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朝海凛とのデート




 次の日になっても昨日のことが忘れられない。

 頭を掻きむしってみたものの、記憶が消えるわけでもない。


 いや、無理矢理にでも切り替えていこう。

 凛の誤解だけでも解こう。

 出来るかな? 出来る気がしないな。出来たらいいな。


 そういえば、雫先輩やカレンと違って、凛は部活や生徒会で忙しくしているのもあってあまりどこかへと遊びに出かけることが少ない。家に行き来して、一緒に凛の趣味であるお菓子作りとかはしたりするんだけど。


 カレンがはたから見て誰よりも女子っぽい可愛い女の子、雫先輩が女性らしさや魅力にあふれたな綺麗な大和撫子だとするなら、凛はクールな装いであって可愛いや綺麗よりもかっこいいという言葉が1番よく当てはまる。

  その反面、内面は誰よりも女の子している。部屋にはぬいぐるみや少女漫画がたくさんあり、買う服もガーリー系の可愛い服が多い。メルヘンチックな思考もたまに展開することがある。


 今日のデートプランは凛に一任いちにんしたけれど、凛の主導で外に遊びに行くのはあまり経験がなく何だかんだ楽しみである。

 そろそろ出かける準備をして、待ち合わせ場所へと向かうことにしよう。

 


   ***



 電車に30分ほど揺られて到着したのは水族館。県内でも1番大きく、イルカも見ることが出来る。雑誌の県内デートスポット特集なんかでは必ず載っているような場所だ。

 私のほうが早く到着したようで、しばらく近くにある街灯のまえで待ってみる。


「す、済まない。待たせた」


 10分くらいすると駅のほうから凛が走ってくる。

 待ち合わせ時間ほぼぴったりといったところ。


「ぜんぜん大丈夫だよ。それよりも、そんなに急ぐとせっかくセットした髪が乱れちゃうよ」

「気遣いありがとう。優は、今日もか、可愛いな。服もよく似合ってるぞ」


 そういえば、昨日の夜に彼女の姉とメッセージのやり取りをした。

『妹がなんかそわそわしてるんだけど、なんかあった?』

『明日、遊びに出かけるくらいですかね』

『いや、急にデートでの振る舞いとか服装がどうとか聞かれてね(・∀・)ニヤニヤ』

『……』

『デート雑誌とか必死に読み込んでるからよろしくね。服装のコーデとかはあたしも協力するからね。凛の恋人さん』

『……善処します』

『あ、このメッセージは凛にバレないようににお願いね』

『(*`・ω・)ゞ』


 家族公認になってるぅううう!

 

「凛も今日はいつもと違ってきれいめな恰好でよく似合ってるよ。いつもよりさらに大人びて見えて綺麗だね」


 今日の凛は、きれいめ系なシンプルコーデ。正直、いつものガーリー系より凛の雰囲気によく似合っている。いつも後ろでまとめている髪も今日は下ろしていて、一段と大人びて見える。


「あ、ありがとう。頑張ったかいがあるというものだ」

「凛はいつもみたく可愛い感じの服で来ると思ってたから驚いたよ。そんな服も持ってたんだね」

「いや、これは姉から借りたんだ。髪のセットもお願いした。こっちの方が似合うと言われてな」

「そうなんだ、わざわざありがとね。でも、いつもの可愛い系の服も私は好きだよ」


 この一言は余計だったかな?


「いや、優に初めて綺麗だなんて言ってもらえたからな。こういうファッションも勉強してみてもいいかもしれない」

「そ、そう」

「ああ、綺麗って好きな人に言われるのは存外に嬉しいものだな」


 そういって、凛はクスりとほほ笑む。

 惚れてまうやろー!

 今から、私はこの子を振るの? いやいや無理無理。


「じゃあ、行こうじゃないか。そ、その、優の手を繋いでもいいか?」


 不安そうな目でそう問いかけてくる。


「は、はい。喜んで」


 いつもと違う凛にどぎまぎして、居酒屋の店員のような返事になってしまった。

 雫先輩やカレンの件もあって女性相手なのに照れてしまう。

 そして、凛は私の手をとる。


「こうして優と手を繋いでデートするの夢だったんだ」

「可愛い(そうだったんだ、ありがとね)」

「え? て、照れるわ」


 駄目だ、言おうとした言葉より先に可愛いって言葉が口をついて出てしまった。

 なんだこの生き物。可愛い過ぎるでしょ。くっかわ。



   ***



 チケットを買って館内に入る。

 いつもよりテンションの高い凛に手を引かれて館内をめぐる。


「あ、優。この魚、可愛いね。ルリスズメダイだって」


 凛が見つめている水槽の先には青くて小さな魚がたくさん動いている。

 綺麗な色をしていて可愛い。

 凛は小さくて可愛い魚が好きなんだろう。ちなみに、私が好きなのはクラゲ。フワフワしてて可愛いよね。凛は苦手みたいだけど。


 そこから、イルカショーを見たりふれあいコーナーでイルカに触ったりと楽しんだ。

 

 一通り水槽も見終わったところで、館内のカフェで休憩する。


「水族館とはいいものだな、優。ペンギンも可愛かった」

「たまに来てみると楽しいよね。色んな生き物が見れて」


 ミズクラゲとかベニクラゲ、タコクラゲなんかも可愛かった。

 ちなみに、タコクラゲ、クラゲダコ、クラゲイカはいるけどイカクラゲはいないらしい。不思議だね。


 さて、ここまで楽しんでおいてあれだが誤解は解かなければならない。

 

「凛、聞いてほしい話があるの」

「何だ、優?」

「えーとね。あの告白のときのことなんだけど……ごめん! 私は友達として凛が好きっていったつもりで、恋愛的に好きって言ったつもりじゃなかったの……」

「……そうだったのか。薄々、私の早とちりじゃないかと考えていたけれど、本当に私の勘違いだったんだな。こちらこそごめんな……」


 瞳に涙をにじませながら、消え入りそうな声で謝られる。

 静まれ私の罪悪感! 駄目だ、凛の顔を罪悪感でまともに見れない。


「じゃあ、あの2人とも付き合ってないのか?」

「それは、もちろん付き合って__」


 それは、もちろん付き合って……ないとは言い切れませんね。はい。


「付き合ってないといいますか、誤解がさらに深まったといいますか……」

「ん? どういうことだ」


 不思議そうな顔をしている凛。

 違う意味の罪悪感で凛の顔をまともに見れない。

 心境は浮気男のそれである。


「私に想いを寄せられるのは嫌か? このままだと優と一緒に入れなくなってしまうのか?」

「いや、そんなことはないよ。好きって気持ち自体は嫌じゃないんだ。ただ私が女性を恋愛対象に見れていないだけなの」


 好きって気持ちは嫌じゃない。むしろ嬉しいと、一瞬考えてしまうが脳内から振り払う。

 

「では、私にもチャンスが残っているんだな?」

「いや、でも私を好きでいてくれても不毛なだけだよ」

「いや、不毛かどうかは私が決める。それで後悔することになってもいい。私はただ……優と一緒にいる時間が好きで、大切にしたいだけなんだ。恋人になれればいつも通り、いや今まで以上に優と近くに入れると思って告白したんだ。こんな私じゃ……駄目か?」


 たどたどしく伝えられた凛の真っ直ぐな想いが私に突き刺さる。

 駄目じゃないですっ! と言いたくなる気持ちを必死に抑える。

 落ち着け私。素数でも数えるんだ。2、3、5、7、11、17……あれ13もだっけ?

「2人とはまだ何もしてないのか? その、キ、キスとかそれ以上の関係とか」

「い、いや……」

 

 とっさに否定できない私。


「したのか?」

「……はい。でも1回だけ、頬を合わせても2回だから大丈夫、大丈夫」


 凛に嘘を重ねるのも嫌だったので白状する。

 いや、でもまだ3アウトまでは余裕があるからセーフ。私の中ではセーフ。


「私は他の誰よりも優の近くに居たい……だから失礼するぞ。嫌だったら突き放してくれ」


 そういって、ゆっくりと私のほうに近づいて私の顎に手を置き顎クイ。そのまま、物語のお姫さまのように凛に優しくキスをされる。さしずめ、凛は凛々しい王子様。 


「で、ではまた学校でな。キ、キスって想像以上に恥ずかしいものだな」


 顔を真っ赤にして、その場を慌てて立ち去る凛。

 その姿を目で追いながら、起きた事実をうまく自分の中で咀嚼そしゃくできずに固まる私。

 3アウトで私の思考もノックアウト。


 こうして、私を巡る3人の争いが白熱していくのである。

 ……本当にどうしよう。


次に閑話を挟んで1章終わり。

そして、次の物語が始まるのです。


誤字報告ありがとうございます。

助かります。


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