのかを尋ねてみると、同じ会社で働く同僚だと教えてくれる。お金持ちというわけでも、すごいイケメンというわけでもないけれど、すごく波長があったから。伊藤さんは結婚の決め手をそう語り、彼との結婚生活はとても幸せだと教えてくれた。


「お昼ご飯を一緒に食べる権利を売って小遣いを稼いでいた奴は、愛のない結婚をして、不幸になって欲しかった。一瞬でもそう思ったりした?」


 僕はどきりとする。そんな僕の心理を見抜いた伊藤さんが言葉を続ける。


「いいよ、私もその気持ちはわかるから。その人が不幸になったところで自分が幸せになれるわけでもないのに、心の底から人の不幸を喜べるなんてさ、人間ってどうしようもなく醜いって思わない?」


 ちなみに現在僕は意味もなく不幸で、三日に一回くらいは本気で死にたいと考えている。特に悪いことをしているわけではないのに、なんでだろうなーと思ったりすることもあるけど、そういうもんだと諦めて、死んだような目で毎日を送っている。

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